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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一一六話:さらば、聖女灰かぶり伝説

「発光信号を確認。港湾部から出港許可がでました」

抜錨(ばつびょう)

『抜錨。いつでもいけるぜ』

「よし。雷光号(らいこうごう)、出航」

『おうよ!』


 雷光号が、ゆっくりと進み出た。


「続いて、『ステラローズ』も出航しました」

「了解した」


 随伴する形で、アステルの『ステラローズ』が続く。

 船団が違うとはいえ、あちらは旗艦。本来はこちらが随伴するべきなのだが、アステルに言わせると自分たちは今回裏方だから、これでいいのだそうだ。


「本艦周辺、異常ありません」

「了解。そのまま微速前進」

『あいよ。微速前進っと』


 中央の島へと行き交う何隻もの船とすれ違いつつ、俺たちはゆっくりと航行していった。


「ここの船団にも、ずいぶんと長居してしまいましたね……」


 出航作業を見守っていたクリスが、軽く力を抜いてそう呟く。


「でも、終わってみれば色々と得るものがあったと思います」


 発光信号を見逃さないように表示板を見つめながら、アリスがそう答えた。


「そうだな。確かに色々とあった」


 俺も、肯定する。

 たしかに、色々とひどい目(?)にはあったが、理論だけで実用には至らなかった機動甲冑用の自我や、それを魔族や人間とほぼ同じ寸法に納める超高密度実装など、得られたものは多かった。

 なにより、船団ジェネロウスの中枢と、密接な繋がりを得たことが大きい。

 これは『海賊狩り』としていつつの船団を行き来することになるとき、必ず役に立つだろう。


「色々といえば――」


 何故か頬を赤く染めて、クリスが呟く。


「――私、マリウス艦長に肌を見られた回数を数えるの、やめてしまいました」

「あ、わたしもです。もう数えきれませんもんね」

『そこんとこ詳しく』

「聞かんでいい!」


 そもそも、あれは不可抗力であったのだから、数えないで欲しいと思う俺である。

 ……見てしまったことに変わりはないし、否定もしないが。


「あ、そういえばマリウスさん」

「どうした?」

「マリウスさんって呼ぶの、なんかひさしぶりですねっ」

「――そうだな。確かにその通りだ」


 たわいない話であったが、アリスが嬉しそうなのでよしとしよう。そう思う。


「さて……そろそろ船団の端だが――」


 アンとドゥエの話によれば、()()はずだが。


『おおっ、こいつはすげぇ』


 真っ先に感知した二五九六番が、感嘆の声を漏らす。


「これはまた、綺麗に並んでいますね……」


 クリスが小さく唸る。

 船団ジェネロウス、その外周縁部。

 俺たちの進行方向に合わせて、この船団の艦隊が二列縦隊を組、こちらを待っていた。

 そしてその奥には――。


「……これはまた」

「大きいですねぇ」


 目の前に白い戦艦が浮かんでいた。

 その艦様は、クリスの『バスター』より一回り大きい。

 それよりも目を引くのは――。


『なんだ?あの重装甲』


 しかも、独特な傾斜がついている。

 おそらく、長距離からの砲撃に備えているのだろう。


「貴様でも()()のはむずかしいか。二五九六番」

『ああ、難しいな、ありゃ。強襲形態になって斬りつければなんとか……なるかぁ?』


 珍しく、二五九六番が少し弱気になっている。

 確かに、あの装甲だと、現在の雷光号では少し手を焼くだろう。アステルの『ステラローズ』なら速力で逃げ切れるし、クリスの『バスター』であれば小回りのきく接近戦に持ち込めるが、決定打を与えるのにそれぞれ時間がかかりそうではある。


「あれが、『白狼(はくろう)』か……」


 提督聖女座乗の戦艦にして、船団ジェネロウス軍の旗艦。

 艦名はとある聖女に付き従った伝説の幻獣からとったらしい。

 クリスの『バスター』は汎用性を、アステルの『ステラローズ』は高速性を重視していたが、ドゥエの『白狼』は装甲を最重要視しているようであった。

 主な運用は、長距離から射撃を続け、そのまま肉薄しながら撃ち続けるといったところだろうか。

 クリス曰く、制圧前進された彼女でもアステルでも手を焼くといった理由が理解できた。

 俺であっても今の雷光号では手を焼くだろう。


 その『白狼』の艦橋最上部に人影が現れる。

 ドゥエを右に、マリスを左に従えた、アンであった。


「総員・敬礼!」


 ドゥエの声が大きく響く。

 すると、いつの間にか艦橋や甲板に並んでいた乗員たちが一斉に敬礼をした。

 その顔には、見覚えがある。

 アヤカたち――あの灰かぶり(シンデレラ)杯を乗り越えてきた、候補者たちだった。


 そして――。


「我が船団に大恩ある客人よ――」


 聖女アンが、高らかに歌い上げる。


「どうか、この先に航海にも幸運を――!」


 艦橋の最上部とは、本来、測距儀や潜望鏡が備えられ、乗員が立つ場所ではないものだが、ことジェネロウスの旗艦には必要なものであった。

 すなわち――。


 聖女の歌声を艦隊へ聴かせるためにあるのである。


「すごいお見送りですね……」


 アリスが、ぽつりとそう呟いた。


「ああ、いいものを見せてもらったな。雷光号、周囲に気をつけつつ強襲形態へ。しかる後、総員上甲板!」

『おうよ』

「了解です!」

「わかりました」


 雷光号が静かに変形し、俺たちは甲板――雷光号の肩の上に乗る。


「答礼!」


 クリスの号令により、俺たちは雷光号ごと敬礼を返した。

 敬礼したまま微速前進で進む雷光号が、ゆっくりと『白狼』とすれ違っていく。

 その間、俺はアヤカたちやドゥエ、アンと視線を交わし――。

 最後に、マリスへと目が合った。

 彼女は俺に小さく一礼し――。


『どうか、おきをつけて』

『ああ、いってくる』


 敬礼を解いた元候補生たちが、一斉に手を振る。

 まだ軍属でないからできることなのだろう。

 だが、それも悪くない。

 俺たちも手を振ってから操縦室内に戻り、雷光号を航行形態に戻したのであった。


「マリウスさん。わたしちょっと感動しちゃいました」

「私もです」


 アリスとクリスが次々にそういう。

 俺はそれに頷き――。


「さぁ、行きましょう。今度の船団は平和裏に終わるといいわね」

「あ」

「あ」

『あ』


 ……。

 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!

 ハハハハハ! ハーッハッハッハァ!


「やってしまったっ! 最後の最後でやってしまったーっ!?」


 俺の叫びが、海の上に虚しく響く。

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