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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一一五話:惑う心、定まる心

■前回のあらすじ


『あらすじ? 《墜ちた聖女姉妹~魔王はまたもやお風呂を使って屈服させるようです~》ってどうよ』

「頼むからやめろ!」


「ふぅん……あんたがマリスの叔父さん?」

「ああ、そうだ」


 朝。いつも使っていた食堂で、アヤカは俺を上から下までじっくりと眺めると、


「まぁ、悪くはないかな」

「っていうかすごい美形じゃない。エリ、おつきあいを申し込んでみたら?」

「ばっ!? おまっ!? そ、そういうのはお友達からだろ!?」


 魔王とお友達。

 なにげにすごい言葉だと思う。


「三人とも、マリスが世話になったようだな」

「ううん、逆。私達が全員マリスの世話になったようなものだから」

「そうか……」


 アヤカたちは、あの時直接話していたのが俺自身であることを知らない。

 それ故こうして初対面のように話しているわけだが、マリスの身体を借りていたときのことをそう言われると、どこかくすぐったかった。


 そこへ——。


「お、おはようございます……」

「せ、聖女様? いったいどうしたの?」

「あ……あの、今まで通りでいいです。どうかアヤと偽名を名乗っていたときと同じように接してください」

「いや、まぁ……それいいなら、構わないけど……」


 なかなかに難しいことをいっているような気がするアンである。


「それで、一体どうしたの?」

「いえその、昨日身体のコリをほぐすお風呂に入れてもらって――実際楽になったんですけど……」

「いや、めっちゃ疲れているように見えるんだが」


 エリのいうとおり、アンは全身が気怠そうであった。


「えっと、それはですね……」


 アンの視線が、泳ぎに泳ぐ。

 そして俺たちはというと、原因を知っていたので完全に黙殺した。

 ちなみに例の風呂は、アリスとクリスが自ら試験を申し出て、噴出する水流を弱めてある。

 ふたり曰く『ちょっと気持ちいいくらいがちょうどいい』そうだ。


「っていうかさ。なんかまるで夜に激しく攻められ――」

「マイ、それ以上はいけない」


 エリがマイの口をやんわりとふさぐ。

 意味はよくわからなかったが、アンが真っ赤になったところを見ると、そういう方面の意味があるのだろう。


「ところでさ。あの子――あの人?――どうするの?」

「それな……」

「あ、うん……」


 マイの指摘で、エリとアヤカが歯切れの悪い返事をする。

 その視線の先には、観葉植物の鉢の影に隠れているドゥエがいた。


「なんか……悪いことをしてばつが悪い子みたいですね」

「アリスさん、的確すぎです。みんなわかっているんですから、もう少しこう――手加減というものを」

「聞こえているわよ!」


 アリスとクリスのやりとり(たぶんわざとだろう)で、ドゥエが声を張り上げる。

 それによって踏ん切りが付いたのか、彼女は鉢植えの影から飛び出すと、そのままつかつかと歩み寄り、アンの隣にどっかと座ったのであった。


「っていうか、みんなわかっているってなによ。みんなわかっているって」

「事の真相はアンからみんな聞いているから」


 アヤカがきっぱりという。


「だから、全員知ってるぞ」


 エリもこともなげにいう。


「な!」

「麗しき姉妹愛よねー」


 まだちょっと禍根が残っているのか、それとも単にからかっているのか、マイが軽い口調でそういった。


「ね、ね、姉さん!?」

「いやだって、皆さんの仕官にかかわる話ですから、ちゃんと説明しないといけないし」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 そう、そうなのだ。

 今回の騒動の最大の被害者というと灰かぶり(シンデレラ)杯の参加者な訳だが、それに対してアンが下した決断は、試験の合格不合格を問わず、希望者全員を召し抱えるというものであった。

 これによって運動が得意な者はドゥエ麾下の軍務に、歌が得意な者はアン直属の政務に就くことになるという。

 もちろん、希望者は得意不得意関わらず軍務と政務を選べるそうであるが、今のところちょうど半々といったところだそうだ。


「アヤカたち三人は、どちらにいくの?」


 マリスが、興味深げに訊く。


「ん、私たちはアンの方。運動も得意だから近衛のお仕事になるみたいだね」

「いきなりそんな近くに抱えてもらっていいのかって驚いたけどな」

「そうそう。試験受ける前はただの女の子だったのにね」

「いいんですよ。お互い知らない仲ではありませんから」


 アヤカたちにアンはそういう。


「そういえば、アリスとクリスはマリウスに付いていくんだよね」

「あ、はい。元々はそんなに長く立ち寄る予定ではありませんでしたから。皆さんとお別れするのは、ちょっと寂しいですけど」


 と、ちょっと寂しそうにアリス。


「私に至っては、本来の仕事がさらにありますからね。もちろん、みなさんと一緒にいたくないわけではありませんが」


 こちらも少し名残惜しそうに、クリスがそういう。


「それを考えるとあたしらすごいことになってるな……自分の住む船団の軍務筆頭と、他の船団の軍務筆頭、極めつけに政治筆頭と朝ご飯食べてるわけだ……」


 いまさらながらだけどさ。と、エリ。


「それよりもね」

「うん」


 マイとアヤカが、マリスを見つめる。


「マリスも、やっぱりついていくの……?」

「私は――」


 皆の注目が集まる中……。

 マリスは、ゆっくりと口を開いた。




 ■ ■ ■




「相談だと?」

「はい」


 数日前、雷光号(らいこうごう)にて。

 そろそろ出航の準備をしておこうとあれこれを買い込む準備を進めていた俺の許に、マリスが訪れていた。


「構わんぞ。なにが聞きたい」

「私の稼働時間についてです」

「俺が近くにいる場合は事実上無限大だ」

「では、遠く離れた場合は?」


 ――なるほど。


「端的に言おう」

「はい」


 口元を引き締めて、マリスは答える。

 おそらく、緊張しているのだろう。

 急激に自我を発達させていく彼女に俺は口を開き――。


「百年だ」

「ひゃく!?」


 マリスは、目を丸くした。


「ああ。さすがに俺を介して魔法を使えることは出来なくなるが、運動能力はそのままだから安心していい」

「それはありがたいお話ですが――まさか百年ももつなんて。ただの人形なのに……」

「貴様は何か勘違いしているようだからいっておこう。貴様ひとりを作るのに、機動甲冑一体分の費用と資材がかかっているからな」

「えっ!?」


 驚いたように、マリスは自分の身体を見下ろす。


「そ、そこまでしていただいたのですか」

「そうだ。いざというときの隠密役、あるいは今回のように俺の名代として、最大限の機能を発揮出来るようにな」


 単独行動時、俺からの魔力供給が切れて動けなくなっては困る。

 それ故、マリスの設計は高密度を最重要視して造られているのだ。

 自慢するつもりもないし、あまり披露する機会もないが、もとからあるものを小型化、高密度化するのは、俺の得意とするところなのである。


「それで、貴様はどうしたい?」

「私は――」




 ■ ■ ■




「私は、ここに残ろうと思うの」


 マリスは、はっきりとそういった。


「え……」

「えっ」

「ええっ!?」


 アヤカ、マイ、エリがそれぞれ声を上げる。


「私預かりになりますね」


 既に話がいっていたアンがそう補足した。

 つまりは、今後マリスはアヤカ達と同僚ということになるのだろう。


「妥当ね。私のところに来たら戦力過多になっちゃうから」


 ほおづえをつきながら、ドゥエ。


「その……いいの? アリスやクリスと旅していたんじゃなかった?」


 少し心配そうに、アヤカがそういう。


「たしかにその通りだけど、我がある――叔父様が、勉強になるから希望するならここに残っていいって」

「もちろん期限は設ける。残りふたつの船団で『海賊狩り』の承認をうけたあと、体裁を整えてから、また迎えに来る。それまでは……ここで色々なものを見聞きしてくるといい。きっと船旅とは別の新しい発見があるだろう」

「……はい。ありがとうございます、叔父様」


 本当に嬉しそうに、マリスは微笑んだ。

 それはいい。

 それはいいのだが……。

 叔父様と呼び方は、何故か背徳響きがあるのでなんとかしてほしかった。

 もっとも、いまさら変えようがなかったが。


「よかったね。マリス」

「ええ、ありがとう。アヤカ」

「これからもよろしくね。……で、エリはマリスの叔父さんにおつきあいを申し込まないの?」

「す、す、するかぁ!」


 食堂の一角が、明るい笑い声に包まれる。

 それは、この船団が新しい風が吹くのを予感させるものだった。

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