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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一一二話:大逆転のつもりだったか?

「ようやく尻尾をみせたわね」


 短剣を突きつけられたまま、私はそういった。


「ええ、このまま新しい聖女が誕生してしまうと、非常に困りますので」


 短剣を握る手に力を込めて、司会はそういう。

 それはおそらく、いつでも刺せるぞという意思表示なのだろう。


「あんた――私の計画に協力するんじゃなかったの!?」


 すぐ隣で、ドゥエが唸るようにそう問いただす。


「ええ、私はドゥエ様の協力者ですよ。あなたの支配がいつまでも続くよう、精一杯お助けいたしますわ」


 裏切るとは思わなかったのだろう。

 あるいは、それに気付かなかった自分が悔しかったのかもしれない。

 ぎり……と、ここまで聞こえるくらいに、ドゥエは歯を食いしばった。


「それで? ここで私を斃しても、まだクリスもアリスもアンもいるわ」

「ええ、ですから――」


 言い終わる前に、銃声が響き渡った。

 直後、私に突きつけられていた短剣の刃が砕け散る。


「おお、こわいこわい……」


 発泡したのは、クリスだった。

 今まで気付かなかったのだが、練習着の背中側、長い髪で隠れるところに拳銃を隠し持っていったらしい。


「動かないください。でないと、次は身体に当てますよ」


 無表情かつ、冷え切った声でクリスは銃を構える。

 私自身は短いつきあいだが、その雰囲気でわかる。

 あれは、本当に怒っているのだ。


「おやおや、ですがその程度で――」


 言い切らせる前に、私は大剣の柄に付いている目釘部分を強く押し込んだ。

 それによって、練習用の刀身が鞘となって抜け落ち――中から長剣大の刀身が現れた。

 もちろん、真剣である。


「こちらが支給されたものとなんか形が違うと思ったら、そんなものを仕込んでいたんですか」

「ええ。いざというときのためにね」


 大剣あらため長剣を司会に突きつけながら、私。

 実際有事は起きたのだから、その判断に間違いはなかったのだろう。


「でも残念。それは私には通用しませんよ?」

「試してみなければ、わからないわ」

「そんなことありません。ほら」


 そういって、司会は迷わずに私の刃を手で掴むと……。

 自らの喉に、突き刺した。


「なっ――!」


 全員がその場で硬直する。

 だが――あるべき出血がない。

 これは……。


「ね、通用しないでしょう」


 喉を自ら貫いたというのにまったく声音を変えずに、司会はそういって笑った。

 本来ならば、喋ることもままならないはずなのに。


「あなた、何者なの?」

「ふふふ……」


 返事の代わりに、司会の身体が急に半透明になった。次いでその輪郭が崩れ——まったく別の生物になる。

 その形は……。


「クラゲ——群体のひとつか」

「あら、どこかで他の私と出会いましたか。これはますますいけませんねぇ」


 そういって、司会改めクラゲは自ら水の中に飛び込んだ。

 私自身は出会っていないのだが、司会にとってはどうでもいい情報であっただろう。


「ドゥエ、この水はもしかして――」

「ええ、海に通じているわ。そこを伝って逃げ――」


『いいえ、逃げませんよ?』


 どこからともなく、声が響いた。


『知られたからには、見られたからには、そしてこちらの想定を外れたなら、それを正さなくてはなりません――そう、こうやってね』


 試験会場のすぐ側にある海から、盛大に水柱を立ち上げ——巨大な人影が姿を現した。


「な、なんなのよ! なんなのよあれ……」


 ドゥエが絶句する。


「海賊? でもあんな人型の海賊なんてみたことがない!」

「機動甲冑――ですね」


 私の近くに戻ったクリスが、冷静に分析する。


「でも、大きくないですか?」


 と、アリス。

 記録によれば、彼女は以前当時の機動甲冑を見たことがあるのだ。

 その部品は今、私の身体の一部になっている。

 そして、アリスの言うとおりその機動甲冑は通常の五倍ほどの大きさがあった。


『おや、お詳しい? ですが――』


 大型機動甲冑が、剣を振り上げる。


「――! 全員、散って!」


 直後、巨大な剣が試験会場の中心部――私たちが今の今までいたところ――を粉砕した。

 しかし、その場にはもう私達はいない。

 クリスとアステルは独自に離脱し、私はアリスを、ドゥエはアンを抱えて脱出していた。


『意外とすばしっこいですね。ですが――』


 大型機動甲冑が剣を横薙ぎに何度か振るった。

 そのたびに私たちはその場を跳んだり、或いは伏せながらそれを避け続ける。


「どうするのよ!?」


 何度か剣を避けた後、ドゥエが私にそう叫んだ。


「どうって、あれを撃破するしかないわね」

「どうやって!? くやしいけれど、艦が――少なくとも大型艦がないと立ち向かえないわよあれ!」

「そうね。でも……」


 あれに勝てる存在を、私は知っている。

 さらには、すぐ近くに来てくれていることも。


『うーん、じれったいですねぇ。そろそろ、本気を出しましょうか!』


 そう言って、大型機動甲冑が両手で剣を構えたときである。


『そうか。では、みせてもらおうか』


 どこからともかく、その声が響いた。

 クリスが、そしてアリスが顔を輝かせる。

 そして――。



 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!

 ハハハハハ! ハァーハッハッハァ!



 その笑い声が、辺り一面に響き渡った。



 □ □ □



「ふん。よくもまぁ、ここまで再現したものよ」


 雷光号の操縦席で、俺はひとりごちた。

 だが、おそらくこの大きさは威圧面以上に、ある目的がある。

 これだけの大きさでなければ、内部の機構を再現できなかったのだ。


『解析終わったぜ。あれ、あの大きさで出力がオイラよりずっと下だわ』

「だろうな」


 二五九六番の報告に、俺は頷いた。

 であれば、あとはどうするかだ。

 図体はこちらより大きいので、下手に撃破すると足下にいるアリスたちに被害がおよびかねない。


 ならば――。


『ば、馬鹿な! 人間が機動甲冑をまねても、海賊の二の舞ですよ!』

「そうだな。その通りだ」


 それはいいから、こちらの思考を乱さないで欲しい。

 だが大型機動甲冑はそんなことを斟酌するはずもなく、上段から剣を振り下ろす。

 それに対し雷光号は剣を片手から両手に持ち直し、真っ向から受け止めた。


『あっは! やっぱり人のまがいものではその程度ですね!』


 実に楽しそうに、大型機動甲冑が剣を押し込んでくる。

 対して、雷光号はじりじりと圧されていく。


「そうだな。しょせんはまがいものか」

『それな』


 二五九六番が同意する。


「――そういうわけだ」


 操縦席に深く座り直して、俺は宣言した。


「演技はもういい。押し返せ」

『おうよ!』


 雷光号の背後から、水蒸気が立ち上った。

 おそらく、二五九六番がわざとやったのだろう。

 それと同時に、いままで守勢を見せかけていた雷光号が、徐々に押し返す。


『……えっ?』


 慌てたのは巨大機動甲冑の方だ。

 その自重を利用して、全力でこちらを抑えようとする。


「一度引いて、転びかけたら一気にはじけ」

『まかせな!』


 二五九六番が、言われたとおりにする。

 それだけで大型機動甲冑は均衡を崩し、何歩か後ずさりをした。

 ――これでよし。

 これなら、なにをしてももうアリスたちに被害はおよばない。


『な、な、……なんですこれ!?』


 大型機動甲冑から動揺した声があがる。


『この出力差、ありえない! まさか、まさか直接魔力を機関に流し込んでいる!?』


 そのまさかだ。


『だとしたらあなたは……もしや――!?』

「雷光号、それ以上しゃべらせるな」


 でないと、後で色々ややこしいことになる。


『あいよ!』


 二五九六番は俺の意図をはっきりと理解し、


『は、速い――』


 一気に突進し、片腕を斬り飛ばした。


『おのれ!』


 片腕だけになった機動甲冑が、果敢に突進しようとする。


『大将、どうする?』

「知っての通り、機動甲冑は雷に弱い」

『オイラもそうだもんな』

「ゆえに雷の魔法――といいたいが、表面は対策されている恐れがある」

『ああ……雷は普通にあるもんな。今のオイラもそうだし』

「だから、内部に雷を叩き込めばいい。ついでに内部にいるクラゲも無力化出来よう」

『なる。でも、どうやってやるんよ?』

「こうやって、だ」


 雷光号の持つ剣が、雷の魔法を帯びた。

 紫電が刀身全体に走り、あちこちで小さく爆ぜる。

 魔法剣。

 元々は魔族が白兵戦時に己の武器を強化するための魔法だが、それを雷光号に応用したのだ。


「一応操縦席のある部分を解析してくれ。直接突き刺すのは、やはり目覚めが悪い」

『あいよ』


 幸いにして、その構造は通常の機動甲冑と大差なかった。


「よし、いけ!」

『おう! こいつで、仕舞いだっ!』


 雷光号が弓を放つように剣を引き絞り、機関最大出力で踏み込みながらの突きを放つ。

 操縦席にいる俺ですら思わず身構えるほどの加速がかかる中、雷光号の剣はやすやすと大型機動甲冑の腹部を貫き――、


『あばばばばばば!?』


 その剣に宿った紫電が、内部を焼き壊したのであった。


『ば、馬鹿な……』


 全身から黒煙を噴き上げ、大型機動甲冑が膝から崩れ落ちる。


『ぃようし!』


 雷光号が、剣を天に掲げて勝ち誇る。

 その切っ先に丁度中天に達した日の光が反射して、星のように(きら)めいた。


「よくやった」


 操縦席に浅く座り直して、俺はそう労った。

 下ではアリスとクリスが抱き合って喜び、マリスがまぶしそうに見上げている。

 あとは、まぁ……なんとかなるだろう。

 唖然とするアンとドゥエから視線をそらして、俺はそう決め込んだのであった。

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