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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一一〇話:決戦! 最終選抜試験

「な、なんですかこれ……」


 クリスが、呆然とした様子でそう呟いた。

 最終選抜試験会場。

 野外劇場をひとつ、急ごしらえで改造したというそれは、一見すると巨大な人工池に浮かぶ闘技場のように見える。


 問題は、その闘技場の形であった。


 普通の闘技場は円形、または四角形だが、ここの闘技場、なにを考えたのか知らないが格子状になっている。

 格子のひとますはある程度体力に自信のあるものなら飛び越えられるほどになっているが、格子自体を構成する通路は、ひとり分ぐらいの幅しかない。

 つまり、隊列を組んで一斉に攻撃する場合は格子を飛び越えるしかないわけだ。

 そしてそれぞれの格子は、水に満たされており、その格子の中央には、例の武器――柄の前後に刃が付いているもの。もっとも、練習用――を提げたドゥエがひとりたたずんでいる。

 そして俺たちは、その格子周辺を取り囲むように配置されていた。


「――なるほど、そういうわけね」


 そこで、運営側の意図に気付く。

 この形なら、斜めに進むには格子を連続で飛び越えるか、じぐざぐに進むしかない。

 そして通路はひとり分。つまり、ドゥエが同時に攻撃される心配は無いわけだ。


 だが――。


「問題ないね」


 近くにいたアヤカが不敵な表情を浮かべてそういった。

 手にしているのは、練習用の長槍だ。

 アヤカだけではない。俺たち『連奏トライアルフリート』とドゥエ以外の全員が、長槍を手にしている。


『さぁ、いよいよはじまります最終選抜試験! 聖女並びに各候補、気合いは充分のようです』


 ここで、いつもの司会が実況解説を始める。


『敗北条件は、単純です! 武器を水に落とすか、あるいは本人が落ちるか――それだけ!』


 なるほど、格子から水面までそれなりの高さがあるから、そう簡単には這い上がれないだろうと思っていたが、落ちたら終わりというわけか。


『それでははじめましょう。灰かぶり(シンデレラ)杯最終選抜試験――開幕です!』


 格子状の闘技場にいた全員が、武器を構えた。


「私達は、予定通り露払いを務める」


 長槍を構えたアヤカが、俺に耳打ちする。


「後をよろしくね、マリス」

「……ええ」

「いくよ! みんな!」


 アヤカの号令により、第一陣が一斉に駆けだした。

 口ずさむのは、聖女が唄ったとされる戦の歌。

 さすがはいままでの選抜試験を乗り越えてきただけあって、格子の隙間を難なく飛び越え、ドゥエに殺到する。


「いまっ!」


 アヤカの号令により、全員が一斉に槍を突き出したのだが——。


 吼えるように、ドゥエが歌い出した。

 そしてまるで東の抜刀技術のように双刃剣を振り抜く。

 それだけで、第一陣が半壊した。

 あるものは均衡を崩して格子から下の水に落ち、またあるものは長槍をへし折られるか、あるいはたたき落とされたのだ。


「ひいてっ!」


 かろうじて弾かれるだけで済んだアヤカが号令をかけ、生き残り達はぱっと散る。

 その散開具合は、とても数日の間に習得したとは思えないくらい、見事なものであった。


「そんな、一瞬でどうして……」


 アリスが息をのむ。


「槍が到達するわずかなずれを見抜いたのよ。後は一番早い槍から、一筆書きの要領で斬ればいいだけ」

「え、でもそれって——」

「口で言うほど、簡単なことじゃないです。鍛錬に鍛錬を積み重ねて、やっとできるかどうかって話ですよ」


 俺の解説をクリスが引き継いでくれた。

 確かにその通りで、そんな芸当ができるのは封印される前の俺の軍でも、片手で数えるほどしかいなかったくらいだ。


「なんのまだまだ! 第二陣、いきますよ!」


 他の組の代表による号令で、第二陣が動く。

 だが、その結果は第一陣より悲惨だった。

 第一陣が一撃で半壊してしまったのを目の当たりにして、一斉に槍を突き出す動作に、乱れがあったのだ。

 無理もない。

 何故なら彼女達は兵士では無く、歌と踊りでもって聖女を目指した、少女たちであるのだから。

 だが、その隙をドゥエが見逃すはずが無く、まるで大砲の一撃を食らった城壁のように、第二陣は崩壊した。


「ちっくしょー! あとはまかせたぞーっ!」


 槍をたたき落とされた上に、自身も格子から体勢を崩してしまったエリが、落下しながらもそう叫ぶ。


 ——正直、このような作戦は好みでは無い。

 が……効果がある以上、そして望んでこの作戦に参加している者がいる以上、俺はそれを止めるわけにはいかなかった。


「ねぇ、相談なんだけど」


 俺のところまで下がったアヤカが、そう提案してくる。


「次の三陣、ふたつにわけた上で波状攻撃にしてもいいかな」

「——損耗率、上がるわよ」

「うん。それで構わない。あの簒奪聖女の体力がその分減らせるのなら」

「……わかった」

「よし! 私が三陣で行くから、マイが四陣をお願い」

「うん、わかった。マリスさん」

「なに?」

「勝ってね!」

「……ええ」


 かくして、第三陣と第四陣は一斉に攻めるのではなく、各人が四方八方から押し寄せる形になった。

 これにより、ドゥエが双刃剣を振るう回数は増えたが相対的に損耗は跳ね上がり――。


「……まぁ、全力は出し切ったかな」

「あー、ちょっと悔しい!」


 アヤカとマイが、脱落した。

 そのふたりだけではない。第三陣と第四陣は、文字通り全滅したのだ。


 風車のように双刃剣を振り回し、ドゥエが鋭く息を吐く。

 その間隙を突くかのように――。


「一緒に行きますか?」


 クリスが、こちらを見ず――代わりに、まっすぐにドゥエを見つめ――そういった。


「いいえ。こっちの攻撃範囲が広いからクリスに迷惑をかけるわ」


 俺の大剣二刀流では、クリスの立ち位置を頻繁に変えないといけなくなるだろう。

 無論ドゥエもそれを読んで、クリスに対し積極的に立ち位置を変えてように立ち回るに違いない。


「それもそうですね。では、行きます」


 クリスが、姿勢を低くして――跳んだ。

 その獲物は、いままでの長剣と短剣の二刀流ではない。

 短剣二刀流。

 つまりは、軽量化による手数の増加と体力消費の削減。

 代わりに間合いが短くなり、相手に対してより接近しなければならなくなるが、クリスはそれを選択したのであった。


 口ずさむのは、船団シトラスの行軍歌。曰く、それが一番歌いやすいらしい。


「――ちっ!」


 一瞬だけ舌打ちして、ドゥエも迎え撃つ姿勢を取る。

 直後、小気味の良い音がまるで鈴のように連続して鳴り響いた。

 迷うことなくドゥエの懐に飛び込んだクリスが、縦横無尽に短剣二刀で責め立てたからだ。

 だが、ドゥエはドゥエで、双刃剣を風車のように振り回し、その斬撃をことごとく跳ね返す。

 だが――。


「このっ!」


 明らかに前回の激突よりも速く、それでいて鋭さを増したクリスの連撃に、ドゥエがはじめて圧された。

 しかし、クリスもクリスで決定打に欠けている。ドゥエなら一撃で済む押し込みに対し、十数撃の斬撃が必要だからだ。

 このままでは、鍛えたとはいえクリスの方が体力切れになる。そう危惧したとき――。


 どこからともなく、飛び道具が飛んできた。

 それはクリスとドゥエの足下に突き刺さり、危険を察知したふたりはお互いにひとます分飛びすさる。

 その、突き刺さったものは――。


「「――薔薇の花!?」」


 クリスとドゥエが同時に叫ぶ。


「あ、あそこです」


 最後尾で戦況を見守っていた聖女アンが指を向ける。

 そこ――会場の観客席よりさらに上にいたのは――。


「故あって身分は明かせませんが――」


 手にするのは、練習用の細身の剣。

 そしてその身を包むのは、ぎりぎりで卑猥という言葉を避けた露出度の高い水着。

 深紅のマントを羽織り、そして顔の上半分を隠す仮面を着けている。

 その姿は、まちがいない。


「仮面の騎士、義により助太刀致しますわ!」


 おもいっきり、アステルだった。



■今日のNGシーン


「私達は、予定通り露払いを務める」


 長槍を構えたアヤカが、そういった。


「後をよろしくね、マリス」

「……ええ」

「じゃあ、残していこうか。私達の足跡!」

「ちょっとまて」

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