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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第一章:はじまりの小島

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第十一話:決戦

「遅くなった。状況は」

『とりあえず、港を出ながら説明するぜ。いいよな?』

「それで構わない」


 港に到着したのは我々が最初ではなかったが、いち早く、出航する。

 船自身が自分の意思で動けるのだから当然といえば当然なのだが、周囲の船上に居たものは、みなこちらを見て唖然とした表情を浮かべていた。


「警報では海賊と言っていたが、お前と同じ機動甲冑か?」

『いや、ちげぇよ』


 二五九六番は、即座に否定した。


『機動甲冑って呼び名の意味は、いまもよくわかんねぇけど、アイツらがオイラたちと似た種族だってのはわかってる。それでも、一緒にしてほしくねぇな。オイラは」

「それは、どういう——」

『大将、アンタまだアレをみたことないだろ』

「あ、ああ……」

『大将なら、みりゃわかるだろ。アレがなんなのか」


 機動甲冑と似ていて、それでいて一緒にして欲しくない……?


 まさか——まさか!


 俺は魔力を編み、仮装生物を作り出し、外に放つ。前と同じく、偵察用のものだ。

 疑念は、早く確信に変えた方がいい。

 敵影はすぐに見えた。

 まっすぐに、こちらに向かっていたからだ。

 その姿は——姿、は——。


「なんだ……あれは」


 一言でいえば、醜悪だった。

 ありとあらゆる部品を寄せ集めて構成された、つぎはぎの装甲。

 砲塔の体をなしているのに、砲門ごとに口径も砲身の長さも異なるという愚を犯した武装。

 そして上半身は人型で、下半身は船という均衡を欠いた体型。

 変異どころではない。

 アレは、人間側の機動甲冑。その成れの果てだ。

 それらが、赤黒い霧を吐きなら、侵攻している。

 予感は、最悪の形で的中してしまった。


「あれです……」


 アリスが沈痛な声で、呟く。


「——あれが、わたしの生まれた船団を襲ったんです」


 それで全ての合点がいった。

 知性のある変異した機動甲冑は、決して船団を直で襲わない。

 それは、彼らにとって効率が悪いからだ。

 だが、目の前に迫るつぎはぎだらけの連中には、知性のかけらもない。

 まるで目の前のものを破壊し尽くし、自らの燃料源にしようとしているかのようだ。

 だが——。


「何で動いているんだ、あれは……」

『わかんね。ただ、近づくと嫌な気分になるな』


 もともと機動甲冑は、装着する者の魔力で稼働するように作られていた。

 それを強奪したあの忌々しい勇者は、気合いなどという得体の知れない概念で動かしていたが、流石に他の人間は動かすことができず、代わりに蒸気機関を無理やり積み込んでいたはずだ。

 我々魔族側の機動甲冑が長い時を経て装着者を失い、魔力の基本要素である構成力——生命や物体を形作る力。それらを壊すことによって放出される——を吸収しながら動いていたのなら、蒸気機関という代替不可能なものを積んでいた人間側の機動甲冑は……。


『ときおりな、肉っぽい部品を持っている奴がいるんだよ。あれって多分——』

「いまはやめろ」


 すくなくとも、アリスのいないところで話せ。

 言外に匂わせたそれに、二五九六番はちゃんと気付いたらしい。


『——嬢ちゃん、悪かった』

「いえ、わたしは大丈夫ですよ」


 もう、大分前のことですから。

 気丈にも、アリスはそう言う。


「一旦戻るか?」

「いえ、本当に大丈夫です……! 今はアレが船団に近づけないようにしましょう!」

「そうだな。その通りだ」

『ああそうだ。大将、やろう。こいつら、一隻たりとも近づけちゃならねぇよ』

「もとより、そのつもりだ」

『よし、そんじゃ……』

 俺の座る操縦席の隣に、別の座席が生えて来た。

『嬢ちゃんはそこに座んな』

「あ、はい。ありがとうございます!」

『んでもって、よく聞けよ。嬢ちゃんの席の前に、このあたりにいる船の位置を全部だす。んで、そいつらがチカチカ光ったらそいつは発行信号だから、順次読み取ってくれ。信号装置はその隣な』

「わかりました!」


 なるほど。急ごしらえの通信士席か。確かにこれなら、今までのように外の様子を見てから発光信号を送るのに比べて、効率よく状況をさばくことができる。


「どうだ、うまく使えそうか」

「はい。急に生えてきたからびっくりしましたけど……味方の護衛艦隊、動き始めました。特に発光信号はありません」

『ようやくか。人間の船ってやつは遅ぇな』


 呆れたかのように、二五九六番がぼやく。


「アリス、聞きそびれていたが、普通、船の動力には何を使っている?」

「ええと、たしか蒸気機関ですね。あとは帆船もあります」

「帆船だと?」

「はい。操作は難しいですけど、燃料がいらないので使いようによっては便利だとか……」

「なるほどな。では、彼我の戦力は?」

「私たちを抜いて、味方は蒸気船が五。後方支援と思しき帆船が三です。それに対して海賊は先遣隊と思しき集団が五、後ろに控えている——というより遅れてついてくるのが四……いえ、五です」

「全部で十か。陣形は?」

「こちらはわたし達に引っ張られるかたちで一直線になっています。それに対して、相手は先遣隊も本隊も真横に並んでいます」

「ふむ——我々抜きでの、勝敗は?」

「かなり……厳しいと思います。数は互角ですけど、数隻は犠牲になると……」

「そうか……」


 一瞬、黙考する。


「二五九六番」

『おうよ』

「——全部、やれるか?」

『出し惜しみなしなら、行けるぜ』


 二五九六番が『笑った』。声に獰猛な笑みを混ぜたのだ。


「よし。やろう」


 操縦席に座りなおし、俺は宣言した。


「発行信号。『我突出す。援護無用』」

「了解しました。返信来ました『貴船の奮闘を祈る』」

『へっ。やる気ねぇな。大将、嬢ちゃん、席に安全帯があるだろ。そいつをつけとけ。一気に飛ばすかんな!』

「飛ばすって——きゃっ!?」


 座席に押し込まれるような力を感じた。急加速したのだ。


『大将、どう攻める?』

「こちらの機動性を武器にする。相手の隊列をつっきり、背後から撃て」

『あいよ!』


 機動甲冑はもともと、正面装甲が一番厚く、背面装甲が一番薄い。

 これは、俺が封印される前まで大砲はあくまで牽制用で、主に使う武器は剣や槍で真正面から戦うという運用方法であったためだが、それは改造する前の二五九六番にも受け継がれていた。

 ならば、あのおぞましい人間の機動甲冑も、同じであろう。


『撃ってきた! 避けるぞぉ!』


 まっすぐだった軌道が、ジグザグになる。周囲には着水音と共に、水柱が林立するが、ひとつたりとも当たってはいない。


『抜けるぞ!』


  同時に重低音が船内に響く。弾丸が装填されたのだ。


『抜けた!  後方左右にひとつずついるぞぉ!』

「両方共に、撃て」


 迷わずに、俺は命令した。

 直後に轟音が響き、火柱が立つ。

 的を外した時にできる水柱ではない。

 直撃したときに上がる火柱だ。


「反応消えました! 二隻共撃沈です」


 周囲の光点を確認しているアリスが、そう報告する。


「左に回頭。今度は真横からくらいつけ」

『あいよ!』


 船内が急旋回によって、傾く。二五九六番が安全帯を用意していなかったら、振り落とされていただろう。


『真正面に敵さんの土手っ腹、ドンピシャだ!』

「撃て」


 今度は真正面だったので、敵が火球と化すのがよく見えた。

 あと、七隻。


「ジグザクにくらいつけ。そのまま攻めるのか、背後の本隊を狙うのか、わからないように混乱させろ」


『まかせな! んで、実際は?』

「先遣隊を全滅させる」

『よっしゃあ!』


 敵方にも多少は知性があると踏んでの指示だったが、結果は予想通りだった。

 相手はやや判断が鈍り、俺たちはその間に一隻を沈め——。

「一隻、急速接近!」

「なに!?」

『野郎、撃ちやがった! 味方を巻き込む気かよ!?』


 沈みゆく一隻の背後から、もう一隻が撃っていた。

 その砲弾は、本来の味方を突き破り——。


『回避間に合わねえ、弾くぞぉ!』

「両耳を抑えて口を開け!」


 直後、ものすごい音が響いた。二五九六番の装甲に直撃したのだ。


「ぁっ……!」


 アリスが悲鳴を押し殺す。


「すまない、次は防音にも配慮する!」


 俺でも今のは少しこたえた。人間であるアリスの負荷はいかばかりか。


『こんにゃろ……!』

 二五九六番が自発的に主砲を叩き込む。

 これで、先遣隊は全滅した。

 残りは、本隊の五隻。


「敵、密集しました! 同時に進路を変更。船団ではなくこちらに向かってきます」

『大将、どうする?』

「五倍の火力でまとめて叩けばいい。二五九六番、お前は一番遠くの敵を狙え。アリス、ここを任せた」

「え?」

『え?』


 アリスと二五九六番が同時に声を上げる中、俺は席を立って甲板に出る。


「フン……」


 この目で直接見ても、醜悪なこと極まりない。


 距離を確認する。

 味方の船はこちらをまだ目視出来ていない。

 そして敵はまもなく()()()()()()()()


「二五九六番、合わせろ。稲光が見えたら、主砲を撃ち込め」

『お、おう! ってなにをする気だよ?」

「なにをする気だと? お前もくらったからわかるだろう?」


 両手を天にかざす。


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!

 ハハハハハ! ハーッハッハッハァ!


 ——前にも言ったが、機動甲冑は雷に弱い。

 が、前に二五九六番に打ち込んだのはあくまで屈服させるために手加減したものだ。

 本気で打ち込むと、どうなるか。


 紫電が手の上に集まった。

 雷の萌芽はよっつに分裂して、緩やかに回転を始める。

 それに合わせて、二五九六番が発砲した。

 あとはそれの着弾に合わせて——。


「沈め、紛い物どもよ」


 それひとつが千年ものの大樹に匹敵する巨大な雷が四本、それぞれに落ちた。

 ほぼ同時に、二五九六番の砲弾が命中する。

 結果——。


「ちと、強すぎたか」


 派手な爆発が起き、大きな波が押し寄せる。

 今回、封印されてからはじめて全力で魔法を撃った。

 これが、これからの行く末を良い意味でも悪い意味でも変えていくことだろう。

 願わくば、良い方向に転がってくれることを祈りたい。


■今日のNGシーン


「遅くなった。状況は」

『三軒先のお姉ちゃんが水浴びしてる』

「映像繋げ」

『おう』

「おう、じゃありませんっ!」

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