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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一〇九話:真・同盟締結!

「あの……」


 アリスが不安げな顔で、俺たちをみた。


「バレてませんかね、これ」


 その手のことには慣れているのだろう、わりと平然なクリスが、そう訊く。


「バレているだろうな……」


 俺はため息をついて、そう答えた。

 まぁ、こうなることはある程度予想がついていたが——それにしても早い。

 そして——。


「致し方なし。かくなる上は——」


 教官が、晴れ晴れとした表情でそう言った。


「腹を切る」

「やめてくださいっ!」


 最後に、聖女アンがそう叫んだ。



 ■ ■ ■



 事の次第は、こうだ。

 教官がこちら側について、二日後。

 俺たち灰かぶり杯の参加者は全員、大講堂に集められていた。


 そこにいるのは簒奪聖女ドゥエ、そしてその隣にもはや恒例となった司会者がいる。

 そして、司会者は拡声器を用意して大きく息を吸い込むと――。


『それではー! 第四回選抜試験の詳細を発表いたしまーす!』


 晴れやかな笑顔で、そう宣言したのであった。


『いよいよ最終戦、次期聖女を決めるときがやってきました!』


 実際には、ドゥエの支配権を確立させるためのものなのだろうが、いけしゃあしゃあとそこまで言えるのは本当にたいしたものだと思う。


 ひとつ、引っかかっているのは――。


「あの司会な、どこの所属なのかはっきりとしないのだ」


 という、教官の情報だった。

 曰く、軍属でもないし、島の管理――つまり政治の出身でもない。

 ドゥエが聖女を簒奪し、灰かぶり(シンデレラ)杯を開始するほんの短い間に、突如として現れたのだという。


 だとすれば、俺たち以上に怪しい――なにしろこちらが怪しいのはよくわかっているので――事この上ないが、問題は『どこからきたのか』だ。

 クリスのシトラス、アステルのウィステリアでないことは確定しているので、まだ訪れていない船団、ルーツかフラットのどちらかだろうか。

 いや、この南の海域一帯の船団から来たのならまだいい。外の海域から来たのだとしたらかなりやっかいなことになる。


『さて、気になる試験内容ですが――』


 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、華やかな笑みを浮かべたまま、司会はそう続ける。


『これまでのみなさんが培っていただいた、全力を出していただきます! すなわち――』


 ……その内容、教官からすでに漏れている。

 第四次選抜試験の内容は課題曲、自由曲、そして聖女が指定した三曲を全員で歌うというものだ。

 最終試験というには少し地味だが、三曲目の聖女が選ぶというのが肝要で、そこでいくらでも評価を足し算引き算できるわけだ。

 もちろん、対案は編み込んである。

 稽古内容を歌と踊りに集中させ、歌が得意なアリスとアンを歌に、踊りが得意なクリスと俺(比較的、だが)は踊りに特化させることで一点突破を狙えるようになっている。あとはドゥエの課題曲に対して事前に情報を手に入れられれば完璧だろう。

 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、司会は確かに愉悦の笑みを浮かべ――。


『全員参加の総当たり! 歌と武闘の大舞台です!』


「全員参加の総当たり――」

「歌と武闘の――」

「大舞台――?」


 アリス、クリス、そして俺でそう呟く。

 ——試験の内容が、違うのだが。


『簡単に言うと、自由に歌いながら、闘ってもらいます! おっと、ただの総当たり戦ではありませんよ?』


 思わず呆然とする俺の心を読んだかのように、司会が再び愉悦の笑みを浮かべて言った。


『『全員参加』、つまりみなさん同時に闘技場にあがってもらいます!』


「待ってください、それっておかしいです」


 クリスが、小さく声を上げる。


「それって、私達が一斉にドゥエさんを襲ったら終わりませんか?」

「……終わるな。だが——」


 よほど余裕があるのだろう。

 司会の後方にいるドゥエは眉ひとつ動かしていない。


『それでは、最終試験は四日後! みなさん、ちゃんと()()してきてくださいね?』


 最後にそう言って、司会は拡声器を降ろす。

 その視線は、確かに俺の方に向いていた。



 ■ ■ ■



「というわけで——」


 さばさばとした表情で、教官はそう続けた。


「腹を切らせてくれ」

「だから駄目ですって!」


 かなり本気で、聖女アンがそうたしなめる。


「それ以上自害しようとするなら、今の私に権限はありませんけど『宣告』を使いますからね!」

「そ、それは恐れ多すぎる……わかりました。自重致しましょう」


『宣告』とは、聖女のみが発布できる法であるらしい。

 この場合は、いかなる場合も自害を禁じるとかなのだろう。

 それよりも……。


「このふざけた点数表……なにを考えているのかしら」


 点数表とは、その組、あるいは個人を倒したときに与えられる点数を指す。

 要するに、周りの組を全て倒せば最下位でも逆転できるというわけだが、その内訳が酷かった。


 聖女:10000点

 連奏トライアルフリート:800点

 トライアド・プライム:700点

 プログレッシブ・パッション:600点

 ……


 以下、最下位の組まで100点ずつ下がっていくのだが……もうわかるだろう。

 聖女を倒せば、他の組を全て倒さなくてもその場で優勝が決まるわけだ。


「なにを考えているんでしょうね。これじゃ自分を狙えと言っているようなものじゃないですか」


 クリスが呆れた様子でそういう。


「そうだけど、逆に言うと聖女が倒した組がその場で優勝よ? どんなに強固な同盟を組んでいたとしても、自分に優勝条件が転がり込んできたら——」

「あっさり転びかねないと」

「そういうこと」


 クリスとふたり、眉間にしわを寄せて考える。

 つまりこれは、組同士を疑心暗鬼に陥らせるドゥエの罠というわけだ。

 これに対する根本的な対処方法は、ない。

 それ故俺とクリスはここまで悩んでいるわけだが……他の組でも、同じ状況に陥っていることだろう。

 いったいどうしたものか――。


「あの、みなさん」


 そこへ誰かに呼び出されて外に出ていたアリスが戻ってきた。


「各組の代表が集まってます。マリスちゃんと相談したいことがあるって」


 ——来たか。


「わかった。すぐにいく。みんなもついてきて」




 集合場所、食堂の一角には、すべての組の代表が集まっていた。


「急に呼び出してごめん、マリス」


 現行3位のライアド・プライム代表、アヤカがそう声をかける。


「いいのよ。それより本題を」

「ああ、うん。それなんだけど……」


 いつものは言いたいことをはっきりというアヤカが、言葉を濁らせる。


「今回の選抜試験のことでしょう?」

「うんそうなんだけどね——」


 そうアヤカは食堂の奥に目をやった。そこには、俺たちより離れた場所で、同じ組のマイとエリが様子を伺っている。

 その二人に目配せをして——ふたりが頷いたのを確認し、アヤカはまっすぐにこちらをみた。


「私達はね、マリスに次の聖女になってもらおうって思う」


 ……!?


「え、いや、ちょっとまって」

「どうしたの? マリス、聖女になりたいんじゃ無いの?」


 場の空気が疑問の色に染まっていく。

 まずい。下手に受け答えすると疑問が疑念になる。

 ――であるならば。

 俺も、先ほどのアヤカと同じように背後を振り返った。

 真っ先にアリスが、そのすぐ後でクリスが頷く。

 そして一呼吸遅れて、アンも頷いた。

 俺も頷き、アヤカたちに向き直る。


「私は——マ・アヤに聖女になってもらいたいと思っている」

「アヤさん? たしかに歌も踊りもすごく上手いけど……なんで?」

「それは、私がある人の手助けのためにいるから。――アヤ?」

「はい。もう、隠しきれませんよね……」


 そう呟いて、アンが前に進み出る。


「皆さんに、謝らなければならないことがあります」


 場がざわつき、疑念の色が浮かび上がった。

 だが、アンは怖じ気づくことなく、いままでうなじあたりで縛っていた髪の紐を解いた。


「アヤさん」


 機転を利かせたアリスが淡い桃色の紅を渡した。

 アンはそれを受け取り、唇に薄く塗る。


「あっ――!」


 誰かが、驚きの声を上げた。

 そう、それだけで雰囲気ががらりと変わったのだ。

 目の前にいるのは、地味で周囲の様子をうかがっているばかりであったマ・アヤではなく――。


「今まで、皆さんに偽名を通していたことを謝罪致します。私はアン。船団ジェネロウスの筆頭、聖女アン・ブロシアです」


 俺たちを除くその場にいた者が、総立ちとなった。


「嘘でしょ――」


 アヤカがそう言うなり、絶句する。


「ごめんなさい、いままでずっと黙っていて」

「経緯を、話してもらえますか?」


 アヤカに代わって、遠巻きに見ていたマイが質問する。


「はい、もちろん。ただ、聞いていて不快な気持ちになってしまったらごめんなさい」


 そう言って、聖女アンは事の次第を皆に説明した。


「それって、この前の劇と同じ――」

「そういうことだったんだ……」


 あちこちで、声が上がる。


「はっきり言ってしまえば、今回の騒動は私の心の弱さからはじまってしまったものです。また、長い間影武者を置いていたことを隠していたのも事実です」


 心の痛みを隠しつつ、聖女アンは淡々と続ける。


「ですから、皆さんがここで降りるのを私は止めません。簒奪したとはいえ、新たなる聖女を正統と思うのなら彼女の許に集うことも、私は止めません。ですが、もし――」

「……協力するよ」

「え?」


 聖女の言葉を遮って、アヤカがそういった。


「協力するよ。でも悪いけど、それは聖女様のためじゃない」

「では、なんのため?」


 俺が口を挟む。


「そういうところは、鈍いね。もちろん、マリスのためだよ」

「私の?」

「そう。ここにいるみんなは、なにかしらの形でマリスの世話になったんだ。だったら、マリスのしたいことを手伝うのが、恩返しとして当たり前のことじゃない?」

「いいの?」

「もちろん。一度言ったことは翻さないよ」


 俺をまっすぐに見つめて、アヤカはそう断言した。


「そもそも、今の偽聖女がめちゃくちゃやってるのが悪いんだもんなぁ……」

「ま、そうなるよね」


 と、エリとマイが呟く。


「ひとまずはさ、あと四日間、私達に訓練をつけてくれない?」

「歌の方はどうにもならないわよ。多分、アヤカの方がうまい」

「そうかもね。でも、そっちはなんとかするから」

「わかったわ。他の組も、それでいいの?」


 返ってきたのは、無言の肯定だった。


「――ありがとう、みんな。それじゃあと四日間、やれることをやりましょう」


 食堂がどっと歓声に包まれる。


「おつかれさまでした。マリスちゃん」


 アリスが俺の隣に立って、そういった。


「船団を獲れる機会を逸してしまいましたね」


 反対側にクリスが並んで、そんなことを言う。


「いいのよ、これで」


 正直にいうと興味はあったが、いまでは無いと思う。


「あとは、最終選抜試験を乗り越えるだけですね……!」


 決意を込めた声音で、聖女アンがそう呟く。


「そうね、いよいよ正念場か……」


 教官側の協力はとりつけた。

 そして他の組からも、こうして力を合わせてくれることとなった。

 こちらでも、急ごしらえだが、細工は色々と仕込み済みだ。

 あとは……仕上げをご(ろう)じろといったところだろうか。


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