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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一〇四話:物騒に対策を練る

 

 さて。

 偽聖女ドゥエから、事実上の宣戦布告を受けたわけだが……。


「一に走り込み! 二に走り込み! です!」


 クリスは燃えていた。

 元々自覚していた自分の弱点をドゥエ指摘されたのが、よほど悔しかったのだろう。朝一番に行っていた走り込みを島一周から二周に増やしている。


 直接ドゥエと戦闘を行わなかったアリスとアンは特に変わらない。

 ただ、クリスの走り込みを積極的につきあっているということは、なにかしら思うことがあるのだろう。


 そして俺はというと――、


「アリス、ちょっとついてきて」

「……? あ、はい。わかりました!」


 朝食前にアリスを伴って、あらかじめ調査しておいた人気の無いところに行く。


「それじゃ、少しの間()()()()()()()()()

「はい。いってらっしゃい、マリスちゃん」


 俺は目を閉じた。



 ■ ■ ■



雷光号(らいこうごう)。主砲、無可動追尾照準。島の最上階、聖女の居室を狙え」

『あいよ』


 起き抜けに、俺は二五九六番へそう指示を飛ばした。


 無可追尾動照準とは、狙いだけをあらかじめつけておき、いざというときに主砲を向けて撃つ仕組みのことを指す。


 普通の軍艦が各砲塔に照準装置をつけるのに対し、それらが頭部に集中している雷光号だからこそ出来る芸当で、もともとは相手に照準をつけていることを悟らせないためのもの――いわば、だまし討ちのためにあるような仕掛けだが、よもやそれが活かされる日が来るとは思わなかった。


『んで大将、ぶっ放す条件は?』

「アリス、クリス、アン、そして俺のうち、だれかひとりでも致命傷を負ったときだ。それ以外では決して撃つな」

『あいよ。できりゃそうなって欲しくないけどな』

「まったくだ。では、俺は戻るぞ」

『おう、嬢ちゃんたちによろしくな』


 俺は寝台に戻り、目を閉じる。



 ■ ■ ■



「ただいま」

「おかえりなさい」


 周囲を見渡すが、特に怪しい気配はない。


「――っと」


 ふらりと、軽いめまいに襲われる。

 普段は時間をかけて行う身体間の移動を、急に行ったためだ。


「大丈夫ですか!? マリスちゃん」

「ええ、平気」


 軽く頭を振って、何度かかかとで地面を蹴る。

 その間に、わずかにあったふらつきは綺麗に消えていた。


「無茶しないでくださいね。わたしにできることなら、なんでもお手伝いしますから」

「ありがとう。こうして様子を見てもらえるだけでも充分よ」


 本当に、そう思う。


「戻ったわ」

「おかえりなさい。首尾はどうでした?」


 アリスを伴っての外出で、だいたいを察したのだろう。クリスがそう訊いてきた。


「上々よ」

「それならよかったです」


 アリスほどでは無いが、クリスとのつきあいも大分長い。

 それでも、俺の一言で納得してくれるのは司令官職に就いている故であろう。

 だが——。


「あ、あの、なにをしてきたんですか?」

「それはね――」


 ただひとり蚊帳の外に置かれたアンが、不安そうにそう訪ねる。

 なので、俺は簡単に、今の仕掛けを皆に話した。


「ちょ、まっ!? それやったらこの船団大混乱に陥りますよね!?」


 案の定、うろたえるアンだった。


「でもこれで、相手が完全勝利する事は無くなりました。戦略上いい手だと思います」

「く、クリスタインさん……それ、ちょっと殺伐としすぎていませんか!?」

「そうでしょうか?」

「そ、そうですよ」

「ですが、この場にいる誰かが致命傷を追った時点で、少なくともシトラスとウィステリアは大混乱になります。さらにブロシアさんの場合は、真実が暴露された時点でここの船団が大混乱どころか、まっぷたつに割れるのではないかと」

「――あああああ……! どっちみちその状況になったらすべてが終わるんですねっ!?」


 頭を抱えて、のたうち回る聖女だった。


「そういうこと」


 これは報復のためというより、これ以上の混乱を拡大させないための処置と言える。

 あまり考えたくないことだが、ドゥエがそこまで短慮を起こさないことを願おう。


 さて――。


「これでだいたいの準備は出来たかしら?」

「そうですね」


「あ、それなんですけど」


 アリスが挙手をする。


「銃を携行しようと思うんですけどいいですか?」

「いいわ。明日にしても普通の鞄に見える専用の容器を作っておく」

「ありがとうございます!」

「アリスさんも見た目と違って殺伐としてますね!?」


 いや、アリスは平常運転だと思うのだが。


「ううう、私もなにか武器を携行していた方がいいんでしょうか……」

「そういえば、ブロシアさんは何か得意な武器はないんですか?」

「ないんですよ……これが……」


 そこらへん、全部妹任せでしたから……。

 なんとも情けない顔で、アンはそう答える。


「なにが得意で、なにが不得意かは見極めておきたいわね……」

「そ、それはそうですけど……この流れはもしかして」

「もしかして、よ」


 聖女アンの肩をポンと叩いて、俺。


「アリス、クリス、手伝ってくれる?」

「はい、もちろん」

「戦力評価は大事ですからね!」

「あああああ!? やっぱり!?」


 そういうわけで稽古場に入り、前回以降置きっ放しであった各種武具を持たせ、適正をはかる。

 はかり方?

 そんなのは決まっている。

 こちらからたたみかけるように攻撃を仕掛け、それぞれの武器でどれだけいなせたのかをはかればいい。

 とはいえ相手は聖女といえども戦いは素人。

 それほど期待してはいなかった。

 いなかったのだが……。


「避けてますね」

「避けてるわね」


 互いに練習用の長剣を杖にして、クリスと俺はそう呟いた。


「いきますよー! えーい!」


 稽古場の中央では、アリスが背後の籠から次々と短剣を投げ——。


「きゃー! いやー!」


 悲鳴をあげながらも、聖女アンがそれらをすべて弾きかえす。

 その獲物は意外にも——。


「まさか、長槍が得意なんてね」


 ただし、攻撃の類は一切駄目だ。

 相手を貫こうという意志が弱く、そもそもためらいが多くて、とてもでないが前線には回せない。

 だが——。


「アンさんすごいですっ! かなり早い間隔で投げたのに、全部弾いちゃうなんて!」

「ひゃー! だめー! ……え?」


 攻撃を回避する、あるいは弾く事に関しては、もはや一級の腕前であった。

 これならば、アンだけを残して残りの人員が前に出ても、本人は自分の身を守ることが出来るわけだ。


「長槍って、習得に時間がかかるって聞いていたけれど、たいしたものね」

「ドゥエさんも長い獲物が得意でしたもんね。血は争えないというものでしょうか」

「そうなるのかしら……」


 親兄弟なるものを明確に意識したことが無いので、何とも言えない俺だった。

 それはともかくとして、ドゥエの警告に対する対抗準備はだいたい整った。

 整ったのだが……。


 ドゥエは、すぐには攻めてこなかった。


■本日のNGシーン



「アリス、ちょっとついてきて」

「……? あ、はい。わかりました!」


 アリスと共に、あらかじめ調査しておいた人気の無いところに行く。


「マリスちゃん……やさしくしてくださいね……」

「ちょっとまって」

「え、わたしがマリスちゃんに——しちゃっていいんですか!?」

「もっとまって!」

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