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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一〇二話:提督少女vs提督聖女。それと魔王

 

「おはようございます♪」


 偽聖女との一悶着から翌日。

 いつものように稽古場に行くと、そこには当の偽聖女が待っていた。


「な、なんで——」

「皆さんの戦闘能力を観てみようと思いまして♪」


 あくまでにっこりと偽聖女は言うが、昨日の白いドレスでは無く、黒いタイツに純白のレオタードを身につけ、腰には剣帯を巻き練習用の長剣を二本差している。


「聖女殿、練習用の武器を一通り持ってきましたが――」


 使い走りをされたのだろう。教官が練習用の武器各種の入った籠を、教官が運び込んできた。かなりの重量があるはずだが、そこは元軍人だけあってか、息ひとつ乱れていない。


「ありがとうございます、教官。そこに置いてもらえますか?」

「それは構いませんが、先ほどからいったい何を――」

「秘匿事項ですよ、教官。それでは少し席を外してください。そうですね……三〇分ほどもあれば十分でしょう」

「……わかりました。では、のちほど。おまえたち――いや、おまえたちなら大丈夫だと思うが、聖女殿に粗相の無いようにな。では……」


 偽聖女に一礼して、教官は稽古室を退出した。

 そして三秒ぴったりで――。


「あー……しんど」


 偽聖女がごきごきと首を鳴らす。

 どうやら、これが地の姿であるらしい。


「さて、とっととはじめるわよ。ほら、後がつかえてんだから早くしなさい」

「あと……?」

「全部の組を回ってるの。まだ半分も終わってないのよ。どっかの誰かさんが、全員合格なんてさせたからね」


 なるほど。

 そういう評価であったとは、非常に喜ばしいことだった。


「それで、何故こんなことを?」

「いったでしょ。戦闘能力が見たいって。もっというと、敵か敵にもならないかの見極めよ」


 口調ではだるそうだが、眼光はあくまで鋭いまま、聖女はそう答える。


「で、やるのやらないの。やらないのならそれでいいけど?」

「では、私が」


 そう言って進み出たのは、クリスだった。


「あら、あんたが? 一番ちっこいのに?」

「アリスさんは直接戦えるわけではありませんし、ブロシアさんは――わかりますよね?」

「なるほどね。それじゃ、武器を選びなさい」

「では、これを」


 クリスがそう言って、武器が山と積まれた籠から取り出したのは――。


「短剣と長剣の二刀流? ……ああ、短剣を盾代わりに使うのね。納得」

「いきますよ。昨日家族であるはずのブロシアさんにしたことのツケ、払ってもらいます」

「……へぇ。やってみなさい」


 返事に代わりに、クリスは斬りかかっていた。

 家族が皆いなくなってしまったクリスにとって、双子の妹が姉にしたことが、許しがたかったらしい。

 そして、その剣筋は以前より早くなっている。

 どうもあれから、鍛錬を欠かしていなかったようだ。


「おっと――思ったより早いわね」

「まだまだ……!」


 低身長を活かした下段からの攻撃を中心に、縦横無尽の攻撃を繰り出すクリス。

 それに対して偽聖女も、剣一本でことごとく弾き返しているのは、さすがといったところか。

 どうも、勇猛果敢なのは船の上だけではないらしい。


「速さ、重さは申し分なし。ただし見た目からして……十一〜十二歳? だとしたらあとどのくらいもつかしらね? 体力」

「……くっ!」


 クリスの額から、汗がはじけ飛ぶ。

 その表情には、すでに余裕がない。


「そらそら、まだへばってないでしょ? 私の予想では、もうちょっともつはずよ?」

「このっ――!」


 クリスが、長剣と短剣を同時に撃ち込む。

 いや、撃ち込んでしまった。


「剣筋を揃えてしまったわね?」


 その撃ち込みを自らの長剣でしっかりと受け止めて、偽聖女は笑う。


「――あ」

「それが、命取りよ」


 長剣を振り払う偽聖女。

 それによってクリスは体勢を崩し――。


「うぐっ!?」


 鋭い突きが、その腹部に撃ち込まれていた。


「内臓は避けておいたわ。しばらくアザは残るかもしれないけど。で――」


 膝から崩れ落ちるクリスを横目に、練習用の長剣で肩を叩きながら、偽聖女は続ける。


「はい、つぎ。それとも、もういない?」

「私がいるわ」


 俺が、そう答えていた。

 まずは(うずくま)るクリスを稽古場の隅に運んで、その後をアリスと聖女アンに託す。


「ああ、得体の知れないあんたか。いいわよ、準備しなさい」

「それじゃ、遠慮無く」


 そう言って、各種練習用の武器が積み込まれた籠の前に立つ。

 手に取ったのは――。


「両手剣二刀流? なにそれ、ふざけているの?」

「どうかしら……ね?」

「――フン!」


 俺がわざと漏らした殺気を感じ取ったのだろう。

 偽聖女が、もう一本の長剣を抜いた。そして、最初からもっていた長剣と柄の部分を接続させる。


「そっちも、大概ね……」

「あんたにいわれたかないわよ」


 これが、聖女アンの言っていた柄の前後に刃のある剣――仮に双刃剣『そうじんけん』とする――なのだろう。

 使い勝手が悪いことこの上ないと思うのだが、偽聖女はそれを槍のように、あるいは長柄の武器のように軽々と振り回す。


「それじゃ、はじめましょうか」

「ええ」


 お互いにゆっくりと歩み寄る。

 そしてお互いの間合いに入った途端――、

 俺と偽聖女は互いに、相手へと跳躍していた。


 互いに間合いの長い武器を持っているのに接近したのは、訳がある。

 至近距離から避けにくい剣技を叩き込むことにより、相手の対抗手段を減らし、あわよくば封殺させようとしたのだ。

 もっとも、偽聖女も全く同じ事を考えていたようだが。


 速さを最優先とした小振りの連撃を繰り出す。

 攻撃範囲の広い両手剣、その二刀流だからこそ出来る回避の難しい技だ。

 だというのに、偽聖女は双刃剣の片方の刃で受けた反動をもう片方の刃の動きにつなげることで無駄なく操り、その連撃を弾く。


「そうきたか。その剣、飾りじゃなかったみたいね!」

「そっちもね! なにその腕力、普段なに食べてんのよ!?」


 そっちこそ、どういう鍛錬を積んでいるのか、問い詰めたい。

 なぜなら充分に勢いを付けた俺の連撃を連続で弾いているのだ。並の膂力ではない。

 そのまま、互いに距離を詰めたままの斬り合いとなる。

 超接近戦は非常に難しいものなのだが、その経験でもあるのか、まるで迷いがなかった。

 ――認めよう。

 その剣の技量、あの忌々しい勇者に勝るとも劣らない。


「ふぅん……あんた……」


 数十合か剣を撃ち合わせた後、偽聖女がそう呟き剣の構えを崩した。


「……?」


 当然隙ができるが、その意図が読めず一歩だけ下がる。

 このままさらに下がって一撃離脱戦法に移るのも悪くないが……。


「どうしたのよ、斬りかかってきなさいよ」


 偽聖女が、挑発してくる。


「誓ってもいいわ。私は反撃しない。――当てられるものならね」


 そこまで言われて、やらないわけにはいかない。俺は一息で踏み込むと、左右から挟み込むように斬撃を繰り出す。

 それに対して、偽聖女は口の端に笑みを浮かべたまま、軽く身体をひねった。


「な――!」


 信じがたいことに――。

 偽聖女は、それだけの動作で俺の斬撃をふたつとも避けた。

 これは……もしや。


「馬鹿ね、間合いが足りないのよ」


 一瞬呆然とした俺ののど元に、双刃剣をつきつけられる。


「あんた、普段はでかい鎧でも着込んでるの?」

「なにをいって――」

「手足が少しずつ長いのよ。()()()()()()()()

「くっ……!」


 読まれた。

 この短い時間の斬り合いで、俺の身体が、本来と違うことを読み取られてしまった。

 おそらく、偽聖女特有の分析能力なのだろうが、この短時間でそれができてしまうことは驚異的だった。

 ある意味()()()()()()()()()で同じ事をしていたあの忌々しい勇者より、たちが悪い。


「で、どうするの? まだやる? 『見切れるわよ、私』」

「いえ――」


 剣を下げる。悔しいが、長年の鍛錬と実戦で染みついた間合いは、そう簡単に修正できない。

 したがって、俺が斬った気になったとしても偽聖女は易々と避けられるだろう。


「賢明な判断だわ」


 こちらものど元に突きつけていた剣をさげて、偽聖女。


「ふむ……あんたたち、いままでの十数組の中で一番強かったわ。それは誇っていいわよ」

「まって、本当にすべての組を相手にするの?」


 たとえ他の組が素人同然でも、体力はそう続かない。

 いや、素人であればあるほど逆にがむしゃらにかかってくることもあるだろうし、今の俺たちとの斬り合いでも、だいぶ体力を失っているはずだ。

 だというのに――。


「当然でしょ。僭称だろうと聖女を名乗っているのよ、私」


 偽聖女――いや、ドゥエはあっさりとそう答えた。


「それじゃあね。今度は多少やれるようになりなさい」


 そこで、いままで黙って様子を見ていた聖女アンが、一歩前に進み出る。

 昨日の失態を鑑みて自重していたようだが、どうも我慢できなくなったらしい。


「まって、ドゥエ!」


 ドゥエはアンの呼びかけを無視した。なんの反応も見せず、その場を去ろうとする。


「ドゥエ、どうして……!」

「だからその名で呼ぶんじゃないっての。公の場で言おうとしたら――今度こそ、のどを潰すわよ?」


 それだけ答えて、ドゥエは威風堂々と稽古室を退出した。


「く、悔しいですね……!」


 まだ傷むのか、腹部に手を当てたまま、クリスがそう呟く。


「クリスちゃん、後で診せてくださいね。マリスちゃんは、大丈夫ですか?」

「ええ。私は平気。だけど……」


 ドゥエが去っていった扉を見つめながら、アリスに向かって俺。


「なにか、根本的な対策が必要ね」


 ひとつ思い当たりがあるにはあるが……。

 ――いまからで、間に合うだろうか。


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