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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第一〇一話:提督聖女・接触。

 

「おはよう、マリスさん」

「おはようございます」

「おっはよーう! ございまーす!」


 そこに俺たちが入った途端、一斉に挨拶が響きあった。

 大講堂。

 第三期を迎えるにあたって聖女より講話があるというので、そこを訪れたのだが、その規模はいままでの講堂より明らかに大きい。


「こんな講堂があったんですね。うちの船団にも、この規模のものはないですよ……」


 クリスが、驚いたようにそう呟く。

 同じく、封印される前にあった俺の魔王城にも、ここまで大きな講堂はなかった。

 あえていうなら、議事堂とどっこいどっこいだろうか。


「こっちが空いているよ、マリスさん」

「アリスさん、こちらへどうぞ!」

「アヤさん、こっちですこっち!」

「クリスちゃんって、ほんとうにかわいい……!」


 気がついたら、最前列に座っている。

 あまり目立ちたくなかったのだが、この前の試験で大立ち回りしてしまった以上、仕方の無いことなのだろう。


 さて、俺たちの側はそろそろ揃うわけだが……。


「みなさま、おはようございます!」


 その良く通る声に、全員が視線を向けた。

 講堂の壇上側の入り口から、ひとりの女性が姿を現したのだ。

 その姿はまちがいない、聖女アンの――双子の妹だ。

 だが、以前、遠見の魔法で見たあの威圧感は欠片もない。

 あくまで明るく。

 あくまで朗らかに。

 あくまで清楚な雰囲気を身に纏って。


 なるほど、これなら聖女と言われても納得するしかないだろう。

 あの夜、凶悪な威圧感を放っているのをみていなければ、俺だってだまされてしまうかもしれなかった。

 それにしても、こうやっていると聖女アンと区別がつかない。

 ……聖女アン?

 そこで一瞬硬直した思考をつくように、人影がすり抜ける。


「ア――アヤさん!」


 アリスが叫ぶ。

 止める間もなく、聖女アンが壇上に駆け上がってしまった。


「ドゥ――」


 壇上にのぼった聖女アンがなにかを呟いた、まさにその瞬間だった。

 雷光のごとき速さで距離をつめた偽聖女が、抱擁するかのように、アンを包み込む。

 ——が、まずい。

 抱擁するように見せかけて、偽聖女がアンの喉を掴んでいる!


「ぐ――!」

「それ以上言ったら、喉を潰す。脅しではないわ」


 ぎりぎりで俺たちだけにしか聞こえない声量で、偽聖女はそう言った。


「ぁ……が……!」


 聖女アンが、微かに呻く。

 その次の一呼吸で、クリスがアンの右側から、俺が左側から壇上に飛び乗っていた。


「周りも動くんじゃない。歌えなくするわよ、これを」


「ぅぁ……ぎ……!」


 くっ!?

 続いて偽聖女に一撃を浴びせようとした拳を止める。

 もっとも、素直に言われたとおりにするわけではない。

 ――俺の雷魔法と、偽聖女がアンの喉を潰す時間、どちらが早いかを計算する。

 七対三で、俺の方がやや早いと結論づけ、まさに放とうとしたその瞬間。


「ふん――」


 予備動作など一切見せなかったはずなのだが、偽聖女はまるでそれを予想したかのようにあっさりと手を離した。

 そして、崩れ落ちそうになったアンをそっと支え、今度は本当に抱擁する。


「失礼しました。親族にあまりにも似ていたものですから、思わず。ですが、急に壇上へのぼってはいけませんよ?」

「……う……も、申し訳ありませんでした。聖女様にお逢いできて、つい――」

「よいのです。今後気をつけていただけたら、それで。さ、お友達の方達も、席に戻って」


 気品あふれる声に促されて、俺たちはしぶしぶ席に戻った。


「では、改めて……おはようございます、みなさん。今日は第二期選抜試験を切り抜けられて皆さんに、おはなしがあります。まずは——」




 ■ ■ ■




 居室に戻った途端、アリスは全速力で医療器具を引っ張り出していた。


「大丈夫ですか、アンさんっ」

「わ、私は大丈夫です。手加減されましたから」

「手加減されていないです! のど、赤くなってるじゃないですか!」

「いえ、手加減ですよ。でなければ今頃、私はのどを潰されていました」


 いけませんね、全然予想出来ませんでした……と、か細い声で喉に手を当てつつ、聖女アン。


「あれが、私の双子の妹で今は聖女である、ドゥエ・ブロシアです」

「ドゥエ——ああ、だからなのね」


 先ほどのは名前を呼ぼうとした聖女の口をふさぎ——もとい、のどを掴んだ訳か。

 それにしても——。


「ここまで……ここまでやるだなんて……」

「そうですね……私も予想していませんでした」


 両手を震わせるクリスの頭をそっと撫でて、聖女アンはそう答える。


「あの、マリスさん——」

「話の前に、ひとつだけ約束して。今後絶対に、ひとりで突出しない。いい?」

「はい……申し訳ありませんでした」


 本当にすまなそうに謝る、聖女アンだった。


「——まぁ説得に失敗しましたから、一気に潰すという選択肢が出てきたわけですが」

「そうなのよね」


 クリスとふたり、頷きあう。


「……? あ、ああああああ!?」


 そこでようやく思い出したらしい。アンが悲鳴を上げた。


「お、おねがいします……この島ごとたたきつぶそうとしないで……!」

「安心して。しないわよ」

「……え?」


 聖女アンが、拍子の外れた声でそう呟く。


「たとえやるにしても、それは今回の謎が解けてから。それまでは一方的に叩くことは無いわ」


 どうにも、腑に落ちないことがある。

 それを解消させるまでは、正攻法でいこうと思う俺であった。

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