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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第百話:黒レオタードと、白タイツ

ついに百話に到達いたしました。

みなさんの応援に、心から感謝致します!

 

「まずは、おまえたちに礼を言わせてくれ。――ありがとう……!」


 第二期選抜試験が終わった翌日。

 久しぶりに訪れた稽古場で、教官は開口一番にそう言った。

 曰く、棄権の狼煙がまったく上がらなかったことを嬉しく思う反面、その余裕すらなく力尽きてしまったのではないかと、気が気でなかったのだという。

 そういう意味で、クリスと聖女アンの立てた予想は、かなりの確率で的中していたのだろう。

 もっともそれを、()が、()たちが全部ひっくり返したのだが。


「だから、おまえたちが全員を合格させるために助け合ったと聞いたときは、胸のすく思いだった。運営は、そうでもなかったようだがな」


 含むところがあるのだろう、愉快そうな笑みを口の端に浮かべながら、教官はそう続ける。


「故に、私の評価とはしては完璧といって差し支えない。本当に、よくやった!」

『ありがとうございます、教官!』


 久々に声を合わせて、()たちはそう応える。

 なんでも、運営側は不正がなかったか、島を徹底的に探索したらしい。

 だが、そのような痕跡は欠片も見当たらなかったため、今回の試験の結果は覆せないと断定せざるを得なかったそうだ。


「さて、今回より第三期となる。第三期は、いよいよ聖女アン・ブロシアも参加する。……ここからが、本戦と言っていい。おまえたち、覚悟はいいか?」


 自然と、全員の顔が引き締まる。

 いよいよ、今回の騒動の原因である聖女アン、その双子の妹が出てくるのだ。


「いい顔だ。その調子で、頑張れよ」


 心なしか、出会った頃より柔らかい表情で、教官はそう締めくくった。



 ■ ■ ■



 第三期に入って、()たちはまた居室を移すことになった。

 その場所は島の中央部にあるいままで立ち入れなかった箇所で、いよいよ聖女(に成り代わっている双子の妹)のお膝元に近づけた感覚がある。

 それに加えて部屋の中もかなり豪華になっており、机や箪笥などが広く大きくなっていた。そして寝台も二段ではなく、各個人用に割り振られており、各個人の寝る場所で少しだけもめるという、予想外の事態を引き起こすほどだった。(割と長めの議論の結果、()の隣にアリス、向かい側にクリス、対角線上に聖女アンとなった)


 それ以上に、大きな変化がある。


 ついに、部屋に専用の風呂が付いたのだ。

 これで他の組のらた——肌をみないように、視線をあちこちにずらしたり、やむを得ず見ざるを得ないとき、精神統一して無心になる必要がなくなった。

 特に今となっては全員と顔見知りになってしまったので、気まずいことこの上ないと思っていたので、これは本当にありがたい。


「マリスさん、改造しましょう!」


 浴室をのぞき込んでから、クリスが両手の拳を握りながらそういった。


「いや、さすがにしないから」


 できなくはないが、そんなことをすればたちまちにして何者かと疑われてしまうだろう。

 それに、雷光号(らいこうごう)基準で考えなければ割と設備はいい方だ。


「ちなみに、大浴場も使用できるそうです」


 にっこりと笑顔を浮かべて、アリスがそんなことをいう。


「絶対に使わないから、気にしないで」

「わたしたちだけのときもですか?」

「むしろそのときの方が困るんだけど!」


 まさかもう、みられ慣れた、あるいはみせ慣れたというのではあるまいな!?


「みなさーん、専用の訓練着が届きましたよー!」


 この微妙な空気を打ち破ったのは、聖女アンだった。

 どうやら、みずからが教官からもらってきたらしい。


「これから稽古時はこの訓練着を着用してほしいとのことです」

「それはありがたいですね。第二期選抜試験で、今の訓練用水着がだいぶ傷んでしまいましたし」

「そうね」


 クリスの言葉に、同意する俺。

 そろそろ雷光号から予備のそれを出そうかと考えていたのだが、文字通り渡りに船と言えた。


「それじゃ、さっそく着てみましょう」

「ええ、そうね……うん?」


 薄紙に包まれていた訓練着を手にとって、俺は絶句する。


「なに……これ」

「それじゃアリスさん、アヤさん、着替えましょうか」

「そうですね。よいしょっと――」

「ちょっ!? アリスもクリスもアヤもその場で着替えはじめない!」


 見える! 俺にも色々と見えてはいけないものが見える!



 ■ ■ ■



 で。


「こ、これは……」


 着てみたのだが。


「なんかちょっと……」


 その新しい訓練着は、白いタイツに、黒いレオタードという組み合わせだった。


「恥ずかしく……ない?」


 動きやすくていいのだが……動きやすくて、いいのだが!


「あ、マリスちゃん、おしりくいこんでますよ」

「えっ、えっ!?」


 アリスの指摘に、思いきり狼狽する。

 なにせ封印されていた期間を除いても二百と余年、尻が食い込むなどという事態に直面したことが無かったからだ。


「動かないでください、直してあげますから」

「あ、うん……」


 アリスに言われるまま、くいこみを直してもらう。


「直し方を教えてもらったらどうですか? アリスさんに直してもらってばっかりでは、あらぬ噂が立ちますよ?」

「う……たしかに」

「じゃあ、わたしがお手本を見せますね」


 そう言って、アリスがいきなりレオタードを故意にくいこませた。


「って、アリス! くいこませすぎ!」

「大丈夫です。下はタイツですから」


 そういう問題では無いと思うのだが!


「これくらいの方がわかりやすくて良いです。ほら、マリスさんもアリスさんの仕草をよく見てください」

「う……」

「いいですか? まず親指を、レオタードとタイツの間、おしりの上の方に入れます」

「こ、こうね?」


 アリスにならって、実際にやってみる。


「ええ、それでいいです。そうしたら、親指の腹でレオタードを引っ張ってください。爪でひっかけちゃだめですよ? レオタードの生地が傷みますから」

「こ、こうね?」

「そうです。そうしたら、そのまま股下までゆっくりとずらしていってください」

「わかった——」


 ゆっくりと指を滑らし——ぱちっとレオタードの生地を直す。


「はい、うまくいきましたね」


 俺とアリスの修正具合を見比べながら、クリスがそう頷いた。


「これでマリスちゃんも、もうくいこみが怖くありませんね!」


 俺の背後に回って様子を確認しながら、アリスがそんなことをいう。


「あ、うん。そうだけど……そうなんだけど……」


 なんというか、その——。


「あの。アリスさんもクリスさんも、マリスさんのおしりを見過ぎでは?」

「あ゛」

「あ゛」

「うう……」


 聖女アンの指摘が、ごもっともすぎるのであった。

 というか、今後の問題を克服できたのはいい。いいはずなのだが……。

 何故か、魔王としてなにか大事なものを喪ってしまったような気がする……すごく!

■本日の幕間


「ちょっとまて! 全然百話らしくないのだが!」

「オイラの強襲形態を金色に塗る?」

「それは◯式」

「ろうそくを百本用意して、一本ずつ消していきましょうか」

「それは百物語」

「♪せーのっ」

「それは◯物語! なんかずれているぞ!」

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