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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第一章:はじまりの小島

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第十話:幼年期の終わり

『あー、いるなぁ。なんか沢山いるわ』


 目に見えずとも、広範囲で船のいる場所がわかる二五九六番が、そう呟いた。


「彼らのいっていたことは本当だったのだな……」


 わずかながらに疑っていた俺もそう呟く。


「商人さんは、信用が第一ですから」


 アリスがそう答えた。

 交易した商船から教えてもらった船団の場所は、彼らから別れた場所からほど近かった。

 どれくらい近いかというと、商船の姿見えなくなった直後辺りで先ほどのように二五九六番が反応したくらいだ。


『そろそろ目視できるぜ。それにしても多いな。こんなにたくさんいるの、はじめて見たわ』

「お前もこんな船団ははじめてか」

『そりゃそうよ。いくらオイラでも囲まれちゃ勝てないし、弾だってきれる。それに、大将にいじってもらうまでは、暴れてるだけでも腹が減ったからな。狙うのなら、さっさと終わらせられる単独の船ってわけよ』

「なるほどな」


 変異した機動甲冑は愚かではない。口と性格は軽いが、それは二五九六番特有のものであろう。

 もし仮に、俺の機動甲冑に自律し思考する機能が付与されたのなら、俺の乗機にふさわしい品格を備えていたに違いない。

 そう思うと、ほぼ相打ちであったとはいえ、あの忌々しい勇者に俺の機動甲冑が壊されてしまったのは返す返すも惜しかった。どこかで修復され、変異しながらも生き延びてくれればいいが……。


『お、なんかやたらでかいのがいるぞ。オイラが上に乗って暴れても余裕で浮かんでそうなくらいの』

「そんなに大きいのか」


『みてみろよ、ほら』


 そう言って、二五九六番は正面の表示板に、周辺の様子を表示させた。俺が作った敵味方識別装置と一緒なら、中央にある光点が二五九六番自身、その上(進行方向)に散らばって存在している光点が船団の船なのだろう。

 そして、その進行方向奥に、ひときわ大きな光点があった。


「たぶん、それが船団の中核ですね。船と船とを板で渡して、どんどん大きくしていったんです」


 アリスがそう解説してくれる。


『そいつだけ、動いてないっぽいな』

「普段は動きませんよ。季節の変わり目になると、より過ごしやすい場所に移動することはありますけど、基本はその場で停泊します。でないと他の船が入出港できませんから」

「なるほど」

『なるほど』


 期せずして、俺と二五九六番の声が重なった。


『お、見えてきた見えてきた。甲板あがってみな。本当に、でっかいぜ!』

「ふむ——」


 アリスを伴って、甲板に上ってみる。


 なるほど、進行方向になにか大きな船がいる。

 今はまだ遠いが……近づけば大きい——。

 大きい——。

 大き——。


「なんだこれは……ほとんど街ではないか……!」


 封印される前の我が軍にも、ここまで大きな船はなかった。

 故に、魔王として少し悔しい。


「街ですよ。これでだいたい中規模です。もっと大きな規模の船団だと、もっと大きいですよ」

「そうか……」


 いずれは俺も、それくらいの船を作ってみたいものだ。


「ほら、あそこを見てください。野菜を作っています」


 アリスが指差す巨大船の一角が、陽光を反射して輝いた。

 その煌めきには憶えがある。

 ガラス製の覆いで温度を保ち、なおかつ悪天候を避ける水耕栽培装置だ。

 この海だらけの世界ではおそらく、汐風を防ぐという意味も兼ねているのだろう。

 俺の設計では二段式だったのだが、さすがにそれは再現できなかったのか、一段式になっている。ただ、ガラスの覆いが俺の設計した直方体と異なり、移動する船に合わせた風防状になっている。

 そこからは、人間側の工夫を感じ取ることができた。


 そんな巨大な船の周りをさまざまな船が取り巻いている。

 中には武装の整った、見るからに物々しいものも航行していた。


『なんであいつら、でっかい船の周りをウロチョロしてんだ?』

「護衛だろう。俺たちもできればああいう仕事をしたいものだが」


 魚釣りではなく。

 そう、魚釣りではなく!


「そういえばアリス、あのように護衛についている船の連中はなんと呼ばれている?」

「えっと傭兵さん……でしょうか。正式な名前はわからないです」

「なるほどな。では、彼らが護衛の任を離れた場合、他の船団の船を襲うことはあるのか?」

「それは……あると思います。船団を直接襲う場合は相手の護衛と戦うことになりますから滅多に起きませんけど、自分の船団と関わりがなく、危険な海域を護衛も付けずに航行している船なんかがいたら、確実に襲われるかと」


 アリスの言葉には、妙に実感がこもっていた。乗っていた船が襲われた状況がそれだったのかもしれない。


『大将、なんかちっこいのが何隻かこっちに来てるぞ』

「発光信号も来ました。わたしが解読します。『当船団に何用か』」

「入港したいと返答しろ」

「わかりました。『入港を求む』——返信すぐに来ました。『貴船に戦意のないことを示せ』砲塔を逆方向に回してください」

「やってくれ」

『あいよ』


 二五九六番が即座に対応する。


「『確認した。貴船の来航を歓迎する。後方の桟橋部に入港せよ』とのことです」

『ちっこいのが離れて行くぜ。オイラたちを敵かもしんないって、思ってたんだな』


 それぞれの報告に、俺は頷きで応える。

 さて、この巨大な船がどれほどのものか——。

 とくと、見せてもらおうと思った。



 ■ ■ ■


「なるほどな。こうやって係留するのか」


 巨大船の後部は凹型になっていた。

 そのへこんだ部分を港湾部分とし、大小さまざまな桟橋が伸びている。

 発光信号に誘導され、俺たちはその桟橋のひとつに係留した。


「さて、行くか」


  丁寧なことに、桟橋を降りたところにはこの船の地図が置いてあった。

 それによるとこの船は後ろからその三分の一が行政・商業区画、三分の一が居住区画、そして残りの三分の一が生産区画となっているらしい。

 甲板も数層に及び、最大で七階層もあるらしい。先ほど街といったが、これはもはや城に近かった。


「えっと最初は——」

「もちろん、服を見に行くのだろう?」

「——はい! お願いします!」


 なぜか嬉しそうに、アリス。


「さて、どこにあるかだが……」


 地図によれば、女性用の服は商業区画の第三甲板にあるらしい。


「甲板ごとに扱うものが違うのか。合理的だな」


 この考え方、俺の治世にも利用したかった。


「マリウスさんは、いいんですか?」

「ああ、俺は構わん」


 前にも言っていたが、アリスにとって、俺の服は意匠が厳ついらしい。

 だが、この服には俺の魔力を強化したり、周辺の魔力を集める際、それを一時的に貯蔵したり効率よく集めたりする効果がある。

 いかにこれほど大きな船を作れる技術を人間が持とうと、そもそも魔法が使えないのでは俺の服と同じものを作るとは思えなかった。

 そんなことを考えながら階段をのぼり、第三甲板に出る。


「これは……」


 思わず絶句した。

 女性用の服を扱う店が並んでいる。これはいい。

 多種多様な服を店頭に並べている。これもいい。

 だが下着を店頭に並べるのはいかがなものか。


「あー……ですよね」


 俺が視線をそらしたのを察したのだろう。アリスが立ち位置を変え視界に下着が入らないようにしてくれた。


「すまない……」

「いえ、一緒に来て欲しいって言ったのはわたしですから」


 あんな紐のようなものではたして下着として用をなすのだろうか、いささか心配であった。

 というかアリスもああいったものを着用したいのだろうか——ってなにを考えている!

 こういうときは、そう——。


 ふ。

 ふは。


「ど、どうかしたんですか?」

「重ね重ねすまない……少し動転したようだ」


 笑ってどうにかなるものもない。

 我ながら、情けない話だった。


「あ、この辺りから普通の服が売っていますよ」


 アリスがそういって店先を指さす。

 確かに、この一帯はさほど過激なものはなかった。


「これ、どうですか?」


 アリスが指さしたものは——。


「女給の服ではないか!?」

「動きやすいですし、丈夫ですし」


 確かに理にかなっている。だが、なにかこう……倒錯しているような気がしてならない。


「ではこれは——」

「作業服ではないか?」


 俺も、機動甲冑を分解整備をするときなどはよく着たものだ。


「でも、動きやすいですよ?」

「いずれはいるかもしれんが、一着目ではないだろう。もう少し華やかな方が似合うと思うが」

「そ、そうですか……」


 なぜか頬を少し赤くして、アリスはそういった。


「それじゃあ、マリウスさんは、何かお勧めはないんですか?」

「そうだな……」


 ふと、目にとまった服がある。

 適度に動きやすく、そしてどことなく気品がある。

 なにかの制服のようだ。強いて言うなら、俺が封印される前の女性士官の制服に似ている。


「これは、どうだ?」


 それを指さすと、アリスは身を乗り出して、


「女性秘書官の制服ですね!」

「秘書官?」

「はい。昔、ある程度の大きさの船には、船の主である船長と、それを補佐する秘書官が必ず乗船していないといけなかったんです。今は完全に、形骸化しちゃっていますけどね」

「そんな歴史が、あったのか……」

「大分前のことですけどね。でも、この制服は人気があって、今でも操船を担当する女性には人気があるんですよ」

「なるほどな。アリスはどうだ?」

「えっとそれは……わたしに、マリウスさんの秘書官になってほしいということですか?」


 な、なに!?

 それは。

 それは——。

 それは……。


「貴様は、料理人になりたんじゃなかったのか?」

「それは、そうですけど……」


 アリスが言いよどんだときだった。


『大将!』


 港湾部で待機していた二五九六番から、魔法を使った緊急の通信が入る。


「どうした——」


 問いただす前に、それは来た。


 《海賊警報発令!》


 店中——いや、全船内での緊急放送だろう。


 《複数の海賊が本船に接近中! 護衛艦隊は直ちに全艦出撃せよ!》


 俺はアリスと顔を見合わせる。


 《戦える船は加勢せよ! 戦果によっては報酬もあるぞ! 繰り返す、戦える船は加勢せよ!》


 ——思わぬところで、好機が巡ってきた。


「聞いたか」

「聞きました」


 船内が雰囲気が慌ただしくなり天井から足音が響く。おそらく、迎撃の準備が始まったのだろう。


「行きましょう。マリウスさん」

「アリス?」

「前に言いましたよね。わたしの船団は海賊に襲われて崩壊したって」

「……ああ」

「あのときと同じことは、繰り返したくないんです。それを止めることがマリウスさんにできて、それをお手伝いできるのなら……わたし、ついていきます」


 思っていた以上にはっきりと、アリスはそういった。

 ならば、俺はこう答えるしかない。


「わかった。行くぞ!」

「はい!」


 ふたりそろって、二五九六番が停泊している港湾部を目指す。

 折角の服選びは、また後日になりそうだった。

■今回のNGシーン


 ふと、目にとまった服がある。

 適度に動きやすく、そしてどことなく気品がある。

 なにかの制服のようだ。強いて言うなら、俺が封印される前の女性士官の制服に似ている。


「これは、どうだ?」


 それを指さすと、アリスは身を乗り出して、


「セーラー◯ーンのコスプレですね!」

「セー◯ームーンのコスプレ」

「なんかある程度の年齢の男性にとって、それを着てもらうのは夢らしいですよ」

「夢」

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― 新着の感想 ―
[一言] 夢…夢かあ。 昔、娘が小さい頃ショッピングモールのキッズコーナーで色々な幼児用コスがあって、ビーナスの着てたなあ(遠い目)。
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