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6 穴を掘る

ブクマや評価など本当にありがとうございます!

 だいぶ日がかたむいてきた頃、リズは穴を掘っていた。農作業用の大きなショベルで、ひたすら地面に穴を掘る。

 かたわらに立つ神官ロイドが腕組みをしながら聞いてきた。


「何が埋まってるんだっけ?」

「わかりません。でも良いものです。とても大事なもの。そんな気がします」


 リズの「勘」である。

 キーファの事で怒り心頭だった時に、ふと頭の中に浮かんだのだ。土の中に埋まっている何か。それは、とても大事なものであると。


 見えた景色は神殿内、南東部にある小神殿と周壁の間の地中のようで。

 掘るにあたって一応ロイドに確認すると


「大丈夫、大丈夫」


 実に軽く答えられ、顔を輝かせて案内してくれた。不安だ。

 大きなショベルもすぐに用意してくれたが、聞くまでもなく一本だけだった。


「ここだろう?」と案内されてリズは驚いた。小神殿という名前の割に全く小さくない。つまり小神殿と周壁の間の地中というのは実に広かった。


 (どこを掘ればいい?)


 目を閉じてもう一度見ようとしたが、キーファの事で動揺が続いているせいか、ちっとも集中できない。頭の中に浮かんでくるものをつかもうとした途端に消えてなくなってしまうような感じだった。


(……ダメだ。わからない)


 もとより「勘」も万能ではないし外れる時もあったけれど、今ほどではない。やはりキーファの事で気が立っているんだろうな。そう考えると、ますます腹がたった。


 とにかくリズはショベルを持つ両手に力を込めて、手近な部分をせっせと掘り出した。着ているワンピースが土で汚れるが気にしない。


「あった?」


 ロイドが身を乗り出してワクワクといった感じで聞いてくる。心待ちにしている割には見ているだけだ。ちょっとイラッとした。


「気になるなら手伝ってくださいよ」

「えー。手が汚れるから嫌」


 何て人をイライラさせる神官なんだ。

 ロイドといい、キーファといい、ろくなのがいない。込み上げてくる怒りを力に変えて、リズはひたすら掘り続けた。


「神官長が戻ってきたら、聖女候補たちに話があると言っていたよ。……あった?」

「それまでには終わらせます。……まだです」


 建物と壁に囲まれている土地は年中、日かげだ。ゆえに土が固い。それほど深い場所には埋まっていないはずなのだが掘りにくい事このうえない。


「あった?」

「まだです」


 何も出てこなかったので、当たりをつけて次へ移る。


「あった?」

「まだですって。他の神官たちは忙しそうに働いていましたけど、ロイドさんは行かなくていいんですか?」

「うーん。いいんじゃない」


 ロイドが他の神官たちから信用されていない理由がわかった気がする。


「リズはキーファ殿下と知り合いだったのか?」

「いいえ」

「でも、あの雰囲気はただ事じゃなかっただろう。二人で仲良く? 広間も出て行ったし」

「――でも殿下は私の名前も知らなかったでしょう?」


「そういえば」と周壁にもたれながらうなずいたロイドは、ますます納得できない顔になった。

 リズは堀り続けた。こうして掘るという単純作業を続けていれば、未だ続く動揺から少しは逃げられるような気がした。


 ふと足音がして顔を上げると、神殿の雑務をする侍女がぽかんとした顔で立っていた。


「ロイド様? 聖女候補様も、こんな所で一体何をしてるんですか?」


 戸惑っている。必死で穴を掘るアルビノ娘と、その横で優雅に待つ神官を見たら、そりゃ戸惑うだろう。

 ロイドが笑顔で答えた。


「ちょっと探し物をね。君こそ、こんな所でどうしたの?」

「私はこれを取りに来たんです」


 侍女がそう言って、周壁沿いの地面に積み上げてあったわらの束をどけると、下から壺のふたが出てきた。地中に壺が埋まっていて、そのふただけが地表に見えている状態なのだ。


「「それ!?」」


 思わず大声をあげたリズとロイドに、侍女は驚いたような顔をしたが、すぐに笑って言った。


「何だ、これを探していたんですか? 言ってくれればすぐに出しましたのに」


 慣れた手つきで壺を地中から取り出す。重そうに見えるのに意外に力持ちだ。

 出してしまえば片手で抱えられるくらいの大きさの壺だった。


「何が入ってるんだ!?」


 勢い込んで聞くロイドに、侍女が笑顔でふたを開けた。

 その中身は――発酵させたナスビだった。


「土の中に埋めておくと、おいしく出来上がるんですよ。ここは一日中、日かげですし。罰当たりな事をしてるって言わないでくださいね。現聖女様の好物なんです。神官長様も知っておられますから」


「「……」」


 リズとロイドは顔を見合わせた。

 言葉にせずともお互いの顔に「徒労」と書いてあるのがわかる。


(いや待って。掘ったのは全部私だし、ロイドは見ていただけだよね)


「まあ『良いもの』には違いないけどさ」ぶつぶつ言うロイドの横で、リズはそんな事を思った。


(でも――)


 リズは首をかしげた。本音では納得がいかない。


(おかしいな。そりゃ、はっきりとは見えなかったけど、食べ物とかそんな感じじゃなかった。とても大事なものだと思ったんだけど)


 まあ、現聖女にしたら大事なものなのだろうが。好物なのだし。

 それでも、どうしても納得いかないリズの元へ


「神官長様が戻られました! 広間に来てください!」


 神官の一人が呼びに来たので、渋々だがあきらめざるを得なかった。


「僕はショベルを返してから行くよ」

「お願いします」


 ロイドを残し、リズは第二神殿内の広間へと向かった。




 残ったロイドはショベルを持ち、ため息をついた。


「まさかのナスとはね。期待外れだな」


 おもしろいものが見つかると思ったのに。

 侍女が壺ごと持って行ったので、空洞になった土の底をショベルの先でツンツンとつついていると


「あれ?」


 小さく光るものがあった。


「何だ?」


 腕まくりをして取り出すと――。


「指輪?」


 ずいぶんと古い。さびているし、明らかに安物だ。

 構わず、着ているシャツのすそでぬぐうと、青い石のついた銀色の指輪だとわかった。


「まさか、これがリズの言っていた『良いもの』?」


 ロイドは顔をしかめた。意味がわからない。その時


「おいロイド! そんな所で何をしてるんだ、早く来ないか!」


 第一塔門から続く渡り廊下に神官長とお付きの神官たちの姿があって、そのお付きの一人がロイドに向かって叫んでいた。


「今、行きます」


 とりあえずショベルを壁にたてかけて、神官長の元へと向かった。


「全くお前は仕事もせずに何をやっているんだ!」


 お付きの神官が怒る中、神官長がしわだらけの顔でロイドを見た。


「何か見つけたのかね?」

「いえ、まあ。つまらないものですよ」


 そう言って指輪を見せると、神官長が目を細めた。


「おや? これは、なつかしい。キーファ殿下の物だな」

「殿下の?」


 ロイドは目を見開いた。神官長がうなずく。


「ああ。見覚えがある。殿下が子供の頃、大事にしていた物だよ」

「へえ」


 ロイドは、まじまじと手の中の指輪を見つめた。リズは何と言っていた? 「良いもの」そして――。


「『とても大事なもの』ね……」



 * * *


 第二神殿内の広間には、すでに聖女候補たちが集まっていた。黒髪黒目の魔力持ちの女性ばかり、ざっと三十人ほど。

 下は十歳ほどの少女から、上は孫がいそうな年齢の女性までと幅広い。格好もリズと同じような質素な服から、一目で上流貴族だとわかる豪奢なドレスまで色々だ。


 そんな中で、やはりリズは浮いていた。


「やっぱり、あのアルビノ娘も候補の一人だったのね。絶対、間違いだと思ったのに」

「本当に、あの鍵が見えたのかしら?」


 ひそひそと言われるのも想定内だ。平然と壁際に立っていると「あの」と、ためらいがちに声をかけられた。


 顔を向けると、長い黒髪を一つに結び質素な巻きスカートをはいた、リズと同じ年くらいの女性がいた。

 女性は真っ赤な顔をして、何度もつばを飲み込みながら勢い込んで言った。


「あの! 私はあなたの髪と目、とてもきれいだと思う!」


 リズはあっけにとられた。小さく「ありがとう」と返すと、女性が顔をくしゃくしゃにして笑う。その控えめながらも嬉しそうな笑顔にリズは心が軽くなるのを感じた。


「実は私、アルビノの子を初めて見たの。周りにもいないから」

「うちの村でも私一人だけだった。近隣の村にもいなかったし」

「やっぱり、めずらしいのね。私は王都の外れのヨルディ地区から来たの。たいした魔力も持っていないのに、聖女候補だって言われて驚いたわ。あ、私、クレアよ。クレア・ハワード。よろしくね」


(ハワード!?)


 一瞬で前世の記憶が脳裏を駆けめぐった。恋人ユージンが跡継ぎになった名門ハワード家。


 でも、まさかだ。「ハワード」なんて他にもいるだろう。しかもクレアの服装は貴族じゃない、明らかに平民だ。けれど――。


 リズは息をのみ、ゆっくりと言葉を押し出した。


「ねえ、変な事を聞くけど昔――五百年前に王都内にあったハワード家っていう貴族と何か関係ある?」


 クレアの黒い目が驚いたように、まん丸になった。


「どうして、わかったの? 確かに私の先祖は貴族だったらしいわ。二百年くらい前に没落して今は平民だけど」


 驚愕のあまり変な声が出そうで、リズは慌てて口元を押さえた。そして、まじまじと目の前のクレアを見つめた。


(この子、ユージンの子孫だ……)

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[一言] わたしもこの王子殴ってやりたい!
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