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5 「再会」は最悪でした

 見合ったまま、凍りついたように動かないリズとキーファ。

 周囲のざわめきが大きくなる中、先に我を取り戻したのはキーファだった。


「……何でもない。大丈夫だ」


 だが神官に答える言葉とは裏腹に、キーファの視線はリズに張りついたまま離れない。顔は青ざめ口元が震えている。明らかに様子がおかしい。

 神官たちが顔を見合わせた。


「殿下、あのアルビノの娘とお知り合いで?」

「……いや。知らない娘だ」


 それは嘘だろう、とその場にいた誰もが思ったはずだ。

 いつも冷静で穏やかなキーファが、ともすれば取り乱すのを必死で抑えようとしているのは一目瞭然だからだ。


「ちょっと何なのよ、あのアルビノ娘。殿下とどういう関係なのよ?」

「何でもないに決まってる。だって、あの子の服装を見てよ。きっと平民よ。王太子様と平民が関係あるわけないじゃない」

「でも、あの殿下のご様子は……」


 周囲の聖女候補たちのざわめきが、ますますひどくなる。

 そんな中、リズも平静ではいられなかった。


(ユージンだ。ユージンだ……)


 頭の中が真っ白で、それしか浮かんでこない。


 実はユージンが転生していたら、とは考えた事があった。リズがこうやって生まれ変わったのだ。どこかでユージンも生まれ変わってるんじゃないかと。


 けれどそんな事はあり得ないと、その度に自分の考えを否定した。五百年前の話なのだ。また同じ時代、同じ場所に転生するなんてあり得ない。しかも――。


(まさかの王太子だなんて)


 衝撃的すぎて笑ってしまいそうだ。

 しかもキーファのあの驚きよう、前世のユージンとしての記憶があるのだ。リズの――セシルの事を覚えている。


(……!!)


 色々な感情が一気にふき出してきそうで、リズは歯を食いしばり両手を強く握りしめて、ひたすら耐えた。


 神官ロイドが驚いた顔を向けてきた。


「おいおい、殿下とどこで知り合ったんだよ? リズは王都に来た事がないんだろ? 殿下だって、あんな地方の小さな村に行った事があるなんて聞いた事ないし」

「今、初めて会いましたよ」


 ロイドが納得できないと言うように大きく顔をしかめた。


 リズは動揺を隠すように横を向いた。

 前世とは違う、今世はたくましく生きるんだと決心したはずなのに、一瞬で落ち着きがなくなる自分が情けなくてたまらなかった。


 やがてキーファがゆっくりと近付いてきた。

 緊張しているのか焦げ茶色の目が揺れている。それでも、ちゃんと話をしようと決心したような、そんな表情をしていた。

 皆がかたずをのんで見守る中、キーファがリズに呼びかけようとして――困ったように眉を寄せた。


「――名前は何というんだ?」


 知らないのか!? と、そこにいる誰もが思ったはずだ。


「――リズ・ステファンです」

「リズ。話がある。一緒に来て欲しい」


 感情を抑えたような低い声だった。




 ついてこようとした側近に中で待つように言ったキーファと、広間を出た廊下の突き当たりで、リズは向かい合った。


「セシル」


 五百年ぶりに名前を呼ばれて全身が震えた。声は違えどユージンに呼ばれたのだと感じた。 

 心の奥底から言葉をしぼり出すようにキーファが続ける。


「久しぶりだな。……また会えるなんて思ってなかった」


 リズは無言でうなずいた。


「君は、俺には会いたくなかったかもしれないが」


 キーファが自嘲じちょうするような笑みを浮かべた。

 リズははじかれたように顔を上げた。

 やっぱりセシルは捨てられたのだ。わかりきっているつもりだったが「ユージン」自身に言われると改めてこたえた。


「……そうだね。会いたくなかったよ」

「だろうな」


 それっきり沈黙が訪れた。心がうつろになりそうな、とても重い沈黙だった。

 その沈黙を破ったのはまたしてもキーファだったが――続く言葉は、リズの予想のはるか斜め上をいくものだった。


「前世の事は水に流そう」


(はあ!?)


「それが、お互いのためにいいと思う」


 淡々と言うキーファに、リズはぼう然となるしかない。きわめつけは


「昔の話だしな。今は、俺はキーファで君はリズだ」


(何よ、これ……?)


 裏切られたのはリズの方なのに。キーファのこの「両成敗」発言、いや、何よりキーファこそが被害者だと言わんばかりのこの態度は何なのだ!?


(……!!)


 一瞬で怒りが沸点に達した。五百年分の怒りだ。すさまじいものがある。

 普段のリズは比較的冷静であまり動じないタイプだが、この時ばかりは違った。一言でいうとキレた。


「ふざけんな――っ!!」


 渾身こんしんの叫びが静かな廊下に響いた。


「なぜ君が怒るんだ!?」


 理不尽だとでも言いたげにキーファも声を荒げる。


「うるさい! 貴族の次は王族になって心底、腐ったようね!」

「何を言って――!」

「殿下、どうされましたか!?」


 二人の言い合いは血相を変えて飛び出してきた側近と神官たちにより止められた。

 キーファは王太子としての自分の立場を思い出したようで、声を荒げた事を恥じるように顔をそむけた。それでもリズを一心に見つめる、その焦げ茶色の目には静かな怒りの色がある。


「おい、アルビノ娘! 殿下に何をした!」

「別に何も」


 詰め寄ってくる神官たちをふりほどき、リズは足を踏み鳴らしてその場を去った。

 怒りがおさまらない。何て最悪な「再会」なんだ。怒りと一緒に悔し涙がこぼれた。

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