3.異世界に行きそびれました
「いやーーーーー!」
叫びながら私は飛び起きた。
身体がズキズキとあちこち痛い。
痛みに顔をしかめながらも、辺りを見渡す。
白で統一された部屋。
近くにいたお医者さんらしき若い男の先生と、ベテラン風な看護師さんが驚いた顔をして私を見た。
……戻ってきちゃったんた。
「先生、患者の意識が戻りました」
「そのようですね。では、ご家族に知らせてきてください。説明も一緒にお願い致します」
「わかりました」
看護師さんが部屋から出て行く。
「どこか、痛い所はありませんか?」
先生と呼ばれた、若い男の人がゆっくりと話しかけてきた。
「全部です」
「どのように痛いかな?」
「ぶつけたみたいにズキズキします」
「全身を打撲しているからですね。痛みは2、3日で取れますよ。その他に吐き気や頭痛などはありますか?」
「いえ」
「今は大丈夫かもしれないけれど、後々、症状が出てくることもあります。何かあったらすぐに話してください」
「わかりました」
「私はあなたの担当医になります、大知と言います。失礼ですが、ご自分の名前と年齢を言えますか?」
ダイチ?
名前を聞いて、私は傍に立つお医者さんを見た。
首からぶら下がったネームプレートには『大知』と書かれていた。
優しく微笑むその顔は、管理人だったダイチとは全く似ていない別人だった。
大知先生は爽やかだけど、どこか頼りなさそうに見える。
名前は偶然よね。
さっきのことは夢だったのかもしれないし。
おでこを触っても押されたはずのスタンプは無さそうだった。
「おでこがどうかしましたか?」
私を見て大知先生が笑った。
ヤバ!!
私、変な行動してる。
「なんでもないです、先生。名前は、金沢茉莉です。年は13歳です。」
「うん。名前もちゃんと言えているし、今のところ問題は無いので、今日は帰っても大丈夫ですよ」
「はい、ありがとうございます」
大知先生が病室のドアへ向かって歩いて行く。
もう行っちゃうの?
「ダイチ!」
「えっ?」
振り返った大知先生は驚いた顔をした。
ドアの近くにあったテーブルにカルテを置き、ペットボトルを手に取った。
なんだ。
出て行くんじゃなかったのか。
ホッと胸を撫で下ろした。
「もしかして、覚えてるの?」
「覚えてる?」
「今、私のことを、先生ではなくダイチって言ったから」
「あ……」
2人は全く似ていない。
それに先生を、まして、大人を呼び捨てで呼ぶなんて。
「すみません。何だか変な夢を見ていて、その夢にダイチって人がいたんです。同じ名前だったので……。すみません。夢の中の人と先生が同じ名前だなんて、すごい偶然ですよね」
「偶然でも夢でもないよ。姿が違うけれど、僕は管理人のダイチだ」
「嘘」
「嘘じゃない。正真正銘、あの世の管理人だったダイチだ」
先生の目は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。
「先生は本当にダイチなの? でも、どうしてここに? それに、何だか別人みたい」
「覚えているんだね。茉莉が戻った後、閻魔大王様に絞られたんだ。そして罰として、茉莉を迎えに行けって、この世に行かされたって訳だ。。中々戻って来ないから心配したよ」
なんだ。
ちゃんと元の世界に戻ったのか、確認に来たのか。
「じゃあ、もう、戻っちゃうの?」
「いや、この世に転生してきたから戻れないよ」
「転生? 私の後に生まれ変わって、なんで戻った私より先に来ているの? それに、なんで大人になっているの?」
「時間の流れが異なっているからね。僕が転生したのは、茉莉が戻る25年位前。名前が同じなのは、閻魔大王様のせめてものお計らいってところだ。だから、茉莉にとってついさっきの出来事だろうけれど、僕には、20年以上も前のことなんだよ」
「そんなに前から」
「ああ。もしかしたら世界軸がズレて、茉莉に会えなかったのかもと思っていたんだ。今日、運ばれてきた茉莉を見て、一目で茉莉だって気付いた。今、茉莉は昔の僕に会っているんだなって思うと変な感じだった。おっと、ご家族が来たみたいだ。僕の話は内緒だよ。事故の後に、あの世での出来事を話したら心配させてしまうからね」
「うん」
私が頷いた直後にドアが開き、パパとママが入って来た。
「茉莉! 気が付いたのね! 良かった。本当に良かった!」
「ママ、痛いよ」
ママが泣きながら私を抱きしめたので、全身が悲鳴を上げる。
でも、パパもママも大丈夫そうで安心した。
「ほらほら、ママ。せっかく無事だったのに、とどめを刺しちゃダメだよ」
「そうね。茉莉、ごめんね。大丈夫?」
「うん。痛いけど大丈夫。パパとママは大丈夫なの?」
「この通りだ。ただ、車が廃車になってしまったよ。気に入っていたんだがな~」
パパがぼやく。
私だけが衝突のショックで意識を失っていたみたい。
閻魔大王様が言っていた通りだ。
「金沢さん、お話をしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
「先程、看護師からも説明をさせていただきましたが……」
大知とパパが今後の事について話し始めた。
堂々と説明する大知さんは、先程の頼りなさげな様子は微塵にも感じられない。
白衣を着て話す姿は自信に溢れた大人の男性だった。
「茉莉さん」
「は、はい」
パパへの説明が終わった大知が私の所へとやって来る。
「ベッドから降りられますか?」
「はい」
差し出された手を掴むと、何か固い小さな物がある。
ベッドから降り、ギュッと握らされる。
大知を見ると悪戯っ子のように笑い
「後で電話して」
と囁いたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
実は、昨年末に事故に遭いまして、この話はその時の出来事を元にしています。
運良く怪我とかも無く、家族みんな無事だったのですが、車は見るも無残に廃車決定。
ガードレール7枚、支柱?電柱?を3本ぶち壊したそうです。(*´∀`*)こわーい♪
年の終わりに大きな厄を落としたと思いたいですね。
と、言うわけで。
あらすじに書きました、実話・夢現・希望の内訳はこんな感じです。
半分実話:事故での部分
夢現部分(正気に戻るまで?&昔見た白昼夢)狭間~あの世の部分
甘い希望:イケメンのお医者さん(やっぱ、都合良くいないよねー)
でしたー!
あー。やっぱりねーってところでしょうか?
高速道路を歩いたりと貴重な体験でした。
二度としたくはありませんけれども。
ブックマークしてくれた方、ポイントを付けてくれた方、ありがとうございます。
とても嬉しいです。
あと、このあとがきを最後まで読んでくださったあなたに感謝を込めまして
ありがとうございました!