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2.彼岸の中で

 彼岸花が咲き誇る道なき道の先に、鮮やかな緑色の服を着た少年が見える。

 彼が管理人だろう。


「こんにちは」

「ええー?! 誰? 今、誰かしゃべった?」

「はい」


 ひらひらと手を振ると、管理人さんは私の周りを何度か確認してるみたいだった。

 もしかして、私も白いモヤモヤに見えるのだろうか?


「うっわー。珍しいこともあるもんだね。ここでしゃべるコに会ったの、僕は初めてだ。僕はダイチ。君は?」


 私は答える代わりに首を振った。


「そう。思い出せないんだね。おいで、案内してあげるよ」

「ありがとう」


 変わらない景色を、2人並んで歩く。


「雫から何か聞いてきた?」

「うん。狭間の世界で意識があるのは珍しいって」

「そうだね。本来なら記憶が消えていく場所なのに消えないで取り戻すのだから、とっても珍しいよ」

「雫さんは私で3人目だって言ってた」

「さすがだな。僕は管理人になって100年程だから、君が初めてだよ」

「もしかして、レア?」

「ああ、S級だね。さて、ここが休憩室だよ。あの世に来たら、全員、この部屋に来ることになっているんだ。順番になったら閻魔大王様の元へ行って、次の行き先を決めることになっている。この部屋にある本は、この世にある全ての世界を見れるから、来世をどこにするか決めたらいいよ」

「うん」


 前にあるアーチをくぐると、中は図書館みたいに大きな本棚が並んでいた。

 ダイチさんがその中から1冊の本を取り、ページをめくる。


「ここなんてどうかな? 動物が沢山いるから楽しそうだよ?」


 草原に大きな象や、どう見てもゲームに出てくるようなドラゴンが恐ろしい咆哮を挙げた。

 水辺には大きな魚が水上に飛び跳ねている。

 動物って言うのかな?

 どちらかと言うと、魔物みたいだ。


「そ、そうだね。ダイチさんは動物が好きなの?」

「ダイチでいいよ。うん。ここには動物はいないからね」

「じゃあ、ダイチ。元の世界、日本を見ることはできる?」

「日本? 確か、この世界にある島のことかな? はい」


 1冊の本を取り、パラパラとページをめくる。

 差し出されたページには、沢山の高層ビルの間にあるスクランブル交差点が映し出されていた。

 沢山の人がせかせかと歩いている。

 日本とわかるけれど、懐かしさは無かった。

 

 私、なんで死んだんだろう?

 自問自答しても答えは見つからない。


「ねぇ? ダイチはなぜ、管理人になったの? それと、あといつまで働くの?」

「うーん。僕は閻魔大王様の眷属だから、選んだんじゃないんだよね。期間の定めは無いから、代わりの人が来るまでだな」


 ダイチは少し困った顔で笑った。


「全然、選んでいないじゃないか。僕のことより、こっちの世界はどう? 世界を作った神様が実在する世界だ。僕の知り合いがいるから、君のこと頼んであげるよ」

「知り合いがいるの?」

「うん。彼がいる神殿は神様も立ち寄られるし、僕も御使いを頼まれることがあるからまた会えるかもしれない」


 その世界は、ギリシャ神話に出てくるような景色で、神様に会えるなんて面白そう。


「ホント? じゃ、その世界にする!」

「決まって良かった。じゃ、またな」


 ダイチがそう言って私の肩をぽんと叩いた。

 一瞬で周りの景色が変わる。

 

 小さな部屋に机と椅子が1つずつ。

 姿は見えないけれど、椅子には誰かが座っているようだった。


「そちは、ここがどこだか、わかっておるのかのう?」


 小さい子供の声で話しかけられた。


「はい。ここはあの世で、閻魔大王様の前、ですよね?」

「うむ。そうでおじゃる。……その通りでおじゃるが……」


 なんで困ったように言うのだろう?


「管理人たちから何か聞いておるかの?」

「はい。来世に行く世界を選べると聞きました」

「もしかして、次に行く世界を既に決めていたりするのかな?」

「はい。ダイチが勧めてくれた世界にしようと思います」

「な、なんと! ダイチめ、余計なことをしおって! 彼奴(きゃつ)には後で罰を与えねば」


 罰?

 選んで来たらいけなかったのかな?


「もし、茉莉とやら」


 まり?

 そう、私の名前は茉莉だ。

 名前を聞いて全てを思い出す。

 銀河鉄道の夜を読んだのは、小学5年生の夏休みの宿題で読書感想文を書くことになったから。

 さっき見た日本は、住んでた街じゃなかったから。

 そして、おじいちゃんの家に行く途中で、パパの運転する車が事故に遭ったことも。


「ふーむ。その様子じゃと、思い出したようでおじゃるな」


 私は頷いた。


「はい。パパの車の前に車が飛び出してきて、車がクルクル回って、……私、死んだんですね」

「ちと、違うかの」

「えっ?」


 声のする方を見たけれど、相変わらず、あるのは机と椅子だけだった。


「車が回転したのは確かじゃが。茉莉や、そちは死んでおらぬのじゃ。事故発生時に偶然通りかかった狭間の汽車に乗ってしまっただけなのでおじゃる。と言うわけで。管理人の言葉は忘れて、元の世界に戻るが良い」

「嫌よ!」

「ななな、なんと! 嫌と申すか?」

「私は新しい世界で生まれ変わるの。間違いでも交通事故が起きた場所に戻るなんて、嫌だわ!」

「むむ。茉莉が言うのももっともじゃが」

「絶対に嫌! 身体だって、パパやママだって大丈夫なのかわからないし。これから辛い思いをするのがわかっているのに戻れなんて、あんまりだわ。」


 今ならハッキリと思い出せる。

 急ブレーキの耳障りな音。

 ママの悲鳴、パパが

「もうダメだ」

 と言って、ハンドルを手放すのが見えた。

 左右にフラついていた車がガードレールや雪山にぶつかって回転し始める。


 ……その後の記憶は無い。

 怖い。

 そんな場所に戻るなんて絶対嫌だ。


「しかし、麿も間違いで命を摘み取る訳にはいかんのでおじゃる。茉莉や、戻られよ!」


 真っ赤な顔をした子供が目の前に現れる。


 ポン!


 おでこにスタンプを押された。


お読みいただきありがとうございます。

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