1.狭間の中で
気が付くと、白く霞がかった場所だった。
見渡すことができない深い霧。
ここ、どこ?
「あれまぁ。珍しい。あんた、気が付いたんだねぇ」
私の問に答えるように、1人の女の子が現れる。
桃色の髪にクリーム色の着物を着た、私と同じ年くらいの女の子。
薄暗い中、彼女にだけスポットライトが当たっているみたい。
「ここで意識のある人は、珍しくてね。なんでも魂の輝きが強いんだってさ。あんた、自分のこと思い出せるかい?」
自分のことを思い出す?
思い出すって何を?
なんで私はここにいるの?
「やっぱり、思い出せないかい? ねぇ、名前は?」
「思い出せないって、何を思い出すの? ここはどこ?」
「まぁまぁ、落ち着いて。ここはね」
コホン。
女性はわざとらしく咳払いをした。
「ここは、この世とあの世を結ぶ、狭間の世界。私は雫って言ってね、この狭間の世界の管理人なのさ。見えにくいかもしれないけれど、この汽車には沢山の人が乗っているんだ。周りに白く見えるのが全部、人なのさ」
「白く? この霧は、人なの?」
「そう。さっきまではあんたも同じような姿だったんだよ。急に現れたからびっくりしたのさ。いいかい、この世にある全ての世界の人は、死んだらこの狭間にやってくる。狭間からあの世へ行き、また新たな命となってこの世の世界に戻るのさ」
「それって、輪廻転生?」
「そうだよ。よく知っているね。あの世に着くまで暫くあるから、知りたいことがあったら教えてあげるよ」
「あの世に向かっているってことは、私、死んだの?」
「うん。そういうことになるね」
恐ろしい位あっさり言われる。
「管理人をして暫く経つけれど、その間に意識が戻った人はあんたで3人目。前の2人は男性でさ、1人は無口なのか全然話してくれなかったし、もう1人は死んだって知ってショックを受けちゃったんだよ。あんたは平気そうだね」
「全然平気じゃないですけど。死んだって言われても実感ないし。雫さん、私は何で死んだの?」
「うーん。それがわかんないんだよね。名前がわかれば調べられるけど」
「そう」
どうでもいいようなことは思い出せるのに、肝心な自分のことは思いだせなかった。
例えば、今いる場所はレトロな汽車の中。
窓から見える景色は、星が瞬く宇宙だった。
まるで、銀河鉄道の夜みたい。
そんなことはわかるのに、その本をいつ読んだのかは思い出せない。
「雫さん。あの世には、やっぱり閻魔大王がいるの?」
「ああ、そうだよ。よく知っているね。大丈夫だよ。そんな顔しなくても怖くないから!」
バシバシと背中を叩かれる。
死んでも叩かれると痛いんだなぁ。
「痛いよ。雫さん。だって、物語に出てくる閻魔大王は真っ赤な鬼の姿だったよ」
「はは、ごめんごめん。閻魔様はね、来世を選ぶ承認者なんだ」
「来世を選ぶ?」
「この世の世界は沢山あってね。元の世界と似ている世界もあれば、全く異なる世界もある。互いに行き来できる世界もあるんだよ。あの世に着いたら、来世をじっくり選ぶといいよ」
「うん」
「さぁ、着いた」
雫さんが言うと、汽車が停まった。
白いモヤモヤした人たちがどんどん降りて行く。
「降りた所にあの世の管理人がいるから話しかけてやって。私ら管理人は、みんな退屈してるんだ。きっと驚くと思うよ」
「わかりました」
「達者でね!」
「うん、ありがとう」
私が降りると、雫さんを乗せた汽車は煙に包まれて見えなくなった。
お読みいただきありがとございます。