10月31日
「ルナ、朝ごはんよー」
「はーい、今行くー」
いつも通りの朝だ。母がリビングから呼びかける。
「今日も健康的な一汁三菜、和風焼き魚定食よー!」
そう言って母は嬉しそうに焼き魚を出してきた。
「あら、ハロウィンじゃなーい」
テレビニュースを観ていた母が言う。
「今日は待ちに待ったハロウィン♪ということで、今日はハロウィンのスイーツ特集!」
最近テレビによく出ている女優がハロウィン特集をやっていた。
ん?今日はハロウィン?
「お母さん、今日何日?」
「日付くらい自分で確認しなさいよー、10月31日、ハロウィンよ!」
「あ、ごめんごめん、ボーッとしてて」
「まったくもう、ルナったらいつもそうなんだから。ほら、もう学校に行く時間じゃないの?」
「本当だ!行ってきまーす」
「ルナおはよー!」
「あ、ミユ、おはよ!」
教室に着くとすぐ、明るい声で挨拶をしてきたのは、ミユだ。
「今日は待ちに待ったハロウィンだよ!楽しみ!」
「来年は受験だし、そんな暇ないからねー」
今日は待ちに待ったハロウィンパーティーだ。
「おはよー」
「おはよー」
「お、今日も遅かったね」
「ま、遅刻したことはないからいいでしょー」
そういって始業寸前に教室に入ってきたのは、ユヅキとキョウカ。
「おはよー、ホームルーム始めるぞー」
ユヅキとキョウカとほぼ同じタイミングで担任が入ってきた。私たちは各々の座席に座った。
「ねえ、今日仮装なにやる?」
ホームルーム中にも関わらず堂々と誰かに話しかけているのはレオだ。
「おい、誰に話しかけてるんだよー」
笑いながら答えるのはケイスケだ。
「なんだよ俺イタい感じになっちゃったじゃーん」
とレオがしょんぼりすると、クラスに笑いが起こった。
ハロウィンパーティーが楽しみで、今日ばかりは授業内容すら全然頭に入ってこない。
とはいえ、あっという間に午前の4時間は過ぎて、昼休みになった。
「ユヅキ、一緒に昼食べよ」
「いいよ!屋上で待ってる」
「えー今日もユヅキ、ショウくんと食べるのー」
「ごめんねキョウカ!明日は一緒に食べよ!」
そう言って、ユヅキは屋上に行ってしまった。
「ユヅキ、最近ショウくんばっかり。なんだかユヅキが取られちゃった気分」
「まあまあキョウカ、恋人はいつか別れるけどさ、幼馴染は切っても切れないから大丈夫だよ」
そういって笑いながら慰めるのは、サトミ。
「そうだよね!大丈夫だよね!」
「でもあの2人、相当仲良いよ。このまま取られないようにねー」
冗談めかしてチヅルが言う。
男子は男子で、皆で食べている。
「なんだよ、今日もショウいねぇのか」
「ま、タイト、あいつのことなんてほっといて、早く食べようぜ」
ややキレ気味のタイトに、リュウセイが言う。
いつも通りのS組だ。
私たちは1日、ハロウィンパーティーを楽しみにして最終下校時刻を待った。
「本日の最終下校は、18:30です。戸締りをして下校しましょう」
18時25分、最終下校時刻を告げる放送が流れる。部活も終わり、生徒たちは家路につく。
「さあ、ハロウィンパーティー始めるよー!」
そう言ったミユは、黒猫のコスプレをしている。
「ちょっと待ったー!俺も入れろー」
「せ、先生!?」
包帯をぐるぐる巻きにした担任が教室に飛び込んできた。
「な、なんで?」
「お前ら、賑やかにハロウィンパーティーもいいけどな、大事なことを忘れてないか……?」
そうだ。今日はハロウィンだ。
もう忘れることなどない。
「マイカの……命日だ」
一年前のこの日に自殺した、あの子の命日だ。
「そうだったな……」
クラスがしんと、静まってしまった。
そこで口を開いたのは、やっぱりレオだ。
「よし、マイカの分も、お菓子貰ってくるぞ!」
「……」
数秒の沈黙の後、どっと笑いが起こった。
「レオ、それお前が食べたいだけだろ」
「いや、ちげえよ俺はマイカのことを思って」
「いやいやいや」
「レオ、よく言ったぞ。マイカはこんなクラスメートが持てて、幸せだな」
「よし、じゃあ行こう!」
マイカは幸せだったのか、それは私には分からない。
今日までマイカのことからは目を背けてきた。
マイカという名前を聞く度に、自分が責められているような気がして、辛かったから。
だけどマイカが、私が今日から一歩前に進めるように手助けをしてくれたのかもしれない。
「ハロウィンのよるにはね、しんだ人のおばけがかえってくるんだって」という話を小さい頃どこかで聞いたことがある気がする。
マイカもきっと、ハロウィンの日に帰ってきたのかもしれない。
窓の外からは、明るい月光が差し込み始めていた。
「ルナ、なにボーッとしてるの?行くよ!」
「ごめんごめん、今行く!」
マイカの分のお菓子もちゃんと、貰ってくるからね。




