第4夜⑶
「ねえ、ルナちゃん。私がなんで死んだかわかる?」
「え?何よ急に……!」
「……ルナちゃんに、私を忘れさせないようにするためだよ!」
「そんなの滅茶苦茶じゃねえか」
「いや、私、知ってる……」
「キョウカ?」
キョウカがゆっくりと話し始めた。
「私、マイカが死んだ日、ユヅキとたまたま駅に行ったんだ。
そしたら、警察がいて、話しかけられた。その時にマイカの遺したメモの内容を聞いたの。
『私の大切な人が、私のことを忘れられなくなりますように』って」
「どうしてそれを今まで黙ってたんだ?」
「それは……
ルナを傷つけちゃうと思ったから」
「え?」
「実はね、マイカが死ぬ少し前に、聞いてたの。ルナがあまり一緒にいてくれなくて寂しいって。
だからあのメモの意味も分かっていた。
でもメモの内容をルナに伝えたら、ルナはきっと自分のことを責めちゃうかもしれないと思って、黙ってた」
「そうだったのか……」
「で、人狼ゲームに俺たちを招待したのはお前なのか」
「そうだよ」
「どうしてそんなことしたんだよ」
カケルがマイカに詰め寄る。
「私はね、ルナちゃんっていう大事な友達を失ったの。
でもね、もし私が死んだら、ルナちゃんの心はずっと私のものになるんじゃないかと思ったの。
だけどそれどころか、私が死んでも、ルナちゃんは何もなかったかのように、毎日楽しくしてた。
だからね、死んでからずっと、味あわせてあげようと思っていたの。
大切な友達を失うことの苦しみをね。
そう思っていたらね、万聖節の前日、私が死んでちょうど1年後、自分の体が学校に戻ってきたことに気づいたの。
それで、あの日と同じ、人狼ゲームを実現することで、ルナちゃんにも存分に苦しんでもらおうと思った」
「だからって皆のこと殺さなくてもいいだろ!」
「私が殺したわけじゃないよ」
「え?」
「だって人狼に食べられたタイトとサトミとチヅルは、ルナちゃんが殺したんだよ?
妖狐だってチヅルの占いで呪殺されたんだし、ショウは皆で処刑したんだし、ユヅキなんて自殺したんだよ?
私、誰のことも殺してなんか……」
「ふざけるなよ!」
「別に私、ちっとも後悔してなんかいないよ。
ルナちゃんから友達が1人、また1人消えていって、その度にルナちゃんが悲しむのを見ていて、なんだかすっきりしたよ。
あはははははははははは」
マイカはそう言うと、狂気的に笑った。
マイカのこんな顔は、初めて見た。
その笑顔は、言葉は、私の心を滅多刺しにした。
今思えば、マイカをないがしろにしたことも、マイカを忘れようとしたことも、悪かったかもしれない。
マイカには、本当に寂しい思いをさせていたのだろう。
「マイカ!たしかに私はね、マイカのことを忘れようとしたよ。自分が辛くなることから逃げるために。それは本当に悪かったと思うよ。でも……でも!」
でも……
「私の知ってるマイカは、こんなことしない!」
「え……?」
「私ね、マイカとのこと、結局忘れることなんてできなかったんだよ!ここ最近、ずっとマイカが夢に出てくるの。そこで小さい頃のマイカは、優しい笑顔をみせてくれてたの。それなのに、どうして……」
涙が出てきた。
「ごめん……ルナちゃんのことが好きだから、だからこそ、自分一人が忘れられちゃうことが辛くて……
でも私、忘れられてなんかいなかったんだね」
「うん……」
「でもね、きっと私を見つけたっていうことは、このゲームも終わりだよ」
「え、本当か?もう誰も殺されずに済むのか?」
「うん。そうしたら私、またこの世界からいなくなっちゃうの」
「え……」
「最後にルナちゃんに会えて嬉しかったよ」
マイカが、幼い頃のような、優しい笑顔を見せてくれた。
「じゃあゲームを、終わりにしよう」
それを聞いたのが最後だった。
職員室に満月の光が差し込んだ。
まだ0時までは時間があるはずだ。しかし強烈な痛みを身体中が貫いて、また私は意識を失った。
今夜のターゲットはまだ決めていないはずなのに。




