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人狼学園  作者: 天草メイ
4日目
35/39

第4夜⑵

「マ、マイカ……!」


「お、お前去年死んだはずじゃ……!」


マイカを探しに来たとはいえ、死んだはずの人間が目の前にいるということは、やはり皆にとって信じられないことだった。


「そうだよ。去年の今日、私は帰りの電車に飛び込んだ」


「どうしてこんなことしたんだよ?」




「許せなかった」




「何をだよ」



「……」



「黙っていたらわからないよ」


レオがそう言うと、マイカはゆっくり私の方へ歩いてきた。





「ルナちゃんが、私のこと忘れちゃうから……!」





私に向かって、マイカは叫んだ。


「そんな、私はマイカのことを忘れてなんか……」


「嘘だ!高校生になるまで、あんなに仲良くしてくれたのに!高校生になって新しい友達ができて、私なんてないがしろにされて……!挙げ句の果てに、私が死んでも、まるで何もなかったかのように楽しそうにしてるじゃない!どうして私のこと忘れちゃうの⁉︎どうしてどうしてどうして」




「ちょっとマイカ、落ち着け」


「そうだよマイカ」


キョウカとレオがなだめている。


でも私は、マイカに全く反論できなかった。






走馬灯のように、マイカとの記憶が蘇る。


小学校1年生のある日、私たちは放課後公園で遊んでいた。


「ルナちゃん、ブランコで遊ぼうよ」


「いいよ!」


「やったー!」


マイカは私と遊んでいる時、とびきりの笑顔を見せてくれた。


ブランコを漕いでいると、

「ルナちゃんは、好きな人いる?」

突然そんなことを聞かれた。


「……内緒!」


その時は、そう答えておいた。


「そっか……残念」


マイカはひどく悲しそうな顔をした。


「あたしはルナちゃんのことが好きだよ?ルナちゃんはあたしのこと、嫌い?」


「す、好きだよ!」

ほとんど反射的に答えていた。


「ほんとに?嬉しいな」


「う、うん!マイカのこと、大好き!」


「あたしのママね、あたしのこと大嫌いなの。あたしはママのこと大好きなのにね、いつもあたしのこと叩くの。だからルナちゃんもあたしのこと嫌いだったら、どうしようと思ったの」


「え……だ、大丈夫だよ!私はずっとマイカと友達だもん!」


マイカは、小さい頃から可哀想なほどに痩せていた。


着ている服もいつも同じだった。


顔には傷もあった。


母親からの虐待を受けていたことは、明らかだった。


だけど私は、おさな心にそれについては触れないようにしていた。




小学校5年生の頃には、こんなこともあった。


昼休みに外で友達と鬼ごっこをしていた時、校舎の裏から何人かの女子の声が聞こえた。


誰かを罵っているような声だった。私は気になって、声のする方へ向かった。


「ねえ、気持ち悪いからそこどいてくれない?」


「あんた見てるだけで吐き気がする」



マイカと同じクラスの女子3人が、マイカを囲んでいた。



「あ、あの……」


「うわっ、ゴミが喋った」


「やだー」


マイカが口を開くなり、罵倒の嵐だった。


ついにそのうちの1人の子が、マイカの髪を引っ張り出した。


「ゴミはゴミ箱に行きなよ」


「あははは」


マイカは、唇を噛んで必死に耐えていた。涙も流していない。


止めに行かなきゃ……!


そう思った。



「あんたたち何やってるの!そんなことして何が楽しいの?」


「うわ、ゴミの味方が来たー」


「良かったね、ゴミにも友達がいて」


3人組は笑いながら去っていった。


「ルナちゃん、助けに来てくれたんだ!」


マイカは3人組が去ったのを確認するとすぐに、私に抱きついてきた。


「ケガはない?」


「ううん、ルナちゃんが助けに来てくれたから大丈夫!」


マイカはとても嬉しそうだ。


「今度あんなことされたら、すぐに私を呼ぶんだよ。いつでも助けに行くから」



母親からの虐待のおかげで、気も弱く、みすぼらしい姿をしたマイカは、小学生の頃はよくいじめの標的となった。


そんなマイカを守るのは、自分の義務のような気がしていて、私は少しヒーローぶっていた。


そしてなんとなく、マイカに対して優越感を覚えていた。


それからも私たちは、中学でも一緒にいた。高校も一緒に、ここ、美浜学園に入学した。





そして、高校の入学式のことだった。


桜の道を通り抜けた先の昇降口へ向かう。すると、マイカが近づいてきた。


「ルナちゃん、私たち、同じクラスだよ!」


昇降口前に貼られているクラス名簿を見た。



____1年S組

安住泰斗 アズミタイト

志賀啓介 シガケイスケ

成松懸流 ナリマツカケル

降矢礼央 フルヤレオ

桝井彰 マスイショウ

守田隆盛 モリタリュウセイ

生駒柚枝 イコマユヅキ

咲本鏡花 サキモトキョウカ

築島里美 ツキシマサトミ

夏目千鶴 ナツメチヅル

音室未遊 ネムロミユ

逸見月咲 ヘンミルナ

綿位舞歌 ワタイマイカ

以上13名____



「あ、本当だ。1年S組だね!」


「高校生になっても、ルナちゃんと一緒にいられるなんて、嬉しいな。頑張って勉強してよかった!」


「うん、そうだね」


少し嫌な、疎ましい気分がした。


「ルナちゃんは、ずっと私と一緒にいてくれるよね……?」


「うん、もちろん!」


この時、私はマイカに対する嫌悪感を覚えた。




その後教室に着くと、前の席に座っている女の子が話しかけてきた。


「私、ミユ!今日からよろしくね!」


なんだこの子、すごくキラキラしてて可愛いと思った。それがミユだ。


「うん、私のことはルナって呼んでね!よろしく!」


こんなに素敵な子がクラスにいるなんて、薔薇色の高校生活が送れそうだ。




そう思った時だった。


後ろから、冷たい視線を感じた。マイカだ。しかし私は振り向かなかった。



それから私は、マイカとは少しずつ距離を置くようになった。



ミユといる方が、楽しかったから。






そしてあの日、マイカが自殺した。


____なぜだろう、高校にあがってからはいじめられていたわけでもない。


成績も優秀だった。現にマイカは、カケルと常に学年トップを争っていた。


自殺する要因など見つからない。まさか本当にハロウィンのせいで死んだのか。


……そういえば、小さい頃から母親に虐待を受けていたっけ。そうだ、それが原因でマイカは自殺したんだ。


私はそう思うことにした。葬儀にこそ行ったものの、それ以来、マイカのことを思い出すことはなかった。


というより、思い出さないようにしていた。




でもそれは、心のどこかで気づいていたからだ。


マイカは、高校に入ってからずっと、寂しそうにしていたことを。



母親からも愛されず、友達もあまりできずにいたマイカにとっては、私がいなければ、何も残らないのだということを。







それでそのまま、自ら死を選んでしまったことを。


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