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人狼学園  作者: 天草メイ
4日目
32/39

キョウカサイド


私がユヅキからの手紙を読み上げているのを、レオが遮った。


「待て、今”マイカ”って言ったよな?」


「うん」


「”マイカと同じ思い”ってどういうこと?」


「そ、それは……」


しまった、と思った時にはもう遅かった。ルナが視線を逸らした。





S組には、1年生の時マイカという女の子がいた。


マイカは痩せていて、クラスでもあまり喋らない子だった。


そんなマイカが、1学期のある日ユヅキと私に話しかけてきた。



「ねえ、キョウカちゃん、ユヅキちゃん」


あまり聞くことのないマイカの声に少し驚いた。


「2人はいつも一緒にいるんだね」


「うん、小さいころから一緒だけど」


そうだ。ユヅキと私は小さいころからずっと一緒にいる。でもそれがどうしたのか。


「そっかぁ……私もね、小さいころからずっとルナちゃんと一緒にいるの」


「え、そうなの?」


ルナがマイカと幼馴染みなんて、初耳だった。第一、マイカはいつもミユと一緒にいた。


「ルナちゃんは、私がママや他の女の子に虐められたとき、いつでも私のことを助けてくれた。私はルナちゃんのこと大好きなの。でもね、最近は私とはあまり話してくれないの。ずっとミユちゃんと一緒にいるから。寂しいな……なんてね」


「そうなんだ……」


マイカは悲しそうな顔をしていた。




その時は全く共感できなかったけれど、ユヅキが私を捨てて、ショウの後を追って死んだ今、その時のマイカの気持ちは痛いほどよくわかる。


自分にとって大切な幼馴染みが、誰かにとられてしまった時の悲しみ。ショウなんかより、私の方がユヅキのことはよく分かっているのに。




そして、あのハロウィンの日がやってきた。


S組で人狼ゲームをした。


その帰り、私はいつも通りユヅキと一緒に自転車で帰っていた。


でも、せっかくのハロウィンだし、駅の近くでお菓子でも買って行こうと言うことになった。


それで、買い物を済ませていざ帰ろうとすると、駅の前に救急車と消防車、警察車両が来ていて大騒ぎになっていた。


「どうしたんだろう?」


野次馬に紛れていると、警官が近寄ってきた。


「美浜学園の生徒さんですか?」


「そうですけれど……どうかしましたか?」


「とりあえずこちらへ」


警官に連れられて、野次馬の外に出た。




「先ほど、こちらの駅で飛び込みが発生したんだけど、それで、線路に飛び降りた少女のものとみられるカバンがホームに残ってたんだよね。で、カバンからは美浜高校の生徒の学生証が出てきたんだよね。でももう学校に連絡しても誰もいないからさ、この子の親の連絡先も分からない。君たちこの子のことは知ってる?」


学生証を見て、私たちは驚いた。



証明写真には、いつも見ているマイカの顔があったからだ。


「知ってます……同じクラスの子です」


「親御さんの連絡先はわかる?」


「それは分かりません」


「わかった、ありがとう。じゃあ最後にもう一ついいかな?」


「はい」


「この子が学校でいじめられていたとか、そういうことってあった?カバンの中に遺書のようなメモが残っていて……」


マイカにいじめ?それは無かった。S組に誰かをいじめるような人なんていない。


「そのメモにはなんて書いてあったんですか?」


「『大切な人が、私を一生忘れられなくなりますように』って。ただそれだけが書かれていた。この子の”大切な人”って誰だろう?」


「うーん、マイカの大切な人ね……特に彼氏がいたとかって話も聞かないし。キョウカ、なんか心当たりある?」


「私にもわからないや」


「そうか、協力ありがとう」


そう言うと、警官は去っていった。


「とりあえず帰ろうか。私たちがいても邪魔になっちゃうだろうし」


「もう夜遅いしね」


私たちはとりあえず家に帰ることにした。



マイカが自殺した衝撃は、大きかった。


「マイカ……どうして自殺なんかしたんだろう」


「なんか悩んでることとかあったのかな?」


「うーん、成績も優秀だったし、いじめられているわけでもなかったし」


しばらく沈黙が続いた後、ユヅキが口を開いた。


「あのさ、そういえばちょっと前、マイカが”ルナが最近話してくれなくて寂しい”って言ってたよね?」


「たしかに」


「マイカの”大切な人”って、もしかして……ルナなんじゃないの?」


「『大切な人が、私を一生忘れられなくなりますように』ってメモの?」


「そう。ルナに忘れられちゃったと思ってたのかな?」


「でも、そんなことで自殺する?」


「私たちには大したことないように見えるかもしれないけど、マイカにとっては重大なことなのかもしれない」


「そっか……でもこのメモのこと、ルナには言わない方がいいよね」


「なんとなくそんな気がする。ルナが自分のことを責めちゃうかもしれない」


「マイカには可哀想だけど、黙っておこうか」


私たちはそれから、マイカの遺したメモについては誰にも言わなかった。


最初はちょっと罪悪感のようなものもあったが、数週間経った頃には、マイカについての話を聞くことも全くなくなった。



そしてそのままマイカは__……




まるでいなかったかのように、忘れ去られた。


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