1日目
__私たちの学園にはいつからか、こんな噂がある。
「万聖節の前夜、人狼をすると、何かが起こる」
もちろんこんなのは、ただの噂だ。誰もがそう信じて疑わなかった。
あの日までは__
人狼学園
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この作品の中では、登場人物たちが人狼ゲームを行います。メモなどを取って主人公たちと一緒に推理をすると、より一層楽しめると思います。
随時資料(ゲームログや校内図)追加する予定です。
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美浜学園高等部2年S組。
私を含め、12人が在籍するS組は、いわゆる特進クラスだ。
S組生は入学時の成績で決まって、よっぽど落ちぶれない限りクラスは変わらない。だから、1年生のときからこのクラスのメンバーは変わらない。
もちろんみんな頭はいい。でも、ガリ勉とは違う。それぞれ個性豊かで、面白い。そしてみんな仲がいい。担任含めて、男女問わず全員が下の名前で呼び合うくらいだ。
「ルナおはよー!」
「あ、ミユ、おはよ!」
明るい声で挨拶をしてきたのは、S組でも特に仲のいいミユだ。
ミユは、ザ・JK。ゆるく巻いた長い茶髪、ピンクのリップが白い肌によく似合う、小柄の女の子だ。体からピンク色のオーラが出ているんじゃないかってぐらい、可愛い。そして優しい。
「今日は待ちに待ったハロウィンだよ!楽しみ!」
「来年は受験だし、そんな暇ないからね」
ミユの言う通り、今日は10月31日。S組ではハロウィンの夜、学校でパーティーをする。もちろん、普通は学校に夜遅くまで残っていてはいけないが、S組だけは許可されている。本来の目的は勉強のためだが。
「おはよー」
「おはよー」
「お、今日も遅かったね」
「ま、遅刻したことはないからいいでしょー」
そういって始業寸前に教室に入ってきたのは、ユヅキとキョウカ。
2人は幼馴染で、家も学校の近くだから、2人で自転車でくることが多い。ちなみにユヅキもキョウカも根は真面目だが、変人キャラで通っている。
「おはよー、ホームルーム始めるぞー」
ユヅキとキョウカとほぼ同じタイミングで担任が入ってきた。私たちは各々の座席に座った。
「ねえ、今日仮装なにやる?」
ホームルーム中にも関わらず堂々と誰かに話しかけているのは、S組唯一の野球部、レオだ。
「おい、誰に話しかけてるんだよー」
笑いながら答えるのはケイスケ。男子だが、本当に可愛い。そしてピュア。S組のマスコット的存在だ。
「なんだよ俺イタい感じになっちゃったじゃーん」
とレオがしょんぼりすると、クラスに笑いが起こった。
毎日S組は、こんな感じだ。
今日のハロウィンパーティーは、クラスみんなが楽しみにしている。仮装して、先生たちにお菓子をもらいに行こうという企画もある。先月の暮れにミユが言い出したことだ。
「ほぼ誰もお菓子なんてくれないとは思うけど」とS組のクールイケメン、カケルは苦笑したが、「仮装して職員室に行くことが面白いからオッケーでしょっ!」とミユが言って説得した。
実際はみんなを__特にカケル__をコスプレさせたかっただけだと思うが、私も同感だから文句は言えない。
ハロウィンパーティーが楽しみで、今日ばかりは授業内容すら全然頭に入ってこない。とはいえ、あっという間に午前の4時間は過ぎて、昼休みになった。
「ユヅキ、一緒に昼食べよ」
「いいよ!屋上で待ってる」
ユヅキには、彼氏がいる。同じクラスのショウだ。
「えー今日もユヅキ、ショウくんと食べるのー」
「ごめんねキョウカ!明日は一緒に食べよ!」
そう言って、ユヅキは屋上に行ってしまった。
1年生の時から、S組女子は大抵全員で昼ご飯を食べているが、ユヅキとショウが付き合い始めてからは、こんな日も多い。
「ユヅキ、最近ショウくんばっかり。なんだかユヅキが取られちゃった気分」
「まあまあキョウカ、恋人はいつか別れるけどさ、幼馴染は切っても切れないから大丈夫だよ」
そういって笑いながら慰めるのは、活発スポーツ万能少女、サトミ。クラスでは体育委員を務める元気な女の子だ。
「そうだよね!大丈夫だよね!」
「でもあの2人、相当仲良いよ。このまま取られないようにねー」
冗談めかしてそう言ったのはチヅル。
一見大人しそうなその顔から出る冗談は、冗談に聞こえない。最近になってようやく慣れてきたが。
男子は男子で、皆で食べている。早く食べて、グランドでサッカーをするのが彼らの日課だ。
「なんだよ、今日もショウいねぇのか」
「ま、タイト、あいつのことなんてほっといて、早く食べようぜ」
ややキレ気味のタイトに、リュウセイが言う。
2人ともハンドボール部だ。タイトはいわゆるキレキャラだ。本当に怒っているわけではないということは、もう1年半の付き合いになるから分かる。
逆にリュウセイはキレるどころか感情をあまり表には出さない。クールというわけではなく、単にいつも怠そうにしている。でも、部活では部長を務めているというから驚きだ。
こうしていつも通りの昼休みも終わる。
「5限何だっけ?」
「化学じゃない?」
「今日実験だっけ?」
「うん」
私たちは化学室に向かった。屋上で食べていたユヅキとショウは、ギリギリで入ってきた。
「今日の実験は......」
眠くなる5限に実験があるのはありがたい。
実験は白衣を着てやるから、なんだか仮装の予行演習みたいだ。
5限が終わって教室に帰ると、ある異変に気付いた。
自分のロッカーの中に、白い封筒が置いてある。
「何だろう?」
封筒を開けてみる。
____【招待状】本日最終下校時刻ヨリ人狼ゲーム開催@2-S ゲームマスター____
中身は、このように書かれた「招待状」だった。気味が悪い。第一、ロッカーには鍵がかけてある。
「なんかこんなの入ってたんだけど」
私は気味の悪さを紛らわせるように、笑いながら言った。
「あれ?私のにも入ってる」
ミユが言う。
「俺もあった」
レオが続く。
結局、私、ミユ、レオ、ユヅキ、キョウカ、サトミ、チヅル、ケイスケ、カケル、タイト、リュウセイ、ショウ、12人全員に、同じものが届いていた。全員ロッカーに鍵をかけてあったにも関わらず。
そして何よりも気味が悪いのは、「招待状」はどこかで見たことのある筆跡で書かれていることだ。
「どうせ悪戯だろ」
カケルが鼻で笑った。
「そうだよ、うちらはうちらで予定通りハロウィンやろうよ」
サトミが言った。
「にしても誰だよ、こんな悪戯」
タイトがキレキャラを発揮している。
「もう仮装用衣装も用意しちゃったんだからさ」
ユヅキが半ば呆れるように言う。
「でも、きっと俺らはこれから逃れることはできないよ......」
「レオ、そんなこと言うなよ怖いから」
レオとケイスケは震えていた。
「『万聖節の前夜、人狼をすると、何かが起こる』……なーんてね」
チヅルがそう呟いたが、誰も笑う者はいなかった。