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ワンダー7 センシティブ  作者: 二月三月
子供の時代
8/51

リーボゥディル

 宇宙船(ダー)に戻ると見知った顔がいて、ジュニアを見つけるなり、にやにや顔で近づいてきた。


「やあ、やっと宇宙(そと)に出てきたな。いつまで引きこもってるんだろう、って心配してたんだ」


 リーボゥディルの見かけは10歳ぐらいで、双子と同じような年恰好に見える。光子体(リーニア)で子供の恰好をしているのはめずらしい。それでなくとも、いろいろとリーボゥディルというのは目立つ。


我が家(うち)は過保護だからな、なかなか宇宙(そと)には出してもらえなかった」


 ジュニアは、わざとそっけなく、リーボゥディルに答えた。リーボゥディルは、ジュニアが初めて会った時から変わらない。ジュニアは大きくなったが、リーボゥディルはそのままだ。


「ラーベロイカが君を溺愛してるのは知ってる。甘やかしすぎだ、って、いつもアグリアータがこぼしてるよ」


 リーボゥディルがアグリアータをママと呼ばなくなって久しい。男の子なんてそんなものだ、と言ってしまえばそれまでだが、こと、リーボゥディルに関しては、それですまない部分もあるのは確かだ。


 リーボゥディルの遺伝子原体は第一光子体(ピスリーニア)情報(リーンファン)を基に一からおこしたものだ。アグリアータが設計したが、技術力不足で、いくつかの致死的な遺伝病を発現させてしまった。ナミコヒノ伯母さんが修復したから、現在のリーボゥディルの光子体(リーニア)安定度に問題はない。


 そのへんの話しは、リーボゥディルも、もう知っている。


 彼の中で、どう決着をつけたのかまでは、ジュニアは知らない。


 誕生の経緯からして、彼は情報(リーンファン)として第一光子体(ピスリーニア)にきわめて近いわけで、それが理由でリーボゥディルを何とかしようと考えている輩も多いのだ。


「甘やかされてたのは確かだろうな」


 ジュニアは、リーボゥディルの言い分をおおむね肯定した。


「それで、これからどうする?」


 リーボゥディルの唐突な切り出しに、見ると、昔なじみの光子体(リーニア)の顔は、ちょっと見たこともないほど険しい表情に変わっていた。


胞障壁(セルレス)を超えるさ」


 それ(丶丶)には気づかぬ風で、返したジュニアの言葉に、リーボゥディルはようやくその顔をほころばせた。


「そりゃあいい」


 リーボゥディルは言った。


「そうでなきゃな。それでこそ、ジムドナルド、ジュニアだ」


 笑顔のままでリーボゥディルは片手を上げ、そこから飛沫のような光がほとばしった。


「ゴーガイヤには会っていかないのか?」


 ジュニアの問いに、リーボゥディルは、また笑う。


「もう、会ったさ。…しばらく会えないから、ちゃんとお別れもした」


「お別れ? 何で?」


「ここに来たら、居場所がばれる」


 光が笑った。


「なんてったって、ここにいるのは有名人ばかりだからな。いろんな奴らが見張ってるだろうし、その網にひっかかるのは嫌なんだ。ちょっと、お忍びでいろいろやるもんでね」


「あまり、無理するなよ」


「そりゃ、お互い様だ」


 そよぐ風のような光の粒子が、もや(丶丶)が晴れるように消えていった。




「なんだ、もう行っちゃったんだ」


 アンヌワンジルは、もや(丶丶)のあったあたりを手ではらった。


「ゴーガイヤが、リーボゥディルが来てる、って教えてくれたから探してたのに」


 彼に何か用? とたずねるジュニアに、アンヌワンジルは首を横にふった。


「用があるのはアグリアータにだけど、最近、彼女、つかまらないから、リーボゥディルなら知ってるかと思って」


「なんか、これから雲隠れするらしいから、無理じゃないか?」


「アグリアータが?」


「いや、リーボゥディルが、さ」


 アンヌワンジルは、ビュッフェのイスに腰かけると、テーブルにほおづえをついた。


「リーボゥディルも、何かやってるんだ。けっきょく、あたしはカヤの外、誰も何も教えてくれない。ママもパパも伯母さんたちや伯父さんたちも…。アグリアータなら、教えてくれるかと思ったけど、無理そうだね」


「俺に聞けばいいじゃないか」


 アンヌワンジルは、ほおづえをついたまま、ジュニアのほうに顔をむけた。


「そういえば、そうだね」


 アンヌワンジルは、ほんとうに、いま気づいたような顔でジュニアを見つめた。そして、いまの気持ちそのままを素直にジュニアにぶつけた。


「あたし、いったい、何にイライラしてるの? あたしは何をすればいい?」


「やりたいことをすればいいさ」


 ジュニアはあたりまえのように答えた。


「あと、イライラしてるのは、この旅の目的がわからないからだな」


「ほんとうだ」


 そう言って、アンヌワンジルは両手をテーブルについてジュニアのほうに身を乗りだす。


「あたしが、イライラしてるのは、それだ。そのせい。ジュニアは知ってるの?」


「知らないよ。そんなこと。っていうか、俺たちの旅の目的なんか誰も知らない。アンヌワンジルの父さんや母さんだって知らないし、俺の父さんに聞いたって、わかりゃしないだろ。誰も教えてくれないのには理由(わけ)がある。だって、誰も知らないんだ。俺たちが何で宇宙船(ダー)に乗って、胞障壁(セルレス)なんか超えなきゃいけないのか。知らないんだから、教えられるわけがない」


「わけもわからず、自分の子を宇宙に放り出す親がいるっていうの?」


「そりゃ、いるさ。だって、それが、正しいことだからな」


「え? 何?」


「正しいんだよ。俺たちが、俺と、アンヌワンジルと、双子が、胞障壁(セルレス)を超えて行くことが」


「意味わかんないよ」


 アンヌワンジルは、心底、途方に暮れた。それでも、ジュニアは辛抱強く繰り返した。


「意味なんかわからなくていい。あの人(丶丶丶)にはそんなもん必要ないし…」


 あのひと? とつぶやいたアンヌワンジルは、ようやく事態をのみこめた。


「双子のお父さん?」


 自信なげに問うたアンヌワンジルに、ジュニアは大きく肯いた。


「話しは実は簡単なんだ。タケルヒノ伯父さんは正しいことしかしない。しないというより、できないらしいんだけどな。長年のつきあいで、父さんたちはそのことをイヤと言うほど知ってるから、もう、いちいち理由なんか聞かないんだよ。どうせ、聞いたってよくわかんないことしか言わないだろうしな」


「双子が、あの子たちが、いつも平然としているのもそのせい?」


「そりゃ、生まれたときから、ずっとそうなら、不安とか恐怖みたいなのとは無縁だろ。自分たちは失敗してもいいんだ。必ず親が修正してくれる」


「それで、ときどき、話しがかみ合わないのかあ…、なんとなく、わかった気がする…、でも…」


 なかばあきらめ、なかば希望の入りじまじった顔で、アンヌワンジルはジュニアに聞いた。


胞障壁(セルレス)を、胞障壁(セルレス)を超えたあとは、どうするの?」


「最初に言ったろう?」


 ジュニアは笑った。


「やりたいことをすればいい。そのころには、きっと、やりたいことが山のようにたまってる。悩まなきゃならないのは、どの順番でやるかぐらいだ」




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