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ワンダー7 センシティブ  作者: 二月三月
紐とコンピュータ
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二重惑星(4)

「それで、ヤンフーリーの相談って、何だったのです?」


 息せききって尋ねてきたカオルヒノには目も向けず、揺り椅子(ロッキングチェア)におさまったユズルヒノは、めんどくさそうに答えた。


「どうって言ってもなぁ。ただの恋愛相談だったし…。ヒューリューリーの子供が産みたいんなら、かってに産めばいいんじゃん、って言っといたよ」


「彼女、妊娠してるの?」


 揺り椅子(ロッキングチェア)のひじ掛けをつかんで身を乗り出したカオルヒノに、こら、危ないだろ、とグラグラ揺れながら、ユズルヒノが押し戻す。


「してないんじゃないか? なんか、そんなののずっと手前らしいよ。ヒューリューリーは、あんなん(丶丶丶丶)だから、ヤンフーリーがヒューリューリーのこと好きだとか、毛ほども感づいてないんじゃないかな」


「サイユルは毛なんか生えてませんよ」


「そりゃあ、そうだけどさ、望み薄だろ。サイユルの慣習なんかには詳しくないからよくわかんないけど。すくなくとも、親子以上の年の差はあるみたいだし」


「年の差なんて関係ありません」


「気にしてんのはヤンフーリーだよ。どーでもいいと思うんだけど。えらいグジグジ言ってたな」


「ヒューリューリーがお爺さんだから気になるの?」


「そりゃ、ジジイなのはそうだけど…。どっちかっていうと、問題なのはそこじゃない。ヤンフーリーはヒューリューリーのことを母星救済の英雄かなにかと勘違いしてる。だから、普通にくっつくのは道義に反するから、どうにかしてヒューリューリーに知られずにアイツの子供を産みたいとか、無茶なこと言うんだ」


「どこかで聞いたような話しですね」


「そうだなぁ、うん、ありきたりすぎて、聞いたんだか、本で読んだんだか、わからないくらいだ。それで、こんなもの(丶丶丶丶丶)差し出してきて、どうにかならないか、とか言うんだ」


 そう言いながら開いてみせたユズルヒノの掌には、虹色に輝く丸い小片が乗っていた。


「…これ、なんですか?」


「ヒューリューリーの鱗だよ」


 言って、ユズルヒノはヒューリューリーの鱗(丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶)をラバースーツの胸ポケットにしまう。


「これでヒューリューリーの子供をこっそり産みたいとか、もう、何言ってんだか」


「できるの?」


「え?」


「さっきの鱗で、ヤンフーリーはヒューリューリーの子供を産めるの?」


 いつもとちがうカオルヒノの雰囲気に気おされながらも、ユズルヒノはしぶしぶ肯いた。


「そりゃ、できるけどさ…。そんなことしなくたって、普通にやればもっと簡単だろうに…」


「この、にぶちん」


 カオルヒノは揺り椅子(ロッキングチェア)のひじ掛けをつかんで、がくがくと揺さぶった。


「わ、なにする…、やめろ」


 無理にゆすられて、揺り椅子(ロッキングチェア)の背もたれにしこたま(丶丶丶丶)後頭部をぶつけたユズルヒノを、冷たい視線で見下ろしつつ、カオルヒノは立ち上がった。


「心底、アナタには失望しました。そこまで思いつめているなんて、ヤンフーリーがかわいそう。ワタシ、彼女のところに行かなくちゃ」


 部屋を飛び出したカオルヒノの背中を隠すようにとびら(シャッター)が閉じた。


 こぶ(丶丶)のできた頭をさすりながら、ユズルヒノがつぶやく。


他人(サイユル)の恋路なんてかかわるだけ無駄だろうに。止めたってやめやしないのは当然だけど、応援なんかしたところで、ぐだぐだグズられるのがオチだ」




「すてきな農園ですね」


 トウモロコシの畝のとなりに座っているゴーガイヤは岩そのものに見え、落ちくぼんだ双眼に気づかなければ、ヤンフーリーも見過ごしてしまったかもしれない。


「おお、別嬪さん」


 ゴーガイヤは言った。


「あんたら来るって知らんかったからナ。あんたらが食えそうなモン植えてなかっタ。すまン」


「お気になさらずに」


 ヤンフーリーは身体を伸ばして、かたわらの草の香りをかいだ。


「ステキ、春の尾(ファタン)のような匂いがする」


「地球の草だヨ。ローズマリー、って言うらしイ。こんなもん、腹の足しにならんと思うガ、ジュニアが作ってくレ、言うから作ってル。たいして手間もかからんしナ」


「不思議ですね」


 ヤンフーリーは笑った。


「あア、不思議なやつダ。あいつの親父もおかしなやつだったガ、息子のほうが輪をかけておかしイ」


「ジュニアのことじゃありません」


 ヤンフーリーは、また笑う。


「ゴーガイヤ、不思議なのはあなたのことです。もっと恐い人だと聞いていました」


「まア、悪いやつ、ではあったナ」


「あなたがですか? あなたが悪いことをしてたなんて信じられませんが…」


光子体(リーニア)だったことがあル」


光子体(リーニア)がすべて悪い人なんてことはないでしょう」


「ま、そうなんだがナ」


 手持無沙汰もあってか、ゴーガイヤは目についた雑草を取りはじめた。


「リーンには囁く(リーン)って意味もあル。囁く者(リーニア)は実体がないかラ、他所からやってきて、その星にいる者たちに囁き続けるんだト。良いことも悪いこともナ」


 ヤンフーリーは一瞬、身を固くした。ゴーガイヤの言葉に思い当たることがあるようだった。


「俺はそういうの苦手だったからなア」


 ゴーガイヤは笑った。


光子体(リーニア)の時から、できそこないだったかラ」


「優しいんですね」


「どうかなア。よく、わかんねえなア」


 ここでヤンフーリーは、はたと気づいた。少しはばかられたが、思いきって聞いてみた。


光子体(リーニア)だった、ということは…、今は、光子体(リーニア)じゃないんですか?」


励起子体(パウフラニア)だヨ」


 ヤンフーリーは、はげしいめまいに襲われ、身体そのものがぐらぐらと揺れた。


「あの…、そんなこと…、できるものなの? 光子体(リーニア)から別のもの(丶丶丶丶)になるなんて…」


 ゴーガイヤは優しく笑いながら肯いた。


 ヤンフーリーの眩暈はおさまることなく、ふたふらと、その場で立っているのがやっとだった。この船には凄い人しかいない(丶丶丶丶丶丶丶丶)。ヤンフーリーは、あらためて、この船に自分がいることがいかに場違いか思い知らされた。




「やあ、ダー、おひさしぶり、お元気そうで何よりです」


 ヒューリューリーはそう言ってから、何かおかしいな、と、まじまじとダーを見つめる。


「最後に会った時から、少し体形が変わりましたか?」


「体型ならもと(丶丶)に戻りましたよ」


 ああ、なるほど、とヒューリューリーは言ったが、とくに気にしている風ではなかった。あいかわらずのふてぶてしい態度に、ダーも思わず本音が出た。


「ジュニアにあまり余計なことをさせないでね」


「何のことです?」


 堂々としらばっくれるヒューリューリーに、ダーもつい口調が厳しくなる。


「サイユルのもめ事をジュニアにまかせようとしているでしょう?」


「練習ですよ。練習」


 開きなおったヒューリューリーが、上体をひゅんひゅん振り回す。


「ジムドナルドはどんなことでも、こっそり練習してましたからね。ジュニアだって練習はしておいたほうがいいでしょう」


「練習、って、ヒューリューリー、あなた…」


 驚くダーに、ヒューリューリーは頭部を小さく振って見せた。


「ジュニアは、これから先、とんでもないもめ事(丶丶丶)に巻き込まれるわけですよ。だって、ジムドナルド(丶丶丶丶丶丶)なのだから(丶丶丶丶丶)。サイユルとベルガーの紛争なんて小さい小さい。ジュニアの練習にちょうどよいぐらいです」





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