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ワンダー7 センシティブ  作者: 二月三月
子供の時代
10/51

ダイモス

「ダイモスに行く?」


 ミーティングルームには、ゴーガイヤを除いた全員が集まっていた。もちろん、ザワディもいる。実はゴーガイヤも誘ったのだが、「俺いイ」と農場(ファームゾーン)から出てこなかった。


「資源は足りてはいるけど、あそこは設備も整っているし、寄って悪いことはないですね」


 ダーは言いながら、いたずらっぽい目でジュニアを探っている。


「でも、それだけじゃないんでしょう?」


「まあね」


 と、うそぶくジュニア。


「ダイモスもいいけどさあ。火星も降りようよ」


 ユズルヒノがぐずり出した。


「この間、姉ちゃん(シス)の家に遊びに行ったときは、時間がないからって降りられなかったんだ。またいつ来れるかわかんないし、降りようよ」


「あたしも火星行ってみたい」


 とアンヌワンジル。


「ああいう重力圏の惑星はファライトライメンにはあまりなくて、ものすごく熱いか寒いかで極端だったから、その…」


岩山登り(ロッククライミング)?」


「そう、パパが、火星は楽しい、って」


 とびきりの笑顔にかわったアンヌワンジルに、カオルヒノも応じた。


「良いですねえ。ワタシ、自分が体を動かすのは苦手ですけど、他の人がそういうことするの見るのは大好きなんです」


「ダイモスの用がすんでから火星に行けばいいさ」


 ジュニアも反対はしなかった。


「ダイモスまで行ったら、火星に降りるのなんてすぐだ。逆に寄らない理由がない」


「火星ですか、楽しみですね」


 などとエイオークニまで言いだしたので、ダーがいぶかしげな顔でたずねた。


「あなたも降りるんですか?」


「いけませんか?」


 エイオークニは驚き、そして、ちょっと寂しそうな顔でダーに問い返した。


「いけなくはないけど…、いまさら火星?」


「だって、私は一度も火星に行ったことないんですよ」


 エイオークニの必死さが、ありありと伝わってくる。


「一度くらい、行ってみたいですよ」


「ああ、まあ、そう言われてみれば、そうだけど…」


 ちょっと間をおいて、ダーは微笑んだ。


「あなた、あいかわらずおもしろいですね。…不思議な人」


「不思議じゃありません。普通です」


 笑うダーに、エイオークニは憮然と返した。それを見て、ダーがまた笑った。



 火星の衛星ダイモス。


 ダイモスには宇宙船(ボード)を建造した宇宙基地がある。宇宙船(ボード)は、初めて胞障壁(セルレス)を超えた航宙船だから、ダイモス基地も、それなりに手を入れても良さそうなものだが、太陽系政府というか、実質、地球合議体の勢力範囲が、いまだ地球引力圏の外まで達していない。他の胞宇宙(セルベル)からの来訪者も光子体(リーニア)以外はほぼ0に等しいため、ダイモス基地は、ほったらかしの状態だった。


「なあ、(にい)ちゃん」


 ダイモスに接続したエアロック、宇宙船(ダー)の最終ゲート手前で、ユズルヒノがたずねてきた。


「エイオークニ、って、どう思う?」


「どうって言われてもなあ」


 ユズルヒノの質問の意図がわからない。ジュニアは、てきとうにはぐらかした。


「まあ、普通に変な人だと思うよ」


「変か?」


「変だよ」


 ふーん、とユズルヒノは、腕組みしながら考えている。


「じゃあ、ばあちゃん(ダー)とくっつけちゃっても大丈夫かな」


「何の話しだよ?」


「ザサンの友だち、って話しがあったじゃないか」


「あったけど…、何の関係があるんだよ?」


(にい)ちゃん言ったろ? 第2類量子コンピュータには第2類量子コンピュータの友だちがいたほうがいい、って」


「ああ、そうだな」


「でも、ばあちゃん(ダー)は最初の第2類量子コンピュータなんだ。だから、ちょっと特別で、なんていうかな、あとからできた第2類量子コンピュータだと友だちになりにくい」


「ああ、まあ…、言いたいことは、なんとなくわかる」


「でも、人間じゃあ、友だちはむりだよな?」


「無理だ」


「でも、変な人間なら、人じゃあないのだから、なんとかなるかな、って思ったんだ」


「…お前、かしこいな」


「だろう? で、うまくいくと思うか?」


 ユズルヒノは、ジュニアのヘルメットのバイザーをのぞき込むように、上目づかいでたずねた。


 こんなこと、聞かれたほうのジュニアだって、困る。


「こればっかりは、わからんなぁ。エイオークニがどれくらい変な人間で、あとはダーがどれくらい変なコンピュータなのか、まだ俺にもよくわからないからな」


「そうだなあ」


 ユズルヒノは胸の前で組んでいた腕をほどくと、上に向けて背伸びした。


「ま、あたたかく見守るしかないか。もともと変な人間と変なコンピュータなんだから、うまくいかなくたって、だれも驚きゃしないしな」




「この施設をザサンの完全管理下におけばいいのですね」


 カオルヒノがヘルメットをジュニアにくっつけて、直接振動を介してたずねてきた。


「ああ、そうだ」


 ジュニアが答えると、カオルヒノはコンソールを操作して、ダイモス基地の全権限をザサンに移譲する。ザサン側の暗号化(スクランブルド)回線に同調させたので、暗号解除には第2類量子コンピュータ以外だと、文字通り無限大(丶丶丶)の時間がかかる。火星の地上基地はもともとダイモス側の管理にあるので、少なくとも太陽系の第3惑星と第4惑星軌道内のすべては、ザサンが掌握したことになる。


「やってしまってから言うのもなんですけど」


 カオルヒノはころころと笑う。


「こんなことして、誰か怒ったりしませんか?」


「怒るやつなら山ほどいる」


 ジュニアはすっとぼけた。


「怒ることしかできないけどな。俺たちもすぐここからいなくなるし、ザサンは残るけど、もうやつら(丶丶丶)に手出しはできない」


やつら(丶丶丶)、ってどんな方々ですか?」


「知らないよ。興味ないし。文句があるんならそっちからこい、って話しだ。直接追いかけてくるんでもなけりゃ、相手する気はないな」


「追いかけるって、ワタシたちを?」


 どうやって? とカオルヒノが、心底、不思議そうな顔で問う。


「知らん、それこそやつら(丶丶丶)が考えることだろ?」


「まあ、そうですね」


 カオルヒノは、笑うのをやめた。


「さあ、お仕事も終わりましたし、いったん帰って、火星に降りる準備をしましょう。おなかがすくとたいへんだから、降下前に間に合うようにおばあさん(ダー)がお昼を作ってくれてるはずです」


「昼めしは何だろうな」


「サンドイッチだって言ってましたよ。たまごサンドとトマトサンドです」


「トマト、か」


 トマトと聞いて、ジュニアは急に、ゴーガイヤのことを思い出した。


「ゴーガイヤは、俺がトマトを食べてると、じっと見てるんだ。それで、食べ終わるとほっとしてる。いったい、あれは、何なんだろうな?」


 さあ? とカオルヒノも小首をかしげた。そして、宇宙にはよくわからいないことがたくさんありますからね、などと、もっともらしく言うのだった。




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