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 カムサの笑い声。


「あははっはっは。いやー、実に彼女らしい推察だね。でもなるほど。その全く別のどっかから連れて来られたリとばされたりしたなら、僕より知識があってもおかしなことはなくなるか。もしかして君は未来からでも来たんじゃないのかな? もしかして僕の息子や孫だったりして。まあ、魔法で驚いてるなら可能性はかなり低いけど。いや、もしかして何かの予兆前兆かもしれないね。いつか来る大災害的な何かを知らせにでも来てたりして。それでその大災害はきっと魔法の存在を揺らがせるものなんだ」


 すごく楽しそうに話している。まるでその時が来るのを待ち望んでいるかのように。


 カムサは続ける。


「それにしても君はヒアラとよく似ているね。あぁ、もちろん顔とかの話ではないよ。無愛想な話し方や態度だったり、表情があまり出ないとこかな。あははっ。すまない。どうでもいい話だね。話を戻そうか。えーと、記憶喪失で思い出したいんだったね。それじゃあちょっくらやってみようか」


 そう言うとカムサは俺の目を布で覆った。


「聞かれる前に言っちゃうとこれはそのまんま目隠しだよ。もしかしたら若干ショッキングなものが目に映ることになるかもしれないから。でも安心して。別に痛いこととかしないから」


 聞こうとしたことを先に解説するカムサ。そして解説しながら俺の手足に何かをつけている。


「先に言っちゃうよ。これ枷ね。痛いこととかしないけどびっくりするようなことするから、それで急に動かれても手元、狂っちゃうから」


 先に説明するカムサ。

 なんか軽く脅迫じみてる。

 そしてまたカムサが話す。


「はい。これを口に含んで。飲み込んじゃだめだよ」


 唇に当てられている物体を口に入れる。多分さっきの透明の玉だ。


 ……しゃべれない。


「飲み込んじゃだめだからね」


 息が吹きかかるほど耳元でそう言ったカムサは


「アッ!」


 人の耳元でそれは大きな声を上げた。完全無防備状態で至近距離での大音量発声。耳から何の遮蔽物もなく脳への直接攻撃を食らったような感覚。一瞬意識が遠のき、後から来る若干の吐き気。


「ありゃりゃ? グロッキーな感じ? こりゃあも一発は無理そうかな? まあいいや。口の中の出していいよ。飲み込んでないよね?」


 口元に何か当たる。まあ、何かの容器だろう。口を開き舌で押し出す。


「早く目隠しと枷を取ってくれ」


 なんだか久しぶりに言葉を発した気がする。


「もうちょい待っとくれ。……ん~?」

「なんだ? どうかしたか?」

「特に……変化はないかな」

「何の話だ? 俺の記憶に何も変わりないってことか? つーか早く目隠しと枷をとってくれ」

「成功してても変化はないってことか、それともただ単に失敗か……」

「なんだ? 失敗したのか? てーかとっとと目隠しだけでいいから早くとれって」

「なるほどねー。今回のこれに関しては成功か失敗か見分けるところまで出来てなきゃいけないわけだ。今後の課題としては成否の判断の模索も加えなければならないね。そしてこれが失敗だった場合の他の記憶の取り出し方も考えなきゃいけない。さらに言うなら成功してる場合は、方法の改善を図らなければね。一日に一、二回じゃあ僕の目指している世界にたどり着けない」

「おいっ!」

「お、あぁ。すまないね。夢中になってしまってすっかり忘れていたよ。今、外すね」


 ようやく体を伸ばせる。同じ体勢で居続けるのがあんなにつらいとは。カムサの言う通り改善は必要だ。耳も痛いし、二度とやりたくない。

 カムサが話す。


「ちょっちこれを見てくれないかい?」


 覗きに行く。カムサが質問してくる。


「この透明の玉、何か変化あるかい? たとえば色が違うとか、大きさが違うとか、他には欠けていたりとか」

「いや、特にねーな。俺に聞かなくても見れば分かるだろ」

「被験者と魔法の使用者という立場で物が違って見えるなんてのはよくあることだよ。でもそうか。君の眼から見ても変化はないか。まあ、魔法を使ったのは僕だから当たり前なんだけどね」


 ……今こいつ魔法使ったって言った? されたことといえば、目隠し拘束されて大声で驚かされただけなはずだが……?


「それで、成功なのか? 失敗なのか? どっちだ?」

「わからないんだよねー。この中に記憶が入っているかどうかをどうやって調べようか?」

「聞かれても分からないぞ。適当に重さとか量ってみたらどうなんだ?」

「いいね。量ってみようか。試して損はないからね」


 天秤を持ってきて片方に何もしていない透明の玉を置き、さっきまで口に入っていた玉を水で濯ぎ、よく水気を取ってもう片方へ。すると記憶が入っている? 玉の方がほんの少し下へ。


 カムサと顔を見合わせ、カナタから話始める。


「……まだ水が残ってるとか?」

「吸水性はほぼほぼ無いはずだよ。だからといって、信じ難いものではあるね。記憶にわずかばかりでも重さがあるなんてことは多分誰も知らないだろう。本当ならかなりの発見じゃないかな? 要検証だね。それにしてもいい意味で予想が外れた。絶対に均衡だと思ったのに。試してみるものだね。だからと言ってこれでこの玉に記憶が入ってるって確証には足りないけど」

「それで?」

「ん? なんだい?」

「このあとどうするんだ? この中に記憶が入ってるって仮定して、それから俺の記憶喪失をどう直してくれんだ?」

「……さあ?」

「……」

「そういえばそんな話だったね。成功してると仮定して、記憶を入れる方法か……まるで考えてなかった」

「……」

「そんな呆れたように睨まないでくれ。今なんとなく思いついたからやってみよう」


 カムサは玉を両手でしっかり持ち、寒い時に息を手に吹きかけるようにした。そして黒い液体を取り出し玉の一部分以外を塗り潰した。その一部分を上に向けたままコップのような容器に戻し、玉に火を付けた。そしてカムサはすかさず一言。


「吸って!」

「へ? あ、ん?」

「匂い! 早く! 終わっちゃうかもしれないから!」


 すこし急ぎ目に煙を吸う。


「んっ! ……あ、た、ま、がっ……!」


 頭が痛くなったわけではない。耳鳴りが耳ではなく脳に起こっているような変な感覚。


「な、なに? あたま? どうしたの? 大丈夫かい? ……僕も吸ってみるかな!? ……あ、あぁ、あたま……」


 しばらくの間、二人してしゃがみこんだり、立ち尽くしたりした。


 カムサ。


「どうかな? 記憶の方は? 何か思い出したりしたかな?」

「変な感じだ。思い出したのに何も思い出してない。いやそれよりも、真っ白な記憶を思い出したってほうが合ってる気がする」

「同意見。記憶を取り出せなかったってよりも、何もない記憶を取り出して…………」

「どうした?」

「……記憶……消されたんじゃない?」

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