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「やあやあ、君たち。ようこそ、おいでませ」
白衣のようなものを羽織り、その下に丈の短いタンクトップみたいな何かとホットパンツ。
三つ編みポニーテールとメガネの記憶の魔法師カムサ。
リーがヒアラに頼み込みしぶしぶ承諾したヒアラに連れられカムサの下へときた。
カムサが言葉を続ける。
「そしてはじめましてだね、カナタ。待ち兼ねていたよ。いずれ来るとは思っていたけどね」
「あんたははじめてじゃないんだろ?」
「あぁ、誰かに聞いたのかい? そうだよ。君が寝ている間に診察をしたんだ。君のうわさを聞いて野次馬的に見物しに行ったら、ちょうどいいとヒアラに診察を頼まれてね」
「おい!」
カムサのおしゃべりを遮ったヒアラ。
「あれ? もしかして今のは言っちゃあいけないことだったかな? すまないね」
「……はぁ……私は少し個人的な用事がある。その間こいつをみていろ」
「あいさー。行ってらー」
ヒアラはどっか行った。
「はてさて、どんなご用事でいらっしゃったのかな?」
「あんたが記憶の魔法師とかって聞いたから」
「そっちにご用事か。何々? 記憶とか失くしちゃった? なんてね」
「まあ、そんなとこ」
「え? ほんとに? 当てちゃったよ。でもせっかく来ていただいて悪いけど若干専門外だな。まあ、でも大丈夫だと思うけどね。ちょうどいいし付いておいで。僕の家に行くよ」
おしゃべりでよく舌の回る人だな。
村のはずれ。カムサの家。
「さあさあ、入ってくれたまえ。適当に腰を下ろしてくれて構わない。掃除はまめにしているから大丈夫だ。さて何から話したものか。君は何から聞きたいかな?」
「じゃあ、専門外って言ってたところから」
「そうだね。じゃあまずはそこから話そうか。
僕が専門としているのは記憶の外部保存と一部の記憶の共有なんだ。これがなかなか難しくてね。記憶を外部へ取り出す方法もなけりゃ、取り出した記憶を保存する物もないんだ。まいっちゃうよね。でもねでもね、つい最近僕が発見した記憶を保存できるかもしれない物があるんだ。じゃん! それがこれ」
渡されたそれはアメ玉ほどの大きさで透明度の高いガラス玉のようであるが触ってみるとゴムボールのような柔らかさだった。
カムサは話を続ける。
「記憶喪失なんてのは結局のところ思い出せないだけで覚えてるわけじゃん? 喪失してないじゃん! ってね。まあ他にいい感じにあてはまる言葉がないのなら仕方ないけど。でもじゃあなんで思い出せないかってのは明言できるだけの理論があるわけじゃあないんだよね。それに今の君もそうだけど記憶がないのにある程度のことは分かっている状態? 謎だね」
「それについては記憶の種類に関係すんじゃねーの?」
「? 何々? なにそれ。記憶の種類? そんなの僕知らないんだけど。ちょいと教えてもらえんだろうか?」
「いや、ちゃんと知ってるわけじゃないんだけどな。エピソード記憶とか手続き記憶とか、あとは……意味? ……記憶……とか」
「えーっ!? なにそれっ!? あんまり知らないんならざっくりでいいから、教えて! ね! オシエテッ!」
「あー、エピソード記憶がなんか、何をやったって感じの出来事の記憶で、手続き記憶が体が覚えてる的なやつで、意味記憶が言葉の意味覚えてるようなそんな感じだったと思う。正直自信なし」
「はーん。なるほどねー。ざっくりしすぎというか説明下手というか。でもなるほどねー。つまり記憶喪失ってのはエピソード記憶があれになっちゃうって感じなわけかな? 手続き記憶は歩き方や走り方や投げ方とかを忘れないって捉え方でいいのかな? いやー。びっくりだね。もしかして君も記憶の魔法の研究をやってたのかもね。僕の知らないことをすらすらと言っちゃってくれっちゃってもー。ちょっと悔しいなー。これでも最先端を突き進んでるつもりでいたのになー」
「いや、なんつーかさ、それはリーが――」