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森の前。カナタはリーと話している。
「じゃあ次はこっちの番だ。
カムサってのはどんな奴?」
「……あ、あの……」
「なに?」
「いままでの話はどこに? 私結構勇気を出して話したのですが」
「いや、ほら……」
「なんですか?」
「信じらんないし」
「あぅっ!ショックです……わたし……ショックです……」
「いや、あの、あれだよ。つ、辻褄は合ってると思ったよ」
「いえ、大丈夫です……考えてみればいきなりこんな途方もない話を信じられないのは当たり前のことです。それでなんでしたっけ? そうそう、カムサですね」
「そう、そいつどんな奴?」
「彼女に興味があるんですか?」
女なのか
「話に出てきたからなんとなく」
「カムサは記憶の魔法師です。あと一応この村の医者です。面識がないと思いますが、眠っているときにあなたの診断をしていました」
「……キヲクノマホウシ……」
「あらら? そこですか? 記憶の魔法師です。記憶に関する魔法を研究する人です」
「まほう、マホウ、魔法……魔法? ……魔法っ!?」
「はい、魔法です。そんなに驚くところですか?」
「な、なんだっ!? ここでは魔法があれなのかっ!? どういうことだっ!?」
「お、落ち着いてください」
「そうだな。落ち着こう。……どうやって落ち着けばいい?」
「とりあえず深呼吸を」
深呼吸
頭の容量限界を超えたことで変になってしまった。信じる信じないとは別に常識外れの情報が多すぎる。
「初めて見た気がします。あなたの感情が出たところ」
そう言ってリーはくすくすと笑う。
「……」
俺はバツが悪くリーを睨む。
「すいません。それにしても魔法を知らないとは。カナタは本当にどこから来たんでしょうかね」
「魔法の概念は知ってる。そんなものが公に認められていることにおどろいてんだ。……どこから……? …………どこからだ?」
「え? どうしたんですか?」
「……わからない……おもい……だせない……」
「……聞く気はなかったのですが、あなたがいたところはどんなところでしたか?」
「どんな……ところ……? それは、なんか、こう……」
「緑の多い場所でしたか?」
「そ、そう……かな?」
「兄弟姉妹はいましたか?」
「い……た……?」
「兄か姉か妹か弟、どれですか? 名前は?」
「……」
間。
「何も覚えていないんですね?」
「……」
「ショックですよね。自分を証明するものが自分の中にもないのですから。記憶がない時の自分の不確かさはどうしようもないほどに恐ろしくて真っ暗です」
「お前記憶がなかったのか」
後ろの方、森の入り口から声がした。ヒアラが水を持ってこちらに歩いてくる。
「ヒアラ、お疲れ様」
「あぁ」
「今カナタはショックでお話しできません」
「そのようだな。だがこれが巧妙な手口、芝居であるかもしれないということを頭に留めておけ」
「……」
「……」
静寂。
「カナタ。記憶のことですから、先ほどお話ししたカムサを訪ねてみてはいかがですか?」