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村長が来た。
「ヒアラよ。森に入り清水を汲んできてくれ」
「私か? カナタがいるからな……カムサはどうした? でなければ最悪村長自身が行けばいいだろう?」
カムサ?
「わたしは今日来客があるのだ。カムサは薬草を摘みに行っておる」
カムサは人名のようだ。
「汲んでくる間カナタはどうするんだ? まさか森に入れるわけにもいかんだろう?」
「リーシャには話をしてある」
「何!? リーシャン!? ……心配だ……が……分かった。行くぞカナタ」
森の前。
「お待ちしておりました。カナタ、ヒアラ」
リーは軽く武装している。そしてなんかうきうきしている。
「……」
ヒアラは訝しくリーを見つめる。
「カナタ、おとなしくしていろ。リーシャン、変な気を起こすなよ。何もするな」
そういってヒアラは森へと入っていった。
「……あはっ! 二人きりですよ、カナタ」
「そ、そうだな」
「私カナタに聞きたいことも聞かれたいこともたくさんあるんです。なのでお互いに一つずつ質問し合いましょう。決定です」
「……」
「ではまずは私から質問させていただきます。
あの森で何を見ましたか?」
「……ん?」
「あぁ、質問の意図が分からないという顔ですね。
私この森の守衛を任されている一人なのですが、森にあまり入ったことがなくて、奥のほうがどうなっているのか気になっていたんです」
「ヒアラや村長に聞けばいいんじゃないのか?」
「……今はまだ私の番です」
「……そうだな。特に変なものは見かけなかったな。木や竹が生え立っていてそのまま森って感じだった。ただ強いて言うなら形容しがたい、なんか、こう、神聖さが溢れているように感じた」
「なるほどなるほど。では次はカナタの番です」
「あー、えーと、じゃあ、
この森って何なの?」
「いいですねぇ。わかってますねぇ。そうゆう質問をされたいんですよ。
この森は上位思考種が棲むと云われている場所の一つです」
「じょういしそうしゅ?」
「はい。肉の体を持たず、人を超えた力を持つ存在です」
神や仏や悪魔の親戚のようだ。リーは続ける。
「私たちがその存在を認識できないので概念的なものなのですが、過去の様々な事例からほぼ確実にいるとされています。ちなみにこの森に棲むお方は、穏やかでやや子供っぽい性格をしているらしいです」
「へー……」
「あら? あまり興味ありませんか?」
「様々な事例ってのはちょっと気になるけど」
「ではもう少しだけ。この森そこまで大きくないのですが、この十余年で入ったきり出てこなかった者が100名を超すとか……。村長やヒアラやカムサは森によく入るのですが、死人にすら出会わないと言っています」
「……」
「他にもまだありますが、聞きますか?」
「いや、また今度で」
「それでは次は私の番です。
あなたはどうやって来ましたか?」
「わからん」
「ですよね。それで私少し考えたんですけど、あなたの言うことが本当なら、あなた、こことは全く別のどこからか連れて来られたのではないでしょうか?」
「……いや、ナニ言ってるか分からない。連れて来られた……って……なんで? 誰に?」
「上位思想種にですよ。なんでかは分かりませんが」
「…………いやいやいや……意味が分からない……」
「当てにならない根拠ならあるんですよ。
さっき言ったこの森に入って出て来ずに死体も見当たらない人たちのことです。決して大きくないこの森に100以上の人が見つからずに居続けられるなんてやっぱりと言いますか、明らかにおかしいんですよ」
「つまりそいつらは逆に、どっかにとばされた」
「おぉ、理解が早くて助かります。わたしはそう思っているんですよ。まだ生きているんじゃないか……って」