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カムサ。
「他の人との記憶に齟齬がある。だから森のお方が記憶を改変したかも……と。無い話ではないね。森のお方が記憶を変えちゃった意味とか理由とかは不明だけど、そんなのはいつものことだし。ただ、一般的な意見を言わせてもらっちゃうと、君だけの記憶が変えられた、ってなるよね。それは君も重々承知だろうけど。君もロームも、おそらくは森に入る前の少しの記憶しか残っていなかった。なんだっけ? そうそう、君がロームを買う記憶。それ以外の森に入る前の記憶が真っ白に塗り潰された。
……もし君の言う、君以外の村の人の記憶の改変だったとして、なぜ君だけの記憶が改変されなかったのか? 同じく森から出てきたロームはされたのに。と言っても君の記憶では森から出てきたのは君一人なんだけど。これは逆でも言えるね。君だけだとしてなぜロームはされなかったのか? こうしてみると君の方が本当っぽいけど。あと気になるのは、記憶が改変されたと思われるタイミング。僕の記憶にはないけど村の前でロームを村に入れるかもめた時に、ってことだけど、そこだけ聞くとロームを助けたみたいだよね。今のところ君はロームに巻き込まれてるように見えるね。
一応、気になる点を挙げてみたけど、正解に近づいてる気はまるでしないね。君も含めた僕たち全員が記憶を変えられてる可能性もある以上ここで思索してもあまり意味はないかも。と言っても可能性は低いけどね。
いやー、それにしても恐ろしいものだね。記憶がない、ではなく、記憶が変えられてるかも、ってのは。自分の記憶を信用できないなんて。記憶の魔法を発展させた果てが世界中が常にこんな状況になるかもしれないなんてのは予想していたけど、……やっぱり……やめるべき、かな……?」
魔法が消え去るかもしれない未来の話をしていたときのカムサの笑顔を思い出した。
奮起させる言葉も慰めの言葉も見つからずに別の話題を探す。何の努力もしてないくせにこんな時にだけ、強さが欲しくなる。
「それにしても森のお方ってのは何でもありだな。記憶の消去に改変とか。そのくせ姿形はなくて。一方的すぎる。天災と考えるにしても被害がえぐい」
憤ることしかできない。
「……そういえばこんなこと初めてなんだよね」
「なにが?」
「森の外にいる人に手を出したこと。過去の記述を見ても記憶の魔法が使えるなんてのも書かれていないし。森に入った人を消すことぐらいしか今までしてこなかったんだよ。ここのお方は」
「えっと……どういうこと?」
「気に入られたんじゃないかってこと。君かロームかあるいは二人ともか」
「な、なぜ?」
「僕に聞かれても。でもこれが理由なら連れて来られたってのが真実に近づくよ」
「え? なぜ気に入られた?」
「んー、僕に聞かれても。性格的に一目ぼれとかそんな外見的な理由ではないとおもうけど」
「じゃあなんで?」
「えっとー、僕に聞かれてもねー、わからないんだよー。何か君だけの特別があったりしちゃうんじゃないの?」
「無ぇと思うけどな」
「自分じゃ気づけないような部分かまだ覚醒してないか、みたいな」
「……」
「……」
「……あれ? 俺この村でてったほうがいいんじゃないの?」
「すぐに連れ戻されるんじゃないかな?」
「あぁ。……いや、買い物のときは連れ戻されなかったな」
「買い物だって分かってたんじゃ?」
「それの判断は?」
「村長とヒアラに買い物行くって言ったから?」
「多分、森のお方は人の会話とか言葉はどうでもいいと思ってるぞ」
「それはなんで?」
「村に買い物から帰った来た時、あ、俺の記憶な。会ったことないと思われるヒアラとロームに面識があって、ヒアラにロームの名前を聞いたら答えられなかった。本人は忘れたって言ってたけど」
「……ん?……それは……確かに……でも……いや……。まあ、ヒアラが人の名前忘れるとは思えないよ。じゃあ何で判断を……?」
「試してみる価値ありだな」