表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

15

 カムサに追加でもらったお金もとりあえずロームに渡した。あの時俺は「お前を雇う」ではなく「お前を買う」と言葉を間違えたため、単純な雇用関係ではなく主と従者の関係になっている。しかしまあ、記憶喪失後の初めての買い物が小さなメイドとは……。


 ロームはとても有能だった。色んな所で仕事をしたり、いままで一人で生きてきたためか、掃除、洗濯、食料集め、料理などなど、難なくこなす。あっさりやっているようには見えるがそれでも、結構働いてるはずなのだがロームはあまり食べない。聞くと、今の環境だったらそんなに食べなくてもいい、みたいなことを言っていた。これは人とは違う種族だからなのか?


 ロームはかなり無口だ。最初に会った印象との差にはちょっと困惑したが、すぐに慣れた。むしろしっくりくる。会ったときがすごく頑張っていた時ってことか。俺も積極的に話す方ではないので二人の時はすごく静かになる。相変わらずロングコートのフードを深く被って顔を隠しているため、何を考え何を思っているのかまるで分らない。


 この村にはよく旅商人が来る。それはなぜかヒアラに聞いた。


「森を流れる清水が人気で高く売れるそうだ。他にも山で多く採れる薬草や染料の花、木の実なども需要が高いようだな」


 ロームが旅商人からリボンを買ってきた。


「首、巻く、結ぶ、して」


 言われるがままにそうした。さすがに気になりカムサに聞いてみた。


「そういうのは全然専門外であまり知らんのだよー。確か首に巻くものがロープや鎖だったら首輪の意味で奴隷ペットの印とかだったっけなー。でもリボンかー。よく分からんち。すまん」

「専門外?」

「え? あぁ、そうか。君は知らないと思うけど魔法の一つなんだよ。びっくりかな?」

「ロームが俺に?」

「ちゃうちゃう。君がロームに」

「……は?」

「はい、びっくりー。反応薄いけど。自分が魔法使ったなんて気づかなかったでしょ? そういう簡単な魔法もあるのだよ。これ以上僕に聞いても役立たずなんで、他の人にも聞いてみるといんでない?」


 俺とローム二人の監視役のヒアラにも聞いてみた。


「私も詳しいわけではないので何とも言えんな。いくつか意味があったはずだが、ロームがどの意味で巻かせたかは分からない。そうだ。確か一つが、巻いたものが死ぬとき巻かれたものもともに死ぬ、というものだったはずだ。だがこれはロームが込めたものとは違っていそうだがな」


「カナタ、迎え、ご飯」


 一応ローム本人にも聞いてみるか。


「ナイショ」


 他の村の人及びローム自身でさえ、記憶の書き換えによって俺と共に森から出てきたことになっている。そしてロームの記憶では、俺がロームを買ったのは森から出てくる前、森に入る前に、あの街で、起こったこと、やったことなどは俺の記憶と変わらず、俺はロームを買っている。そのあとすぐに記憶の空白があり、俺たちは森で目を覚まし、ヒアラに発見され、森から出てきた。

 穴だらけの記憶だが論破はできない。俺がロームを買うまでロームとカムサは出会っていない。街への買い物は最初から三人で行き、そのとき街では事故など起こっていない。村の前でもめたことはなかったことになっている。俺がロームを買った後、森に行く必要も理由もないが記憶の空白。森のお方に連れて来られたってことでも問題はない。俺がロームを買うお金を誰からもらったのかは、そもそも俺がお金を持っていたのではないか。お金を持っていておかしなことなど何一つない。


 そう。そういうことだ。つまりは、結局のところ、たった一人の俺の記憶が証拠になることなどないのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ