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別れた後、20分くらい探してカムサを見つけた。
「やあやあ、探したよ。一人で寂しくはなかったかい? 買い物はおおよそ終わってしまったよ。帰るときは荷物を半分持っちゃってくれちゃったりよろしくね」
「金をくれ」
「あは? どうしちゃったの? 欲しいものがあるなら値段次第で買ってあげるよ」
「よくわからないが、金が必要になりそうなんだ。くれ」
「お金をせびるには説明不足が甚だしいね。確かに僕は人並み以上にお金を持ってるけど、だからと言って無駄遣いできる余裕はないよ。使途不明金とか困っちゃうな」
「……あれだ。記憶のやつの実験体になったろ。そのモニター料をくれればいい」
「なるほど。そうきたか。でもあれは君が記憶がないって来たからだよ。医者的にみればお金をもらってもいいんじゃないかな」
「あんな成功か失敗かわからない結果じゃなけりゃな」
「あ、ひどいぞ」
「それに、
僕的にすごくラッキー。被験者を引き受けてくれる人はそうそういない。
つってたってことはあの実験ほぼ初めてだろ」
「ずばりその通りだね。まったくもって初めてだった」
「だったら新薬の治験とか臨床実験とかと同じだろ。よくしらないけど。初めての実験で失敗の危険と失敗したらどんなことになるかとか、リスクを大いに孕んだモニターをやったんだ。記憶は脳だ。脳死なんていう生死にかかわることにもなりえたはずだ。それの対価が無料とか割に合わんだろ。
だから金くれ」
「言われてみれば確かにその通りだね。いいだろう。お金を上げよう。とりあえず今はこんだけね。戻ったら追加でもう少し上げるよ」
お金入手。
「ありがとな」
「ここで感謝とは。君はなかなかだね」
「ちなみにこの金で水筒は買えるか?」
「水筒? そこらの安物なら20個は買えるんでない? 水筒買うのかい?」
「多分買わない。それじゃ、またあとで」
「あ、ちょっと、町の出口あたりにいるからね」
「了解」
なんとなく歩く。ロームが俺を見つけるまで。探しているかはわからないが。いづれはみつけるだろう。あいつの話が本当であいつが助かりたいなら。
しばらく歩くと人集りが。
そこらの人に尋ねる。
「ん? あぁ。俺もよくは知らねーが事故があったんだとよ。店のおっさんも店も潰れちまったとか」
……もしかして……。
辺りを見回す。そしてやっぱりいた。
「ここで働いてたのか?」
「……うん……」
「おっさんも死んじまったようだけど……」
「……うん……」
「悲しい……よな……?」
「……別、に……」
「ひどい奴だったのか?」
「仕事、する、見合った、お金、くれる、増し」
「そっか。これからどうすんだ?」
「仕事、探す、なきゃ」
「大丈夫か? 当てがあったりするか?」
「全、く」
だめだ……腹立たしい……。
「蓄えはあるのか?」
「あ、まり」
「じゃあ早く見つけなきゃいけないな」
「うん、でも、ロォム、こんな、だから、みんな、雇う、くれない」
憤りを覚えている。およそ何をするべきかがもう、自分の中にあるから。
「それは大変そうだな」
「……あ、う、が、頑張、るよ……」
もっと劇的なものになると思っていたのかもしれない。そのちょっとしたがっかり感もこの怒りに含まれているのかも。
「ロームは家族とか家族っぽいのとかいるのか?」
「……いない……ロォム、独り……」
誰かにそうしろと言われたようなそんな感覚が、それがすごく……嫌だ。
「じゃあこの金でお前を買うよ」
「……う?」
「最初の仕事は荷物持ちなんだけど、どうかな? 引き受けてもらえないだろうか?」
「う、う! うん!」
何も劇的なことなど起こってはいないのにそれでも、とりあえず一人の人生がかなり……いや、少し変わった。
「うぅ、知らない、名前」
「名前? ……ああ、そういえば。……そういえば、俺もロームの顔見たことないな」
「え? う、あ……」
「かなた」
「カナタ、名前?」
「そ」
「カナタ」
「うん」
「見ても、いいよ?」




