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合流

「あんたって、わからないわね。私は怒鳴り散らされると思ってたのに」

「怒鳴ったって、なんにもならないだろ。そりゃあ神様が降臨して助けてくれるってんなら、いくらでも怒鳴ってやるけれどさ」

「どう、して? どうして、そんな風に考えられるの? 私、あんたを嫌ってたのに。酷いことを……言ったこともあったのに」


 たしかに、そんなこともあったっけ。


「……三十人くらいの未成年が同じ教室に敷き詰められてるんだ、そりゃ誰かを嫌いにもなるだろうよ。そいつがたまたま俺だったってだけだ。そんなもん、事故みたいなもんだ。防ぎようがないし、どうしようも出来ないだろ。だから俺は仕様がないことだって、片付けるようにしてる」

「でも……」

「瀬戸内だってそんな風に、事故に遭うみたいに好きになったんだろ? 神無月のこと」

「な、なななッ!? なんであんたがッ!?」


 顔を真っ赤にして慌てふためく様子は、かなり意外なものだった。寧ろ、自分の好意をまわりに見せ付けていると思っていたが、どうやら違うらしい。瀬戸内自身は、自分の好意など誰にも悟らせていないと思っていたみたいだ。

 誰の目から見ても明らかな好意だったが、自分のことは見えにくいとは本当だな。


「そ、そうよ……もぉ」


 瀬戸内は、一応の肯定をして顔を覆い隠した。

 その姿に青春の二文字を感じていると、廊下の方から何かの足音が聞こえてくる。すぐに席を立って教室の破損した出入り口に向かう。そうして角で自分の姿を隠しながら、廊下の様子を窺った。


「どうか、したの?」

「静かにしろ」


 瀬戸内を手で制して、息を殺す。

 次第に足音は大きくなり、そしてその姿を露わにする。


「……なんだよ、驚かせやがって」


 俺は一歩を踏み出して、教室から廊下に出る。

 そうして俺は廊下を走ってきた奴等と顔を合わせた。


「よう、無事だったみたいだな」

「坊主も無事か」


 足跡の正体は銀と残りの二人のものだった。

 どうやら銀は上手く、神無月と小鳥遊を保護していたらしい。これで全員の安否が確認出来た。全員、誰一人として犠牲になることなく、此処に合流できた。後は、あの狐の妖怪をどうにかすれば万事、解決だ。


「誠一郎! 春子は!?」

「そこの教室にいるよ」

「よかった!」


 喜んだ神無月は、小鳥遊と共に教室に急いだ。瀬戸内の安否をはやく自分の目で確かめたかったのだろう。すぐ後になって、三人の歓喜の声が教室から聞こえてくる。感動の再会という奴だった。


「姿を見せても良かったのか?」

「緊急事態だ、仕様がねぇ。人命第一ってのは、何処の業界でも通用する言葉なんだよ。――それより、だ」


 銀は一際、厳しい顔付きとなり声音も引き締まる。


「さっきから妖狐の臭いが強くなってやがる。時期に、完全な形で降霊するだろう。悠長に結界を破っている時間もない。現状、妖狐を今ここで始末できるのはお前だけだ。やれるか?」

「なんとかしてみせるさ。出てきそうな場所はわかるか?」

「あぁ、恐らく――」


 そう居場所を告げようとした時、それを遮るように「待ってくれ」という声がする。それは紛れもなく神無月の声であり、事実、遮ったのは神無月本人だった。


「今からあの妖怪を倒しに行くんだろ? 俺も連れて行ってくれないか」


 俺達に加勢したい、そう神無月は願い出た。あんなことがあった直後なのに、もう反旗を翻せる精神力は見上げたものだけれど。正直、付いてこられた所で扱いに困る。大人しく此処で待ってくれていたほうが余程、助かるのだが。


「あー、神無月。気持ちはわかるがな」

「大丈夫だ。俺だって普通の一般人じゃあない。これでも神無月の一族だ。妖怪との戦い方なら身にしみて――」

「ハッ」


 またも言葉を遮るように、声が覆い被さる。今度は神無月の言葉を、銀の嘲笑が掻き消した。なんとも鼻に付くような、嫌らしい、馬鹿にしたような声音だった。


「止めときな、小僧。お前の出る幕じゃあねぇ。安心しろ、お前の尻ぬぐいは隣の坊主がやる。お前は何もするな」

「俺が何もしない訳にはいかないだろ! あの妖怪は俺達の所為で――」

「聞こえなかったのか? 足手纏いだっつってんだよ、この大馬鹿野郎が」


 低く低く、ドスの利いた声が響く。

 出会ってから今まで、こんな声を聞いたことがない。それほどまでに、銀は苛立っている様子だった。


「てめぇの軽はずみな行動の所為で人が死ぬところだったんだ。すくなくとも坊主がいなけりゃ一人は確実に死んでいた。そんな奴の手を誰が借りたいと思う、そんな馬鹿野郎と誰が並んで戦いたがる。てめぇの頭に詰まった脳味噌で、そいつが理解できねぇのか」

「それは……」

「いいか、てめぇは何もするな。それがお前に唯一できる最大の手助けだ」


 そう厳しい言葉を投げ掛けて、銀は神無月に背を向けて歩き始めた。銀が移動を始めたのなら、俺も付いていかなくちゃあならない。


「後のことは俺に任せとけ。お前はあの二人を護ってやれよ」

「あ、あぁ……そう、だな」


 短い言葉を交して、俺も銀の後に続く。

 狐の妖怪、妖狐の完全なる降霊はすぐそこまで迫ってきている。崩れた天井、ひび割れた窓、落下物の転がった廊下。俺達はそんな通路を通り、姿を現すであろう場所へ駆け出した。

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