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廃倉庫

「どこ? どこで知り合ったの? どう言う関係?」

「知り合いですか? 友人ですか? もしや、恋人? あんな美人な人と? 真事疑くんが?」


 とは思うものの、勢いが凄い。

 こうも捲し立てられると、返事をする暇もない。まったく、どうして女って生き物は、こうも何でもかんでも色恋沙汰に関連づけて首を突っ込みたがるんだろうか。


「はいはい。もう止めにしないか、二人とも。困ってるだろ?」

「でも」

「それにあの人を待たせちゃ悪い、そうだろ?」

「う、ん」


 あれだけ喧しかった瀬戸内と小鳥遊も、神無月の前では形無しだった。

 直ぐに勢いを失い、言う通りに追究を止めた。流石は神無月、女子高生の扱いに長けている。


「それじゃあ、俺はもう行くから。三人で楽しんで来いよ」


 そう言い残して三人の中から離脱した俺は、急いで校門を抜けてコンビニへと向かう。徒歩五分の道程を駆け足で進んでいく。こう言う場合に限り、この身体は便利だ。肉体は疲れを知らないから、いつも以上に早く目的にまで辿り着ける。 


「ん。おーい、こっちだ」


 そうしてコンビニの敷地内に踏み込むと、すぐに折部凛を見付けることが出来た。

 止めたバイクに寄りかかり、紙パックから伸びたストローを咥えている。飲んでいたのは、どうやらコーヒー牛乳みたいだ。


「悪い、待たせた」

「いいよ、べつに。それより良いのか? なにか取り込み中みたいだったけれど」

「ああ、それは問題ない。寧ろ助かったよ」


 あれは実に良いタイミングだった。


「ふーん。まぁ、そう言うなら良いか」


 ちょうど中身を飲み干したのか、紙パックがしぼむ。それを折部凛はゴミ箱に投げ入れた。あの側面に空いた小さい穴の中によく投げ入れられるものだと感心する。俺ならあの穴が上を向いていても投げ入れられそうにない。


「ほら」


 その様に気を取られていると、唐突に何かを投げ渡される。それを辛うじて受け取ると、そいつの正体がヘルメットだとわかった。先ほど被っていた物とはデザインが違うから、二つ目のヘルメットだろう。


「ちょっと待てよ? なんでこれを俺に渡した?」

「なんでって。ヘルメット被らなきゃバイクに乗れないだろ?」

「いや、そうじゃあなくてだな」


 それはつまり、あれか? 二人乗りか。


「なんだ? 怖いのか」

「怖いんじゃあない。怖いんじゃあ」

「じゃあ、なんだよ」

「いや……」


 なんというか。


「んん? あぁ、わかった。なんだ、照れてるのか。かわいい奴だな、ははっ」

「からかうなよ。出会ってまだ二三日しか経ってないんだ。しがみつけって言われたら誰でもこうなるだろ」


 密着して相手の腹に手を回すなんて、相手が男でも若干の抵抗が生まれるものだ。それが女ともなれば尚更だ。役割が逆ならまだしも、やはり躊躇してしまうのは仕様がないことだと思う。

 この感覚の鈍い状態でそう感じるのだから相当だ。


「大丈夫だって。私は気にしないからさ」

「お前が気にしなくても、俺は気にするんだよ。だいたい、銀はどうするんだ。近くに居るんだろ? 見えないけど」

「呼んだか」


 話題に出してすぐ、足下から声が聞こえてくる。視線を下げると、今の今まで姿を消していた銀が現れていた。

 銀は俺の監視役で、四六時中一緒にいる。それは学校にいる時も変わらない。銀はこうして姿を消して、透明になって、俺のまわりに常にいる。俺がバイクで移動したら、銀が付いてこられない。


「心配するなって。バイクで出せる速度くらいなら、付いてこられるさ。なぁ?」

「あぁ、それに目的地も知ってる。なんなら先回りしてやろうか」

「マジか」


 どうやら逃げ場は無さそうだった。


「わかった。観念するよ。乗れば良いんだろ? 乗れば」


 半ばやけくそ気味にバイクに跨がり、俺達は目的地に移動した。その間の俺の感情を一言で表わすなら、それは無であった。とにかく、無心であることを心掛け、気恥ずかしさを忘れようとした。効果はあまり、芳しくなかったけれど。


「ここが目的地なのか?」

「あぁ、そうさ」

「どう見ても倉庫にしか見えないんだが」


 バイクに乗せられて移動して来たのは、とても古びた倉庫だった。すでに廃棄されているのか、使われている痕跡がない。建物全体が錆び付いていて、蔦が這っている。屋根の付近にある窓は割れているし、外壁に触れると表面が簡単に剥がれ落ちる始末だ。


「だから、いいんだよ。此処なら人目に付かないし、十分な広さがある」


 分厚い引き戸の扉を開け放つと、やけに埃っぽい空気が漏れ出してくる。


「まぁ、多少は汚れているけれどね」


 本当に廃棄されて長いのだろう。倉庫の中は埃に塗れ、放置された段ボールや瓦礫が散乱している。これは特訓の前に、大掃除をしなくちゃあまともに使えそうにない。今日一日は、それで潰れてしまいそうだ。


「じゃあ、まず何をする? 埃取りか? 雑巾がけ?」

「いいや、その必要はない」

「まさか、この汚い中で特訓するつもりか?」

「まぁ、見てなって」


 そう言って折部凛は一人、倉庫の中へと踏み行った。

 何をするのかと外から眺めていると、不思議なことが起こる。いつの間にか折部凛の

左手に、一振りの刀が握られていた。何処から取り出したのかは、見ていたのにわからなかった。


「吹き荒べ、舞風。踊り集え、塵芥ちりあくた。我が鋒を道しるべとせよ」


 何かを呟いて、刀の鋒で小さくコンクリートの地面を傷付ける。すると、それを切っ掛けとして、倉庫内に風が発生する。恐らく、折部凛が発生させたそれは、降り積もった埃や塵を総て巻き上げ、攫いながら旋風となる。

 そして、渦のように一点に集結させると、何事もなかったかのように止んだ。

 倉庫内にはすでに埃っぽさはなく、淀んでいた空気も清んでいる。埃や塵、よくないものは総て風に乗り、刀の鋒に傷付けられた地面に集まったみたいだった。


「凄いな、そんなことも出来るのか」

「こんなのは初歩の初歩だぜ? 後は、こいつを纏めて外に放りだしてやればいい」


 埃と塵の小山は塊として浮かび上がり、独りでに倉庫から出て行った。このまま本当の風に乗って雲散霧消するのだろう。結果としては、物凄く効率の良い換気をしたって所か。便利だな。


「掃除は終わり、次は片付けだな。みんな隅に集めちまおう」


 掃除は不思議な力で出来ても、片付けは人力でやらなくちゃあ行けないらしい。

 任せっきりにするのも何なので、力仕事は俺も手伝った。古びてカビの生えた角材や、錆び付いた鉄骨。鉄パイプ。細かな部品の入った段ボールなどなど。それらを一つ一つ、倉庫の角や隅に追いやっていった。

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