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俺、異世界で自作ダンジョン目指します!  作者: ITSUKI
あっちでもこっちでも事件
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第49話:招かれざる客(2)

 しばらくそのまま進むと……、

 ナナミから「血の匂いがするデス」と物騒な追加報告。

 もちろんダンジョン入口はまだ遠く見えない。


「獣でも仕留めた猟師かな。もしかして怪我人だとすると……」

「ちょっと様子を見てくるデス」


 どうするか迷っている間にナナミが森の中を駆け出してしまった。

 クレアを肩車した後ろ姿がすぐに見えなくなる。

 仕方がないので俺も足を速めて、その後を追う。


 で、もう少しでダンジョンが視界に入るかというあたりで、

 ナナミとクレアが木の上から音もなく飛びおりてきた。

 驚いて声を上げそうになったが、ナナミの小さな手で口をふさがれる。


「刀を持った男が二人、入り口の前にいるデス。

 血の匂いはその刀から……まだ新しい人間の血の匂いデス」


 話してくれた内容を理解した俺は、その場で固まってしまった。

 その反応を見たナナミが、俺の口からゆっくりと手を離す。


「たぶんダンジョンの中にも何人かいるデス」

「それは……」


 いくつもの不吉な想像が頭をよぎるが、まだ判断するには早すぎる。

 まずはもっと詳しく状況を確認すべきだ。


 ということで……

 こんな時のためだったわけじゃないけれど、

 先に作っておいたあの設備、早くもその真価を発揮してもらう時がきた。


「管理室から様子を見てみよう」


 俺の提案に「それがいいデス」とナナミ。

 クレアもこくんと首を縦に振る。

 そのまま行き先を変更、忍び足でとある場所へ。


 ダンジョン入口から見えない位置、地肌がむき出しになっている崖。

 大きな岩があり、その一ヶ所に突き出ている小ぶりの岩を握ってまわす。

 それから横にずらすように大きな岩全体を押すと、あら不思議。

 崖の中へと通じる穴が現れる。


 ここが管理区域への隠し入り口なのだ。


 いかにも秘密基地への入り口というこの感じは、

 洞窟村の土木担当グレッチさんと、建築担当のダクートさんに、

 監修と実作業の手伝いまでしてもらって造り上げたモノ。


 他の設備はさておいて、真っ先にこれを作りたいと相談したら、

 もの凄い良い笑顔で現地まで来て、原案の打ち合わせから軽く設計、

 そのあと現地合わせで形にしてしまったのだ。


 これぞ男のロマン。


 三人の男が喜色満面で「万歳万歳」と完成を喜ぶ姿は、

 はた目から見たら気持ち悪かったかもしれない。

 とはいっても、ナナミとクレアも一緒になって喜んでくれたのだけど。


 そんなわけで……、

 ここからの出入りは、そのたびに笑顔になってしまう。


 状況を忘れてニヤニヤしてしまった自分を戒めながら、

 狭い通路を進み、管理室へ到着。


 打ち合わせ用の机と四つの椅子、壁際にソファーと書棚、

 隅に簡易キッチン、扉を隔ててトイレと小さいながらもお風呂付き。


 すぐに部屋の右の壁に近づき、足元にある横穴に腹這いの姿勢で潜りこむ。

 突き当り、下を向く方向にある小さな扉をスライドさせる。


 ここが――ダンジョン入口用の監視窓。


 外を覗くと、上から見下ろすようにダンジョン入口周辺が見える。

 もちろん向こう側からは、岩の割れ目にしか見えないように偽装済み。


 そこに居たのは……

 頭に黒いバンダナを巻いた男が二人。角度的に顔は見えない。

 共にむき出しの曲刀を手に持っている。


 血のついた形跡は判別できないけど、ナナミの超感覚を疑うつもりはない。

 どちらか、もしくは両方が……、

 人の血を浴びたことがあるのだ。それもつい最近。


 そうやって観察していると、

 ダンジョンの中から同じ格好をした三人目の男が現れた。

 それに気付いた一人がその男に話しかける。


「親分はなんて言ってたんだ」

「どうやら、ダンジョンのできそこないだそうだ」


「できそこないって……、

 通路とか奥の部屋は形になっていたし、灯りだってついていたじゃないか」


「そこまではな。……だが、その先の魔物のいた小さな部屋なんか、

 本当にただの部屋で、自分で開けなきゃ中の魔物と遭うこともない。

 もうひとつ、カラの宝箱があった奥の部屋には、何の工夫もなかったそうだ。

 おかしなことに、宝箱だけには針が飛び出る罠がついてたそうだが……」


「なんだそりゃ」


「たぶん酔狂な奴が、もとからあった洞窟をいじくって、

 ダンジョンの真似事をしようとしていたんじゃないかってのが、大方の予想だ」


「そうすると持ち主がいるかも知れないってことか。

 そいつが来たらどうするんだ」


「へへっ、ここはもう俺たちのモノだ。

 邪魔をするつもりなら、いつも通りの目に合わせろとよ」


「ほう……、さっきの護衛みたいにか」

「まっ、そういうことだな」


 男たちは手にした曲刀を軽く振る。

 それが意味するところを想像するのは難しくない。


「それじゃ、しっかり見張りを頼むぞ」


 そう言って、後から来た一人が再びダンジョンの中に戻っていった。


 ――できそこないじゃない!


 ここまでの男たちの会話、

 その物騒な内容はさておいて……いま俺は猛烈に怒っている。

 確かに自分では「自慢できるほどじゃない」と言うけれど、

 ここは俺のダンジョンだ。


 ナナミとクレアとグレッチさんとダクートさんとトネルドさんに……、

 みんなに手伝ってもらって、ここまで仕上げた俺のダンジョンだ。


 それをできそこないと呼ばれて黙ってなんていられない。

 勝手に自分たちの物にしようだなんて許せない。


 監視窓を閉じて、監視用の空間から這い出す。


 怒りの感情のまま振り向いたとき、目の前にいたのは――

 据わった目をしたナナミとクレアの、上下に並んだ顔だった。


「……やるデス」

「……です」


 二人にも外の会話が聞こえていたようだ。

 ぼそっと口にした「デス」と「です」があっちの意味に聞こえて怖い。

 俺以上に怒りに燃えた二人を見て、逆に冷静さを取り戻す。


 やっぱりネコミミ少女も魔族幼女も、

 このダンジョンに愛着を持ってくれているんだなあと嬉しくなるけれど、

 だからといって、その感情のまま奴らの相手をさせるわけにもいかない。


 とりあえず、ある程度の状況はわかった。


 護衛がつくような「何か」か「誰か」を襲って、

 刀に人間の血の匂いをつけるような集団。

 そいつらが俺のダンジョンを占拠して、自分たちのものにしようとしている。


 おそらくそんな感じなのだろう。

 もちろん、そんなことを許すつもりはない。


 けれども……ナナミの報告にもあったし、

 男たちの会話からも、メイン部屋にまだこいつらの仲間がいるのは確実。

 その状況を確認してからじゃないと、何をするにしても危険だ。


 と、そこで気になったのが――


「ナナミ、こっちの管理施設と通路に誰か入ってきている様子はないかな」


 突然の質問に、ナナミが普段の表情に戻る。

 それから気配を探るように瞳が上を向いて、少し間をおいて口を開く。


「こっちにはいないデス。奥のおっきな部屋に何十人、

 あと魔物部屋に魔物がいなくて……人間がたぶん一人いるデス」


 何十人……ちょっと多いな。

 魔物部屋に魔物がいないってことは、倒されてしまったのか。

 まぁ、管理施設が知られていなければ、まだまだこっちが有利。

 ダンジョン側からは見つからないようにしておいて良かった。


「そっか、じゃあ、ちょっと怒りをおさめて、奥の様子を見に行こう。

 いろいろと勝手なことを言われて、ものすごく腹が立っているけれど……、

 奴らをどうするか決めるのはそのあとだ」


「ユウキがそういうのなら……デス」

「うん」



 ◇ ◆ ◇



 管理通路にあるメイン部屋が見える横長の覗き穴。

 そこから、俺と少女と幼女、三人顔を並べて中の様子をうかがう。


 見えたのは、お揃いの黒いバンダナをかぶった男たち。

 ナナミの超感覚と、俺の【空間把握レベル2】で確認した人数は二十八人。

 表の見張り役二人と合わせれば、総勢三十人の集団。


 そのうちの十人くらいが荷物を宝箱部屋に運んでいる。

 そして部屋の隅で横になって休んでいるのが十人。

 残りが部屋の中央で食事をしていた。


 俺たちが盗み見しているのにも気づかず、大きな声で話をしている。


「……親分、あいつはミバクの町の商人で間違いないようです」

「そうかい。で、この洞窟のことは知っていたのかよ」


 親分と呼ばれたのは、真ん中でデカい態度をしている男。

 覗き穴から見てちょうど正面、敷物の上に胡坐をかいて座っている。

 見えている男たちの中では一番体格が良く、

 その身体に見合った大きさの剣が、かたわらに置いてある。


 親分に話しかけていたのは若い男。

 座ったまままの親分の横に少し離れて立っていて、頭を下げて質問に答える。


「いや、知らないと言ってましたね。

 嘘をついても意味はねえし、それにあの状態で嘘を言うとも思えないんで、

 その通りなんでしょうよ」


 ここに来る前に、先に魔物部屋の様子を覗いたのだけど、そこには――

 見るからに痛めつけられた様子の男性がひとり、縛られて転がされていた。

 年齢は四、五十代。気の毒だとは思ったけど、

 まだ詳しい事情がわからないので、そのまま放置するしかなかった。


 おそらくあの男性が、

 いま若い男の話に出たミバクの町の商人なのだろう。


 ――やっぱりあの人は、この連中の被害者なんだな。


 助け出した方がよさそうだ――と、そう考えていると、

 覗き穴の向こうで親分が機嫌良さそうに大きな体をゆすっている。


「へっへっへっ、そうか……近くの町の商人も知らないとなると好都合だな。

 数日だけと思っていたが、このままここを――

 わしら盗賊団『黒トカゲ』の新しいアジトにしてもいいかもな」


「ただ、奴の言うことにゃ、ここの土地は魔族の支配地だって話なんでさあ」


「魔族だと……」

「えぇ、それもある筋じゃ、ものすごく有名な魔族らしいです」


「ふうん、聞いた事がねえなあ。

 だがよ……、このダンジョンもどきを見りゃわかるが、

 こんなのがある場所の支配者なんて、魔族だろうとたかが知れているだろうよ」


 これはまた……。


 こいつら俺の怒りの火に油を注いでくれる。

 俺のダンジョンをけなすだけじゃなく。

 大恩あるソニアさんをおとしめる発言、これが頭に血が上るという感覚か。


 ていうか、クレアの眼と耳で、

 ソニアさん本人が見て聞いているんじゃないだろうな。


 ……それは怖いな。


 けど、あの人はこういう事に口を出さない気もする。


 だとしても……、それはそれで――

 このまま言わせておくわけにはいかない、という使命感が燃え上がるだけだ。


「それにだ、魔族なら人間に敵愾心を持っているって話じゃねえか。

 ならよ、人を襲ったり、物を奪ったりする、わしらの味方になるんじゃねえか」


「あぁ、それはそうかもしれませんね」


 ――それは絶対ない!


「まあ、わしらも三日間逃げ続けて、ようやく運が戻ってきたようだな」


「そうですよね……、街道で腰抜けの護衛を連れた荷物満載の馬車に出くわして、

 そいつらから荷物を奪って、そのまま街道を外れてうろうろしていたら、

 隠れるのにおあつらえ向きの、この洞窟を見つけたんですから」


 ――そういうことか……。


「おい、見張りの奴に伝えた命令を変えてこい。

 誰か来たらすぐに始末せずに、ここに連れて来いと。

 この場所を知っている奴らを吐かせて、そいつらまとめて始末しちまおう。

 そうすれば、ここは誰にも知られていない場所になるって寸法だ」


「わかりました。ちょっと話してきます」

「おうよ」


 こちらを始末しようと話をしている以上、俺たちの敵であることは確定。

 ダンジョンとソニアさんを侮辱されて怒りはMAX。

 あの商人さんも助け出してあげたい。


 ということで――

 盗賊団『黒トカゲ』には、それ相応の「おもてなし」を。



 第49話、お読みいただき有り難うございます。


 次回――招かれざる客(3)

 ダンジョンを荒らす盗賊相手に、ユウキが自ら立ち向かう……です。


 更新は9月29日を予定しています。


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