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第43話:ダンジョンを作ろう(1)

 さて、これからダンジョン試作にとりかかる、その前に。


 こういった作業をする場合、

 手伝ってくれる人間に何をしようとしているのかを、

 ちゃんと説明するべきだと俺は思う。


 何を手伝わされているのか知らないままする作業は、

 苦痛でしかないことを、身に沁みて分かっているからだ。


 内容を理解されない場合もあるけれど、それはそれで仕方がない。

 その場合でも、説明をした――

 いや、説明をして理解してもらえるように努力した、という事実が大切なのだ。


 だからナナミとクレアに、

 俺がどんなダンジョンを作ろうとしているのかを説明する。


「まず、これから作ろうとしているのは、あくまでも試作なんだ。

 ただし、うまくいった場合の拡張を全く考えていない訳じゃない。

 でも、一旦その考えは捨てておく。

 他にある重要な部分を、おろそかにしてしまっては本末転倒だからね。


 で、今回試したいのは――


 ダンジョンをこの手で掘るのに、どのくらいの時間がかかるのか、

 話に聞いた、魔素が集まって、魔物が発生する現象がどんな感じで起こるのか、

 発生した魔物と探索者をどうやって戦わせるのか、

 探索者が勝利した場合に、贈る宝物は何が良いか、どうやって渡せばいいか、

 ダンジョンに付き物の罠をどうするか。


 ここら辺は、ダンジョンに必要な要素――

 ダンジョン空間、魔物、お宝、罠、そういったものを形にする方法の検討だね。


 それから、どうしても付きまとう問題が――


 運営にあたって『保守管理』には何が必要で、どうやっていけばいいか、

 さらに大事な問題として、

 全てに関係するんだけど――そのための『費用』をどうするかがあるんだよね。

 こういうのは、本当に実際にやってみないとわからないから、

 今回の試作の意義、その大半がここにあると言っても過言じゃない。


 そして最後に――


 訪れた探索者が命の危険にさらされたときの話。

 その局面になった時、どういう対応をとるべきなのか。


 これは非常に重要な問題なんだ。


 俺の作るダンジョンがダンジョンであるのなら、

 何もせずに放っておくのが答えなのかもしれない。

 現に、ドラワテのダンジョンではそうなっていたのだから。

 あのラスボス部屋で命を落とした探索者が何人もいたはずだから。


 もちろん俺の作るダンジョンでは不要な危険は無くすつもり。

 不条理なほど強い魔物や危険な罠は配置しない。

 方法は決めていないけど、回復設備なんかも作りたい。


 それでもなお、無謀な者、不運な者が現れるのは避けられない。

 それを見放すのか、救う手立てを考えるのか、決める必要がある。


 けれどもそれは――いまはまだ結論は出せないし、出すつもりもない。 

 これは他の課題をクリアしながら、並行してゆっくりと考えてみるよ。


 前置きはそんな感じで、いま俺の頭の中にある設計図では――」


 そういって地面に絵を描いてみる。


「グネグネと曲がった通路、これが最初の通路になるんだけど、

 あまり長くしないで四、五回曲がって最初の部屋に辿り着くようにする。

 大きさは昨日作ったトンネルくらい。


 で、最初の部屋は一辺が歩幅で四十歩くらいの大きさにしてみる。

 ドラワテのダンジョンにあった部屋よりも一回りか二回り小さいサイズ。

 人間四、五人と大イノシシくらいの魔物数体が何とか戦えるくらいかな。


 この大きさは俺が頭に描いているだけで、

 自分でもどのくらいがいいか分かっていないんだけど……まぁ、試作だからね」


 地面にヒョロヒョロの一本線の先に角の丸い四角を描いて、

 その四角部分を指でとんとんと示す。


「メインの部屋はここだけ。

 通路があってその奥に一部屋あるだけのダンジョン。

 これが俺の最初のダンジョンになるんだ」


 ――偉そうに言える規模じゃないんだけどね。


 そんな俺の心の声を知ってか知らずか、

 少女と幼女、二人の聴衆からパチパチパチと拍手が起こる。

 ちょっと照れてしまう。


「ただし実際はこれで終わりじゃない。

 まだ必要な施設がある。ひとつは魔物部屋。

 このメインの部屋で魔物を発生させてしまうと、管理が難しいと思う。


 だからメインの方は――

 魔物の発生を、洞窟用魔法石で完全に抑えてしまおうと考えている。


 代わりに、この部屋の隣に魔物を発生させる専用の部屋を作って、

 そこで色々と検証しようと思う。


 その部屋とメインの部屋とは、扉か何かを作って行き来を制限するつもり。

 ドラワテのダンジョンにあった結界扉なんかは理想だけど、

 あれって空間魔法が使われている気がするから、ちょっと無理かな。


 で、もうひとつは宝物部屋。

 メインの部屋に魔物を倒した探索者だけが通れるような扉を作って、

 その先に宝箱部屋を作る。


 ということで、やっぱり、ある条件で通れる扉ってのが必要なんだけど、

 これについては、トネルドさんの魔法石でできないかちょっと訊いてみるよ。


 それから大事なのが管理室と管理通路。

 ダンジョンを管理する者だけが利用できる部屋と通路、これは絶対に必要だ。

 もちろん利用するのは俺たちなんだけどね。

 そういった裏方作業を探索者に見せると興ざめさせちゃうから。

 だから、今まで話した通路や部屋を全部裏でつないで……」



 ◇ ◆ ◇



「お主のやり方に口出しをするつもりはないのじゃが……、

 少々、前置きが長すぎやしないかの。そろそろ作業を始めたらどうじゃ……?」


 クレアの口から、ソニアさんの呆れたような声。


 その時の俺は、試作ダンジョン構想の説明を終えて、

 将来計画している百階層ダンジョンの地下二十七階をどんな構成にするか、

 頭の中で描いた壮大なプランの一部を、ナナミとクレアに聞かせていた。


 ネコミミ少女と魔族幼女は驚くほど聞き上手だった。


 冷静になって考えれば、俺のダンジョン構想なんて

 聞かされても面白くないような気もするのだけれど、

 欲しいところで「デスデス」とか「ふむふむ」といった合の手が入る。


 やはり自分の好きな分野の話を聞いてもらえればうれしい訳で、

 いつの間にかそんなところまで話が進んでしまったのだ。


 で、結局小一時間話し込んでいたところで、

 ソニアさんが俺の暴走を止めてくれた。


 といってもナナミとクレアは、

 特別に飽きたとかつまらないとかの感情はなさそう。

 このまま話が続いてもいいくらいの感じで、

 ソニアさんの言葉にキョトンとした顔を並べている。


 ただ、自分ひとり舞い上がってしまったという自覚はあるから、

 ここは素直にソニアさんの忠告に従おう。


「そうですね。話はこれくらいにします。

 ナナミ、クレア、作業を始めようか」


「はいデス」というナナミの返事と一緒にクレアも頷く。


 ここは俺の試作ダンジョン予定地。


 拠点予定地とは少し距離がある。

 ソニアさんの支配地を南北に流れる川、それを挟んで西側。

 ミバクの町から北西に延びる街道を少し奥に入った場所。

 森の中、山の麓にある崖の斜面。


 洞窟村や拠点予定地と離れた場所にしたのは、

 関係性を思われないようにするためなんだけど、

 そうはいっても、完璧に隠し通すつもりじゃない。

 知られたら知られたらでいいけれど、あえて教えるほどでもないってくらい。


 街道から少し離れた場所にしたのも、

 将来的に試作ダンジョンをどうするか――

 一般に開放するのか、知り合いに見せるだけにするのかで、

 隠そうと思えば隠せるし、道を通せば人に来てもらえる――と、

 ここがそんな場所だったからだ。


 簡単に言えば、

 何も決まってないから、まだ決められないから

 どう転んでもいいようにと考えてのこと。


「さっき話した計画の通りに通路を掘っていくから、

 昨日みたいな感じで、左右の端を角にして地面を平らにするのと、

 灯りをつけていってくれるかな」


 灯り――洞窟用魔法石はトネルドさんの魔法石店で買ってきた。

 売れ筋商品だけあって、在庫がたくさんあったので、まとめて購入。

 お金はいらないと言われたけれど、それは自分のためにならない。

 これからもいろいろ用立ててもらうつもりだから、

 無料にされると、今後わがままを言いにくくなってしまうし。


 では――作業開始。


 昨日のトンネル掘りと同じ無限ドリルの音。

 そしてナナミとクレアの掛け声。


 ドガガガッドガガガッ。ドガガガッドガガガッ。


「あははははー」「やっ! やっ! やっ!」「やるデス」「ガインッ」


 洞窟用魔法石とナナミとクレアが使っている工具の費用は、

 ドラワテのダンジョンで稼いだ、俺の分け前だけで何とかなった。


 ただ、今後のことも考えなければならない。


 ダンジョンを作るのは趣味だけど、できることなら……、

 何らかの方法で利益を得て、そこから運営費を捻出したいと考えている。


 だからといって、入場料を取るなんて手段はちょっと避けたい。

 恥ずかしすぎるから。


 とりあえず、いま考えているのは、

 自分のダンジョンに発生した魔物を自分で退治して、

 その魔石を売ったお金を収益にするつもり。


 趣味だとは言え、費用はどうしても掛かるのだから、

 続けていくには、しっかりと考えていかなくちゃならない。


 ドガガガッドガガガッ。ドガガガッドガガガッ。


「あははははー」「やっ! やっ! やっ!」「やるデス」「ガインッ」


 ちなみに、拠点の建築費用についてはハヤトが考えていた。


 ソニアさんに「わらわに任せるがよい」なんて、

 笑顔で言われたけれど、丁重にお断りさせてもらった。


 ハヤトの考えでは――

 連絡用魔法石を配った先から、助成金をもらってくるつもりらしい。

 自滅憑依体の対処という、相手にとって利益になる話を持っていくのだから、

 正当な権利だというのがハヤトの言い分だ。


 確かにそうなのだろう。


 準備するのに大ツバメの魔石なんて高価な品を手放しているし。

 まぁ、最終的にその金額以上の寄付をもらってくる気でいるようだけど。

 それも、いろいろと動き回るこっちの人件費と考えれば、

 これもまた正当な要求だ。


 ドガガガッドガガガッ。ドガガガッドガガガッ。


「あははははー」「やっ! やっ! やっ!」「やるデス」「ガインッ」


 ただ一点、思うところがある。


 それは、面倒事をハヤトやリリスとアンヌさんに押し付けて、

 こうやって自分だけ趣味の作業に専念していることへの罪悪感。


 とはいっても、あっちの三人の仕事を手伝えるかどうかは怪しい。

 この世界の常識は知らないし、偉い人と折衝なんてできるはずもない。


 それに、いま俺は訓練をするのが優先だと言われている。


 この試作ダンジョンも無限ドリルを使いこなす訓練だし、

 午後は時間を作って、ナナミと体術訓練をする予定も立てている。


 そして俺に求められている役目、俺にしかできない役目もある。

 自滅憑依体を見ることができる唯一の手段――聖魔眼。

 ハヤト達が作っている連絡網から出現の報せが届いたら、

 何を置いてもそっちを優先して、文字通り飛んで行ってその動きを観察する。


 もちろんそこから――

 俺自身がなにかの意味や手がかりを見つけられれば万々歳なのだけれど、

 そこまで望まずとも、見た全てを仲間にそのまま報告するだけでも意味がある。

 なぜなら、その情報が――

 先の見えない現状を打ち破る、何かの答えに繋がるかもしれないからだ。


 だから、それ以外はダンジョン作りも兼ねて訓練をしていればいい――

 それが仲間と話し合った結果だし、そう自分に言い聞かせて納得もしている。


 ちなみに――

 聖魔眼は、正体を現す前の自滅憑依体も見ることができるけれど……


 だからといって、

 その状態の奴らを発見するために、いろんな町で人を観察するだなんて、

 そんなの現実的じゃないし、仲間からも求められてもいない。


 まぁ、それは言わずもがなってやつ。


 ドガガガッドガガガッ。ドガガガッドガガガッ。


「あははははー」「やっ! やっ! やっ!」「やるデス」「ガインッ」


 話は変わるけど――


 今日は、整地するためのコンダラはない。

 俺やナナミの力があれば、持ってくることができない訳じゃないけれど、

 あそこからここまでちゃんとした道がないので諦めた。

 無理するほどじゃないし。


 持ってきているのは、

 俺とナナミが肩に担いで運んだ、二つの大きな袋に入った分だけ。

 中身はナナミが使うツルハシとスコップ、そして洞窟用魔法石、

 それらの予備を含めた部材と道具くらい。

 ちゃんとグレッチさん監修のもと、ナナミが用意してくれたものだ。


 そんな訳で、整地は俺の土魔法――

 じゃなくて【土石操作】でどうにかするつもり。


 今後、どうしても必要な大きな物があるようだったら、そのとき考えよう。

 拠点と試作ダンジョンとを、トンネルを掘ってつなげるっていう手もあるし。

 

 ドガガガッドガガガッ。ドガガガッドガガガッ。


「あははははー」「やっ! やっ! やっ!」「やるデス」「ガインッ」


 とまあ、そんなことをつらつらと考えながら掘り進めて、

 計画していた通路も残すところ二割を切ったころ。


 やはり事件は起こった。


「なにかいるデス! ものすごい数デス!」


 無限ドリルが掘削する激しい音がする中、

 それでもはっきりと聞き取れるほどの大声でナナミが叫ぶ。

 灯りの少ない洞窟の中が、一瞬にして緊迫した空気に変わっていった。



 第43話、お読みいただき有り難うございます。


 次回――ダンジョンを作ろう(2)

 現れる敵、思わぬアクシデント、ユウキたちは窮地を脱出できるのか……です。


 更新は8月18日を予定しています。


※8月11日 誤字修正


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