第41話:洞窟村で(3)
とまぁ、そんなことがありながら――
洞窟村の役員の人達は「最初の一掘りを見て様子はわかった」と、
必要な人間だけを残して解散する話になった。
この場に残るのは俺の同志になってくれた土木と建築の責任者の二人。
となれば、こっちも全員で俺の穴掘りをみているだけでは時間がもったいない。
連絡用魔法石が何組かでも出来上がれば、
すぐにでも行動を開始できるように色々と準備をしておく必要がある。
ということで穴掘りの再開前に、
俺たちのパーティ『勇敢な瞳』の中で今後の役割分担を決めた結果――
各地との連絡網の構築をハヤトとリリスとアンヌさんに任せることになった。
とりあえず今この三人にはトネルドさんとの打ち合わせや、
その他もろもろの検討のため一旦村に戻ってもらう。
で、この場に残るのは、俺は当然として、あとはナナミとクレア。
連絡網組はしばらく忙しくなるから、
今後もこの組み合わせで一緒に行動することになる予定。
ソニアさんから許可をもらった俺のダンジョン作り(最初は試作から)も、
おもにこの二人に手伝ってもらうことになるだろう。
クレアがハヤトと一緒に行動しないのは、
もっぱら各都市や町の偉い人との話し合いが主な仕事になるので、
その場に幼女がいても場違いだろうという理由と、
クレア、そしてソニアさんも、それを望まなかったからだ。
「クレア、ユウキは穴を掘るのに忙しいからナナミに乗るデス」
「うん」
ネコミミ少女と魔族の幼女はすっかり仲が良くなっていて、
今まではハヤトか俺が担っていた「肩車をする役目」にナナミが立候補、
クレアもためらうことなくその肩に乗る。
ナナミは俺より頭ひとつ分くらい背が低いが、
筋力を含む身体能力は、俺がスキル発動で能力アップした状態よりもさらに上。
クレアを肩車した姿がちょっとアンバランスだけど、
身のこなしは普段と変わりなく、見ていても不安を全く感じさせない。
それ以前に「肩車はしなくてもいいんじゃないか?」という疑問は、
いつも通り黙って胸に納めておく。
ところで――
この組み合わせを決める時、ちょっとだけ反対意見がでた。
それは意外にもリリス。俺たちのほうに参加したいような態度を見せたのだ。
「ワ、ワタシもダンジョン作りを手伝いたいのですが……」
とはいっても、彼女の場合、連絡網作りの方が適任なのは間違いない。
アンヌさんとペアで動けばハヤトとは別に竜で移動できるし、
元王女で現在は神官である彼女の信用は、
有力者と交渉する上でこれ以上ない後ろ盾になる。
さらにいえば、自滅憑依体の浄化ができるのは、このパーティでは彼女だけ。
最初に顔合わせをしておけば、今後の信頼度に格段の差が出る。
まあ、そんなことは俺が考えるまでもなく、
リリスの控えめな主張に対して、ハヤトが感情に流されずに説得する。
「リリス様……連絡用魔法石の件は自滅憑依体の解決に直接関わるもの。
申し訳ないが、こちらを優先してほしい」
「そうだよね、リリス様。これはボクもハヤトが正しいと思うよ」
「そうですね……はい」
リリスは全ての事情を理解した上で、
少しだけ我儘を言ってみたかっただけのようだ。
言葉にして気が済んだのか、
それ以上固執せずにハヤトとアンヌさんの説得に応じてくれた。
見かけによらず身体を動かすのが好きみたいだから、
ダンジョン作りに参加したいという気持ちがあったのだろう。
俺の気持ちだけで言えば、
ダンジョン作りの方がやりたかったのなら、それでも良かったし、
そうやって少しでも我儘を言ってくれたのは嬉しかった。
けれど、リリス自身が納得したのだから、
これ以上余計な口出しはしないほうがいいかな、と思ったけど……。
――でも一言だけ。
「リリス……そっちが落ち着いたらダンジョン作るの手伝ってよ」
「はい!」
青い髪の神官さんがニコッと笑顔を見せてくれた。
◇ ◆ ◇
この場に残ったのは俺とナナミとクレア(ソニアさんも見ているかも)。
土木の責任者――改めて聞いた名前はグレッチさん。
建築の責任者――改めて聞いた名前はダクートさん。
で作業再開……の前に。
「おい、ユウキよぉ。本当に掘っていく方向がわかるのかよ」
「えぇ、ちょっとしたスキルがあるんです」
「そうなのか……」
グレッチさんが、俺の返事を聞いて真剣な顔で何かを考えている。
そのあとダクートさんと顔を見合わせて頷きあう。
「お前の能力はちょっとばかり目立つな。
その無限ドリルだけでもビックリさせられたってのにな。
だがよぉ、派手な能力持ちは余計な厄介事に巻き込まれやすいから、
知ってるやつをあんまり増やさねえほうがいいぞ。
さっきまでは若い奴らを呼んで手伝わせようと思っていたが、やめとくか」
「そうだな……。若い奴らだって、
ソニア様が認めている人間のことをベラベラ言い触らしたりはしねえだろうが、
それでも、その無限ドリルについて知る人間は少ない方がいいな」
「とりあえず、穴が掘り終るまでは俺とダクートだけでフォローするか。
ここまで綺麗な穴があくんだから、洞窟用魔法石を取り付けるのと、
あとは……足元を平らにするくらいか?」
ここでも、すでに『無限ドリル』が正式名称になってしまった。
アンヌさんが面白半分でやってた広報の結果だ。
名付け親はソニアさんだから、ある意味、箔付きの名前だからいいんだけど、
ちょっと大げさな気がして聞くたびに心に引っかかりを感じる。
まぁ、それはそれとして――
グレッチさんとダクートさんの提案はありがたい。
ハヤトには悪いが、あんな状況になるかもしれないと考えると、
やっぱり能力とかで目立つのは避けたい。
ドラワテの町ではそれに近い状況になりそうだったし。
だから二人には素直にお礼を言っておこう。
「気をつかってもらって、ありがとうございます」
「気にするなよ。――じゃあダクート、
道具やら洞窟用魔法石やら、いろいろと取りに戻ってくれるか」
「あぁ、任せろ」
「あぁ、ちょっと待ってください」
お願いしたいことがあったので、
すぐに動こうとしたダクートさんを呼び止める。
「ん……なんだ?」
で、その話をする前にひとつ確認。
「ナナミ……ナナミも手伝ってくれるかい?」
「手伝うデス!」
これから先のことを考えて、
穴掘りで何か手伝ってもらえるような仕事を覚えてくれると助かる。
ナナミが断るはずはないけど念のため。
元気に予想通りの返事をしてくれたので、
改めてダクートさんとグレッチさんにお願いする。
「すみません……、
出来たらこの子、ナナミに作業を手伝わせてやってもらえますか。
いろいろと教えてもらえると嬉しいんですけど」
「おう、嬢ちゃんは猫人族かい。それなら力は問題ないんだろうな」
「ナナミは力持ちデス! 手先も器用デス! 速く動けるデス!」
そこに全く嘘はない。
それどころかこの中の誰よりも身体能力は上だろう。
クレアを肩車したままでさえ。
「そうだな、猫人族なら納得か……。
仕事ができるかどうかは別だが、やらせる前から断れねえよな。
あぁ、わかった、しっかり手伝ってくれよ」
「はいデス!」
ナナミがネコミミをひょこひょこ動かしてニコニコと返事をする。
すると、そのネコミミの上からも自己主張の声がする。
「アタシも手伝う」
「クレア嬢ちゃんもかい……それはちょっとなぁ」
グレッチさんの眉間にしわが寄る。
洞窟村の人とクレアとの関係はちょっと微妙なので口をはさめない。
と突然、クレアの声の調子が変わる。
「よい、手伝わせろ」
「うぉっ! 今のは……、ソニア様ですか?」
「そうじゃ、気にするな。クレアの望むとおりにさせておけ」
「はい……仰せのままに」
あのグレッチさんが気をつけの姿勢で言葉遣いまで変える。
やっぱりこんな関係らしい。
◇ ◆ ◇
ダクートさんがクレアを肩車したままのナナミを連れて、
道具とか資材とかを取りに行ってくれた。
残ったグレッチさんが話しかけてくる。
「それにしても……その無限ドリルか。
穴を掘るのにかけちゃあ、これ以上ないってくらいにすげえ能力だなあ。
特にすげえのが残土がでないってところだ。
土木をするのに残土処理ってのはどうしたってついてまわるんだが、
それがきれいさっぱり消えちまうんだからな」
「えぇ、正直俺も驚いてるんですよ。
これを手に入れたのには、いろいろと経緯はあるんですけど」
「あぁ、そこら辺は話さなくてもいい。
必要なことだけ聞くから、それにだけ答えてくれりゃあいいさ。
もちろん誰にも言わねえから安心しな」
「ありがとうございます」
「あぁ、そうだ、もう一回確認なんだが……。
お前たちの拠点を作る場所に向かって穴を掘るんだよなぁ。
で、その位置が……いや方向か? わかっているんだな」
「はい、位置までわかります」
「そうすっと、土の中だってのに、
こっからどっちに向かって掘っていけばいいのかまでわかっちまうのか……、
そりゃまたすげえな。
で、そこを踏まえてだ。こことそこの高低差はどうだ?」
「……けっこうありますねえ。
そうか、トンネルの中で傾斜がきついと歩くのが大変ですかね」
「それもそうだが、それよりも荷物を運ぶのにつらいな。
拠点を作るのに洞窟村からも資材を運ぶってんなら、
多少道が長くなっても傾斜は緩い方がいい」
「そうですね。気がつきませんでした。
頭の中で直線で考えてましたよ。ありがとうございます。
左右に何回か曲がるように掘っていって、トンネルの距離を伸ばします」
「うむ」と満足そうに頷くグレッチさん。
やがてダクートさんが荷車を引いて戻ってきた。
ナナミはクレアを肩車したまま後方から荷台を押している。
その姿を見て、グレッチさんの助言が身に沁みて理解できた。
自分が登れるから良いとばかりに傾斜のきつい通路を掘ってしまって、
荷物を運んでくれる人に必要のない苦労を強いてしまうところだったのだ。
もしかしたら今の光景を見て、俺でも先に思い至ったかもしれない。
けれどもグレッチさんにとっては、
その必要のない、ごく当たり前に思い浮かぶ要件でしかなかった。
やはり本物の経験に勝るものはないと改めてそう思う。
――トンネルを掘り進める前に教えてもらえて本当に良かった。
荷台に載っていたのはスコップとかツルハシみたいな道具と、
木箱に大量に納まっている大きな釘みたいな部材。
その部材、よく見ると頭の部分に綺麗な黄色の石が嵌まっている。
これが自慢の洞窟用魔法石らしい。
ダクートさんが荷車の持ち手をゆっくりと地面に降ろして、
後ろを振り向き、ナナミに「嬢ちゃん、ありがとよ」と声をかける。
それからグレッチさんに向き直り、頭を掻きながらぼやき始めた。
「いやぁ、若い連中が付いてきたがるのを押さえるのが大変だったぜ。
ソニア様がらみの仕事だってうわさが、かなりの人間に広まっていやがった」
「あぁ、そこまでは仕方がねえか。で、よく大丈夫だったな」
「あぁ、正直に言うと俺じゃあ食い止められなかったんだが、
ソニア様が直接な、クレア嬢ちゃんの口から話をしてくれたんでな」
「それなら誰も文句は言えねえか」
「ただな、もしかしたら……、
これから藁人形の数が二倍になるかもしれねぇ」
ダクートさんの視線が一瞬だけこっちに向いた気がする。
「そうなのか……」
グレッチさんが顔をしかめて力なく呟いた。
やはりチラッと俺の方を見たような……。
藁人形と云えば――
ハヤトへの憂さ晴らしに使われている無害なアイテムのはずなんだけど、
何故それが二倍になるのだろう。
ソニアさんはいったいどんな説明を洞窟村の人達にしたんだろう。
あんまり考えたくはないけれど――
それって……俺の分?
第41話、お読みいただき有り難うございます。
次回――拠点予定地への通路も完成、いよいよダンジョン試作に着手か?
更新は8月4日を予定しています。




