表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/67

第40話:洞窟村で(2)

 ハヤトが取り出した渡り大ツバメの魔石。


 トネルドさんはそれが何なのか一目でわかったようで、

 その驚きからか、身体の動きをピタッと止めてポカンと口を開ける。

 たぶん目も丸くしていたと思うけど、そっちはあの眼鏡が邪魔で見えなかった。


 とりあえず手に入れた経緯を簡単に説明。


 トネルドさんは「それは狙いすましたような幸運だねぇ」と、

 身体を背もたれに預けながら、いたく感心した様子を見せる。

 それから一拍置いて「うん」と納得したように頷いて、

 こちらの依頼――連絡用魔法石の製作を快諾してくれたのだった。


「そういえば……作ってもらう連絡用魔法石って双方向で使えるんですか?」


「あぁ、それは可能だね。ハヤト……そうした方がいいかい?」


「そうか……送信用と受信用だと思い込んでいた。オレらしくもない。

 当然、双方向の方が都合がいいのだが……出来上がりの数が減るのは困る」


「大丈夫だよ、数は変わらない。一応百組が目安だね。

 どちらからでも念じれば、対になっている方が光り出す。

 そんな機能でいいかい?」


「では、それで頼む」


 ということで、モールス信号とまではいかないが、

 別途、光らせ方で簡単な情報交換をする通信規則を作ろうという話になった。


 ちなみに、この魔法石が異世界に通信革命を起こす……、

 なんてことになるのかもしれないけれど、それはまた別の話。

 いまは自滅憑依体っていう人類の危機に対抗するための、

 ひとつの手段が手に入ったことを喜ぶべきだろうし……。


「ではこれで、この地にお主たちの拠点を作るという話……決定じゃな」


 と、俺の頭の上からソニアさんの声。

 忘れるはずもないけれど、この件はそっちの話の大前提。


 トネルドさんが首をかしげる中、

 俺たちのパーティ『勇敢な瞳』の全員が頷いたのだった。



 ◇ ◆ ◇ 



 というわけで、さっそく次の行動に移る。

 まず決めるのは、拠点を何処に作るか……だ。


 とりあえずトネルドさんにも説明して、そのあとの話にも参加してもらった。

 この人は洞窟村の最初の住人で、今も運営に携わる役員のひとりでもある。

 ソニアさんの支配地に暮らすのなら、話を通しておいた方が良い人物なのだ。


 で、近辺の地図(トネルドさん所有)を眺めた結果――

 ソニアさんの館がある窪地と南にあるミバクの町のおよそ中間地点、

 洞窟村からは南西の位置にある平原、まずはそこを候補地に決めた。


 ちなみに洞窟村の中に拠点を作るという考えは最初から選択肢にない。

 それはもちろん竜騎士二人の竜の居場所に適さないからだ。


 あとは拠点の場所が決まった場合、

 洞窟村からそこに行くための道をどうするか――なのだけれど、

 ソニアさんから「練習にちょうど良いじゃろ」と、

 無限ドリルで新しく通路を掘れという提案というか、命令というか。


 まぁ、ちょっと不安もあるけれど、いつかは通る道、いや……掘るトンネル?

 なんにせよ好意から出た話なんだからと、腹を決めて「やります」と答えた。


 ついでに無限ドリルの話もトネルドさんに説明した。

 通路を掘る時に見せることにもなるし、

 いずれダンジョンを作る時にもお世話になるような気がするし。


 そのあとは拠点候補地を実際に見てみようと、

 トネルドさんをその場に残し、ミリアさんと一緒に洞窟村から出る。

 来た方向とは反対のミバクの町方面に進み、洞穴出口で竜騎士二人の竜を呼ぶ。


 空中で(ミリアさんは自前の翼で)周辺の地形と、

 ミバクの町の位置を確認してから、全員で拠点候補にした場所に降り立つ。


 周辺は鬱蒼と生い茂る森に囲まれて、北側は傾斜のきつい山だけれど、

 その場所だけは広々とした草原だった。


 野良魔物の空白地帯なので、簡単な結界を作れば人が住むのに問題ないらしい。

 念のためナナミの索敵能力で付近を探ったが「魔物はいないデス」との返事。


 さらにスキル【空間把握】で全ての位置関係が俺の頭の中に描かれる。

 そこに洞窟村とこの場所との最短経路になる通路を重ねてみる。

 開通した場合、ちょっとした散歩程度で洞窟村と行き来できる距離だった。


 それを説明すると、ハヤトが皆に「ここでいいか?」と問い掛けて全員が賛同。

 ソニアさんも「良いぞ」とクレアの口から承認してくれた。


 こうして、この地がめでたく『拠点予定地』になったのである。


 とまあ、そんな感じでとんとん拍子で話が進んで――



 ◇ ◆ ◇



 さっきも通った洞窟村からミバクの町方面に向かう洞穴というかトンネル。

 その途中、新しく作ろうとしている通路の分岐地点になる場所。


 無断で掘り始める訳にはいかないので、

 洞窟村の役員――壮年の男性やお年を召された男性――計八人、

 トネルドさんから説明をしてもらって、ここに集まってもらった。


「なんだ? この若造がここから西へ抜ける道を掘るって?

 いったい何年がかりでやるつもりだ?」


「ソニア様の許しがあるようだから、ダメだとは言わねぇが、

 後で泣きつかれても手伝ったりはしねえぞ」


 そのうちの二人なんだけど――

 俺がハヤトの関係者だからか、見た目が貧弱だからか、

 建築の責任者の人と土木工事の責任者の人が不機嫌な顔を隠そうともしない。


 あの洞窟村を広げたり中に建物を作ったりした人たちなのだろうから、

 プライドを持っているのも当然だし、俺だってそれについては敬意を払いたい。


 だからといって今みたいな難癖をつけられても困る。

 そこまで言われるほど自分の能力が足らないとは思いたくないけど、

 ほとんどぶっつけ本番みたいな状況なので、彼らの言葉に反論する根拠がない。


 仕方がないので――

 不機嫌な顔にならないように「……はい」と返事をする。


「残土だって、ここから運び出すのは大変なんだぞ。

 そういうのをちゃんと考えてんのかよ」


 そういえば掘った後に出る土砂を残土っていうんだっけ。

 それは無限ドリルの能力で消えてしまうはず。


「おいおい、こっから掘っていって、何処に辿り着くかわかってるんだろうな。

 むやみやたらと掘られても困るんだがな。遊びじゃねえんだからよ」


 ――うーむ……。


 こんな状況で無限ドリルの能力を見せないといけないのか。

 最初だから余計な雑念は持ちたくないのに。

 自分の限界とか無限ドリルの欠点とか確認しながらやりたいのに。


 失敗なんかしたら、そら見たことかと言われるだろうし、

 逆に、無限ドリルの物凄い能力のせいで、

 力をひけらかしているみたいに思われるのも本意じゃないし……。


 今の状況に仲間たちも不機嫌な顔をしているけど、何も言わずに見守っている。

 俺の能力を信じてくれているからだ。


 それならば――

 その気持ちに応えねばなるまいと気持ちを切り替える。

 とりあえず外野のヤジは聞き流して、作業に取り掛かろう。

 俺の能力に問題がなければ、見る目を変えてくれるかもしれないし。


 トンネルの壁に向かって、無限ドリルに魔力を通す。

 全長が「ブンッ」と伸びて、刃先が傘のように「ブワッ」と広がる。

 ここは洞窟の中、スキル【地中適応】の効果は全開。能力上昇はMAX。


 俺のやる気を見て、ワクワク顔になったナナミの視線が眩しい。


 さらに無限ドリルに魔力を通す。高速に回転を始める傘の刃。

 そこからゆっくりと歩を進める。一歩、一歩、……と。


 やがて傘の石突にあたる部分が通路の壁に接触。


 両手に加わる圧力が増加するが、足を前に出す速さを緩めるほどではない。

 そのまま前進。普通に歩くよりも半分以下の速度。

 ほとんど負担なく俺の身長を超える穴が掘削されていく。


 前方の状況を【空間把握レベル2】で探ってみると、

 微量の小さな砂粒がパラパラとこぼれる以外は、

 本来残るはずの土砂がきれいさっぱり消えてなくなっている。


 ゆっくりと十歩ほど進む。


 そこで一旦無限ドリルの回転を止め傘を閉じ、状況を確認する。

 歩みを進めた分だけ見事に掘削していて、その中にいる自分。

 掘り進めるのに今のところ大きな問題は見当たらない。


 ――大丈夫みたいだな。


 ホッと安堵のため息をつく。


 出来上がった穴の壁面は、

 滑らかとまでは言えないが、そのまま壁として利用できそうだ。

 ただし形状が真円なので、通路に使うなら足元を平らにする工程が必要だろう。


 そんなことを考えながら、一旦自分が掘った穴の外に出ると――

 建築と土木の責任者の人が、出来上がった穴と俺の顔を交互に見ていた。

 顔面蒼白で目を丸くして、開いた口が塞がらない、そんな表情で。

 やはり驚かせてしまったようだ。そんな気がしていた。


 ――本当は俺もびっくりなんだけどね。


 自分がやったことだとはとても思えないんだけどね。

 ただ単に、常識外れな状況を受け入れるのに慣れただけなんだよね。

 それでもやっぱり手のひらは汗でびっしょりなんだけどね。


 そんな感じで少し自嘲気味に考えていると……ハヤトの冷静な声。


「通路に使うから、もう少し大きめに掘った方がいいんじゃないか」


 クレアを肩車したまま身体の前で大きく円を描くように両手をまわして、

 こうやって掘り進めろ、と真面目な顔で指示をしてくる。

 親友はもう常識外れを常識外れとさえ感じなくなっているようだ。


 他の仲間たちはというと……、

 ナナミが「やっぱりすごいデス」と瞳を輝かせているのはいつも通りだけど、

 リリスまでがキラキラと輝く瞳で俺を見ている。


 一方でアンヌさんは「あの武器は無限ドリルっていうんだよ」と、

 少し離れた場所で目を丸くしている他の役員への広報に忙しい。


 そこにハヤトの頭の上でクレアの口が動く。

 と思ったらソニアさんの声だった。


「どうじゃ、疲れとかは感じないか?」


 無限ドリルは桁外れの武器――

 使用による疲労を心配して声をかけてくれた。ありがたいことだ。


「いえ……大丈夫そうですね。

 でも今日は初めてなんで、無理をしないようにします」


「それがいいじゃろ」


 会話の中に出てきた「今日は初めて」の言葉にビクッとする建築と土木の人。

 いや、別に「初めてでこれだぜ」って自慢したかったわけじゃないよ。


 まあ、いい。しばらくこのまま掘っていって、

 ある程度進んで問題なさそうなら解散してもらおう。

 そんな風に考えて作業を再開しようした時――突然。


 ぱぁーん!  ぱぁーん! と音が鳴る。


 何事かと見ると、建築の人と土木の人が自分の頬を手の平で叩いていた。

 両頬に赤く手の形をした跡が付いている。

 それから俺に近づいて、二人並んでガバッと頭を下げてくる。


「すまねえ……さっきは馬鹿にしてすまなかった。謝罪させてくれ」

「理由もないのにお前を見くびってしまった。申し訳ない」


 白髪交じりの厳つい身体をした男二人に直角に頭を下げられてしまい、

 一瞬戸惑ったけれど、こう素直に謝ってもらえれば悪い気はしない。


「いえ……気にしてないですよ。練習がてら通路を掘れって、

 ソニアさんから言われて、こうしているだけで……素人と変わりないですから。

 だから、何かおかしな所とかあったら教えて欲しいんですけど」


「あぁ、わかった。何でも教えてやる」


「よろしくお願いします」


「あぁ、そうだ、最初にひとつ――ここの土地の場合は特になんだが……、

 穴掘りをする時に知っておかなきゃならない大事な話がある。

 初めてというのなら確認するが……それは知っているか?」


「いえ……知りません」


 土木の人がにやっと笑う。

 ただそこに蔑みの感情は無く、ただ単にこの人の普通の笑い方らしい。


「いや、恥ずかしがることはねぇ。最初は誰でも知らねえからな。

 ちゃんと教えてやるから、しっかりと聞いておけ」


 こうしてパッと気持ちを切り替えて、

 わだかまりなく話をしてくれるのはありがたかった。

 最初の態度のままでも困るし、頭を下げられたままでも心苦しいから。

 俺が「はい」と頷くと、「うむ」と頷き返してくれた。


「それはな――穴を掘るとどんどんと魔素が噴き出してきて、

 放っておくと、それが集まって魔物になっちまうんだ」


 驚きの事実……。

 ってことは穴を掘るだけで勝手に魔物は発生するってことか。


 それって……ダンジョンを穴掘りから始めるのなら、

 最初に考えておかなきゃならない最重要の前提条件じゃないのか。


「魔物は……そうやって生まれるんですか?」


 そう土木の人に訊いてから、

 チラッとハヤトに視線を向けると軽く頷いて説明してくれた。


「魔物は自然界にある魔素という謎物質が集まって生まれる。

 それは、知っている奴は知っている程度の知識だが……、

 地面や山を掘ると魔素が噴き出てくるというのは俺も知らなかったな。

 だが……ダンジョンでなくても洞窟には魔物が多いというのはよく聞く話だ」


 ハヤトもここまでの事実は初めて聞いたらしい。

 土木の人の話はまだ続きがあった。


「そうだ。――で、まぁ、そのために編み出された手段ってやつが

 魔素を吸収して別の用途に使う、そんな機能を持つ魔法石を設置する方法だ。

 魔素の濃度を減らして魔物の発生を抑止する。

 さらに魔素のエネルギーも利用するっていう一石二鳥のやり方だな」


 いかつい顔でウインクをされたが、

 それが気にならないほど、話の内容に心を奪われていた。


「山や地面に穴を掘るには欠かせない、建築土木に携わる者の間じゃあ常識だ。

 洞窟村にあるあの太陽代わりのでかい魔法石もそのひとつ。

 ここら辺のソニア様の管理地は魔素の湧き出る量が半端ねぇから、

 あれだけの光と熱量を補って、まだほかにも色々と利用できるほどだ」


 ――魔素が多いのなら……。


 自作ダンジョンの中にどうやって魔物を出現させるかは、

 これから考えようとしていた課題だったけれど、

 さっそく解決してしまったのかもしれない。


 土木の人がググッと前のめりになってさらに話を続ける。


「で、ここらの通路に使っているのが……ちょっと自慢の魔法石なんだ」


 俺も負けじとグググッと前のめりになって続きを促す。

 お互いの額がくっつきそうだ。


「それを教えてくれるんですか」


「あぁ、詫びと凄い能力を見せてくれた礼だ。

 いま作る通路分くらいは餞別でくれてやる。

 で、その魔法石ってのはそこで光っている奴なんだが、

 機能はそれだけじゃあねえ」


 トンネルの上部左右一列ずつ設置されている輝く魔法石を目で示す。


「機能は三つ。ひとつは灯りなのは見ての通り。

 もうひとつが空調。呼吸に困らないように空気を循環させているんだ」


 ――確かにそれは重要だ。


 俺が真剣に聞いているのがわかったのか、さらに気合を入れて話してくれる。


「そして、残るひとつが――

 周辺の壁が崩落しないように形状を固定する。

 何かの理由で崩れたとしても多少の欠落なら自己修復もする!」


 土木の人がキラッと瞳を輝かせる。


「おおっ!」と思わず声が出る。


「光魔法、風魔法、土魔法の三種類の機能を持った洞窟専用の魔法石だぜ。

 これを適度な間隔で埋め込むだけで、

 洞窟の保守が格段に楽になるって優れものだ。どうだ、驚け!」


 それは凄い。良い話を聞いた。

 確実に自作ダンジョンにも使える便利機能だ。

 いま俺は満面の笑みを浮かべているだろう。

 瞳もキラッと輝いたかもしれない。


 俺が心の底から感動しているのを見て、土木の人もさらに笑みを深める。


「この魔法石のすばらしさ、わかってくれるか。

 そうだよな、これだけの穴を掘れる人間だ。通じ合えないはずがねぇ。

 今日から俺とおまえは同志だ!」


「はいっ!」


 固い握手を交わす。そこに建築の人も近づいてきて手を重ねる。

 三人の間に年の差を超えた熱い友情が芽生えた瞬間だった。


「それを作ったのは僕なんだけどねぇ……」とトネルドさん。


 他の人達は俺たちの盛り上がりに付いていけなくなって、

 呆れた表情で遠巻きに見ているだけだった。



 第40話、お読みいただき有り難うございます。


 次回は「洞窟村で(3)」仲間たちがそれぞれ行動開始します。

 更新は7月28日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇  ◆  ◇

【小説家になろう 勝手にランキング】

上記リンクは外部ランキングサイト「小説家になろう 勝手にランキング」様へのリンクです。
一日一度クリックしていただけますと【本作への投票】になりますので、ご協力をお願い致します。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ