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第03話:美女との遭遇

 全く気付かなかった。

 いつの間にか近くにいたのは、一度見たら忘れられないほどの美女。

 背中まである長い黒髪と整った顔立ち。黒い革のドレスを着ている。


 欠点があるとすれば肌が薄紫色なので、一目で人間じゃないとわかること。

 いや、もしかしたらこの世界の人間は肌が薄紫色なのか。

 いずれにせよ、この世界の初めての人間(?)だ。


 ハヤトも彼女の存在に気付かなかったらしく、驚いた顔で女性を見ている。

 だが、この女性の言葉からすると知り合いのようだが……。


「ミリアか――、今は世界の存亡について、重要な話の最中だ。邪魔をするな」

「世界の存亡ですか。ちなみに御館様の怒りでも、この世界は滅亡するのですが」

「……あぁ、そうだな」


「知り合いか」二人の不穏な会話に口をはさむ。


「そうだ、――すまないユウキ。

 この世界で真面目にやってきたのだが、どうも厄介事に巻き込まれやすくてな。

 そのひとつが、このミリアのあるじなんだ」


「ハヤト様。こうして私と会ってしまいましたので、御館様には知られています。

 すぐに行かないと、本当に世界が終わるかもしれません」


 世界の終わりを容易く口にする彼女の青い瞳からは、何の感情も読み取れない。

 ハヤトを静かに見つめている。


 二人の会話から想像すると――、

 この美女のあるじがハヤトと会いたがっている。

 そして、その人物は世界を破壊できるほどの能力の持ち主。

 主の命令でハヤトを探していた美女。ようやく見つけてここに現れた……。

 そんな感じか?


「あぁ、わかった、わかった……、

 ユウキ、聞いての通り、別の用件で世界の危機だ。

 こっちの件が片づいたらすぐに戻って来る。

 それまで、ここから北に――北は向こうだ――しばらく行くと町がある。

 そこで待っていてくれ」


「それはいいいけど、ハヤトは大丈夫なのか」

「オレの方は心配ない。それとこれを渡しておく」


 表面に文字のような記号がびっしりと書かれた指輪。


「何かの魔法の指輪か」


「そうだ、翻訳魔法が付与されている。

 相手の言葉を理解でき、こちらの言葉が相手に伝わるようになる。

 この世界の言葉は当然日本語じゃないからな」


「……しかし、彼女の言葉は日本語だったじゃないか」


 今更ながら思い出す。ここは異世界。言葉が通じるはずがない。

 それにもかかわらず、ハヤトがミリアと呼ぶ女性の言葉は普通に理解できた。

 彼女のなまめかしい赤い唇から発せられた言葉。

 疑問にも思わなかったが、おかしな話だ。


「ミリアは特別だ。彼女は言語に関係なく、会話ができる能力を持っている」


「ハヤト様、急がないと――、

 御館様のイライラが私を経由して、周辺一帯を火の海にしてしまいそうです。

 そうなればその少年の命の保証が出来かねます」


「わかった。――ユウキ、用件が終わり次第すぐに行くからな、待っていてくれ」


 そう言って、ハヤトは乗って来た竜に急いでまたがり、再び空を飛んでいった。

 その姿に向かって、大声で告げたお礼の言葉も届いたかどうかわからない。

 そしてミリアも――背中の翼を広げて――空に舞い上がっていった。


 ――やっぱり人間じゃねぇ……。



 ◇ ◆ ◇



 あまりに急な展開に暫し放心していたが、ふと我に返り、

「だめだな。ここでぼーっと立っていてもどうにもならない」

 と声に出す。独り言でしかないが気を取り直すには十分だった。

 

 荷物を背負って、ハヤトの指した方角に向かって歩き出す。

 今進んでいる森はそういう植生なのか、下草が少なく歩きやすかった。

 重い荷物を背負っていても、さほど疲労を感じずに歩き続ける。


 ――それにしてもハヤト、忙しい奴だな。


 俺にとっては一時間ぶりだったけれど――、

 あいつにとって五年ぶりの再会だと言うのに十分も話せなかった。


 それに、あのミリアっていう美女。いったいどういう関係なんだろう。

 こっちの世界でもモテているのだろうか。

 もしかしたら――あの美女の言ってた御館様ってのも女性なんじゃないか。

 待ちわびてる、なんて言ってたし。


 ……羨ましくなんかないぞ。


 それはともかく……、

 気がかりなのは、あの「自滅憑依体」という存在。

 俺の能力が役に立つと言っていたが……、どうすれば良いのか想像もつかない。

 ただハヤトが、俺にならできる、と言っているのだ。

 それならばそのまま信じてもいいか――今はそんな程度に考えている。


 続きはまたハヤトに会えたらで良い。


 それよりも……、ようやく実感がわいてきた。

 俺は異世界に来た。ここには望んだダンジョンがある。

 心に湧き上がるワクワクを止められない。

 魔法もあるし、スキルもあるらしい。極めれば俺のこの手でダンジョンを……。


 高揚感で森の中を進む足取りが軽い。


 そのまま小一時間。

 途中で携帯食料を口にしながら歩いていると、やがて森の終わりが見え始めた。


 そのまま進み、森の先に開けた草原が見えたころ――、

 俺の眼が何かの存在を知らせる。それは「大切な存在」らしい。


 急いで、その場所まで歩みを進める。

 すぐにわかった。

 少女が倒れていた。小さな身体。見た目十歳くらいだろうか。

 身に着けているのは、ワンピースというか貫頭衣というか簡素な服。


 近くまで駆け寄り、まずは息があるのかを確認する。

 うつ伏せに倒れている少女の胸の上下運動ははっきりとわからない。

 仕方がないので横を向いている少女の口元に耳を寄せる。


 聞こえてくる呼吸音。――どうやら生きているようだ。


 少女の顔色が悪いとも思えないし、呼吸も規則正しい。

 寝ているだけのようにも見える。

 俺はようやく少女の顔を冷静に見られるほどの余裕を取り戻した。


 が、それは新たな驚きをもたらした。


 髪の毛の色がピンクなのは――この際、良いとしよう。

 それよりも……少女の頭に耳がある。

 あぁ、そうだ、この形状。ピッタリの呼び方がある。

 それは――ネコミミ。

 時々ピクピクしている。作り物には見えない。


 そうだな、ここは異世界だものな。

 無理やり、そう考えて自分を納得させる。

 しかし、この世界に来て出会った相手――、 

 一人目が薄紫色の肌で背中に翼、二人目がピンク色の髪の毛でネコミミ。


 もしかして……、俺とハヤトの姿はこの世界では異質なのか。

 ……そうだとしても、受け入れるしかない。


 とりとめもなく考えていると目が合った。

 意識のなかった少女が目覚めていて、俺を凝視している。


「だ、大丈夫かい」


 とっさに出てきた月並みなセリフ。

 ネコミミ少女はビクッと反応して、大きな眼をさらに大きく見開く。



 第三話、お読みいただき有り難うございます。


※『自作ダンジョンで最終ボスやってます!【動く挿絵付き】』

 好評連載中です。こちらもよろしくお願いいたします。

 http://ncode.syosetu.com/n3332cv/


※11月4日 後書き欄を修正

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