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第24話:世界が見える

「空間把握……?」


 俺のつぶやきを聞いて同じ言葉を繰り返すハヤト。

 すでに全員がこの場に集まっている。

 皆の視線を背中に感じながら目の前にある技能結晶に手を伸ばす。

 指に触れる微かな感触。スキルを吸収する。


 ――そして世界がひらけた。


「うおぅ……」


 思わず変な声が出る。

 ハヤトの「ユウキ……どうした?」の声に返事もできない。


 スキル【空間把握】――それは……、

 少し語弊があるが一番近い単語で説明すると……「マップ機能」だ。

 情報量的には線画の三次元マップ。いまそれが突如頭の中に出現した。


 岩石砂漠の今いる場所からダンジョンの入口、泊まっている宿屋、

 さらにこの世界に来た時一番最初に放り出されたあの湖。

 そういった場所の立体的な配置が把握できる。

 ここダンジョンの中に居ながらにして方向が指し示せる。距離の比較もできる。


 ただし「何があったか」とか「どんな外観だったか」は普通に記憶頼りだ。

 町の通りの伸びる方向や利用した建物はわかるが、

 何もせず素通りした建物が何の店なのかはわからないといった感じ。

 そういう感じの三次元マップ。


 いきなり頭の中に多量の情報が流れ込んできて慣れるのに時間がかかる。

 少しばかり眩暈を感じて顔は上げられない――が、

 皆に心配をかけたくは無いので、そのままの姿勢で説明する。


「新しいスキルが手に入った。スキルの名前は【空間把握】――

 ハヤト……マップ機能みたいなやつだ。ここが何処だかはっきりわかる」


 ハヤトなら、その単語でほぼ理解してくれるだろうと考えての説明。


「それはダンジョンの中の話か? それとも……」


「あの湖から今この場所までのマップだ……」


 そう答えている内に感覚に慣れてきた。

 意識しないようにすれば、頭に浮かぶ情報が薄れていく。

 逆に「宿屋の場所は?」とか意識すると浮かび上がってくる。

 使い方がわかってきた。眩暈もおさまった。

 顔を上げて心配そうに見守る仲間に笑顔を向ける。


「あぁ、少し頭がクラクラしたがもう大丈夫だ。

 これは便利なスキルだな。もう道に迷うことは無いよ」


「どんな感じなんだ?」


「この世界で行ったことのある場所……それがここを中心に頭の中に浮かぶんだ。

 方向、距離、そこまでの道順もわかる。

 例えばあっちがダンジョンの入口で、泊まっている宿屋はこっちだな」


 その方向――斜め上を指差す。

 仲間がその方向に視線を向けるが、

 見えるのは疑似的な青空のあるダンジョンの天井。何の目印もない。


 ただ、どうやらその説明と空間把握というスキル名で、

 ハヤトとアンヌさん、そしてリリスは何となく程度の理解はしてくれたようだ。

 ナナミは首をかしげてまだ青空を見ている。


 それからスキルの効果で意外な事実も知ったので、

 皆の理解の助けになればと思い、追加説明をする。


「今指した方向を少し考えてもらえばわかるんだが……、

 この岩石砂漠エリアは、地下六階の結界扉から転移して別の場所にあるようだ」


「そうなのか!?」


「あぁ、といってもそう離れているわけじゃない。

 五階層の真下じゃなくて、二階層から五階層の南側にあるようだ。

 真上はちょうどドラワテの町になる」


「そうか、そこまではっきりわかるのか……。

 下った階段と階層の天井の高さに食い違いがあるから、

 何かがあると考えていたが……」


「なんだか世界の見え方が変わってしまったよ。

 ただ……もちろん行ったことがない場所は解らないし、

 このダンジョンみたいにマップが市販されているようだと、

 あまり役には立たないのは残念だな……」


「いや、そんなことはない。

 現にこの六階層みたいに迷路状じゃない階層の地図は省略されている。

 ユウキの頭の中には高低差も含めて頭の中に描かれるんだろう?

 この世界の測量技術じゃ不可能だぞ」


「確かにそうだ。うん、そう云われればそうか。

 まぁ、それに――役に立つ立たないなんて関係なく……、

 なんだか浮き浮きした気分だってのが正直な感想だ。

 ゲームでもマップを手に入れると……なんだかんだで幸せな気持ちになるしな」


 口元に笑みが浮かぶのを止められない。

 ハヤトも俺の説明に共感してくれて「そうだよな」と笑顔になっている。

 と、まあそうしている内に、

 スキル【空間把握】についての驚きもようやくおさまる。


「そういえば……

 このスキルを残してくれた鳥みたいな魔物は希少魔物だったのか?」


「その通り。名前は渡り大ツバメ。オレも実物を見たのは初めてだ。

 ダンジョンの中にもかかわらず、一年のある時期だけ何処からか渡って来る。

 年に数回ほど目撃されるだけの珍しい魔物だ。退治されるのは数年に一度。

 魔石は超貴重品として、

 このレベルでのダンジョンでは考えられない程の高値で取引される」


「ボクがしっかり確保してあるよ。

 本当ならこっちの方が大騒ぎになるくらいだよね」とアンヌさん。


「渡り大ツバメ……渡り鳥の能力で【空間把握】か……。

 運も良かったってのもあるけど……、

 クレアがいなければ手に入らなかったんだよな。ありがとうクレア」


 肩に乗っているクレアの太ももを撫でながらお礼を言っていると、

 リリスが「【空間把握】能力……」と呟いているのが聞こえる。


「ユウキ様……、ワタシ、教会の文献で読んだことがあります。

 スキル【空間把握】は空間魔法を会得した者が同時に身に付ける能力だと……」


 リリスの話にハヤトが「なるほど……」と頷く。


「確かに――空間転移するには、

 移動位置の正確な把握が必要だというのは理屈に合うな」


「ユウキ様の願い……神の頂に行くための空間魔法。

 これはそのための第一歩なのだと思いますわ!」


 力強くリリスが断言する。

 ナナミも「そうデス! そうデス!」と喜んでいる……が、

 さっきまで首をかしげていたので意味が解っていないような気もする。

 とりあえずナナミへの詳しい説明は後にしよう。

 それよりもリリスの話だ。


「もし、そうだとすれば……」


 スキルを会得するには「きっかけ」が必要。

 最初にハヤトに教わったスキルを手にする方法だ。

 リリスの言う通り、

 この【空間把握】の延長線上に空間魔法があるのかもしれない。


 この世界に来て三日目、ダンジョン探索がたったの二日目だというのに……

 早くも目の前に道が開けた気がする。


 なんだか凄く嬉しくなって、

 クレアにもう一度しっかりとお礼を言いたくなった。

 肩車したままだと顔が見えないので、

 クレアの身体を持ち上げて正面に持ってきて、くるっと裏返して正面を向ける。


「本当にありがとう! クレア!」


 抱きしめそうになったけれど、それはさすがに自重した。

 成すがままに俺の正面で身体を持ち上げられているクレア。

 顔を真っ赤にして「うん……」と返事をしてくれたので、

 満足してまた裏返して肩車の体勢に戻した。


 一気にやる気が起きたので元気よく皆に言う。

 今は立ち止まっていないで先に進みたい。


「よーし! ダンジョン攻略を続けよう!」


 仲間達が笑顔で応えてくれた。



 ◇ ◆ ◇



 その後の攻略は、

 スキル【空間把握】が役に立った場面はなかったが……ほぼ順調に進んだ。


 この階層――洞穴以外――で出現した魔物。

 羽白カラスと上層で現れた灰色オオカミの他には……、

 紫ダチョウと風コンドル。

 どの魔物が相手の時でも、必ず羽白カラスがあとから現れて乱戦になる。


 紫ダチョウは――

 手を上にあげてようやく頭に届くくらいの背の高い魔物。

 空は飛ばないが足が速い。通常攻撃はクチバシ攻撃と強烈な蹴り。

 特殊攻撃はレベルの低い相手にスタン効果のある甲高い鳴き声。


 そのスタン攻撃……影響を受けたのは俺だけだった。


 まぁ、俺が硬直したからといっても、

 肩車しているクレアには影響はないので戦力がダウンするわけじゃない。


 そして……飛ばない相手ならナナミやリリスの敵じゃない。

 身長差がどれだけあっても何のハンデにもならない。

 クレアが羽白カラスを翻弄している内に紫ダチョウを倒してしまう。

 一応トドメは俺の役目。


 ということで紫ダチョウは容易い相手だったけど――

 問題は風コンドルのほう。


 他の魔物を引き連れて現れるこの階層の中ボス的な存在。

 大きさが紫ダチョウと同じくらいで、さらにそれに見合う翼を持っている。

 それほどの巨体でありながら空中から襲ってくる鳥型魔物だ。


 これだけでも相当な脅威だというのに本格的に魔法まで使ってくる。

 風魔法に分類される真空刃攻撃。

 クレアの使う【風の刃】は単体攻撃だが、こっちは範囲攻撃だ。

 もうひとつのクレアの魔法【旋風】で威力が軽減するのが幸いだった。

 

 それでも空中戦を得意ではないナナミが決定打が放てず苦戦する。

 とりあえずリリスとクレアが抑えている間、先に他の魔物を退治するナナミ。


 相性のせいもあるがこのパーティで初めて苦戦する相手になった。

 様子を窺っていたアンヌさんが「ボクの出番かな!?」と言ってきたけど、

 ナナミとリリス、さらにクレアにまで却下されてしょげていた。


 まだまだアンヌさんの力は借りる必要はないと、

 三人が力を合わせてどうにかこうにか風コンドルを地面に落とす。

 トドメはもちろん俺。


 ただ、その後何回か相手にして戦法が決まってしまえば、

 元よりこちらに地力があるので、その後は苦労することもなくなった。


 そんな感じで岩石砂漠――疑似太陽の下での戦闘は続いた。


 この階層にはもうひとつの戦場――洞穴がある。

 現れたのは吸血蝶とお馴染み大コウモリと大ネズミ。

 そして――猛毒蜂。


 猛毒蜂は名前の通り猛毒を持った針で攻撃してきた。

 俺の場合、スキル【毒耐性】で無効化できたのだけれど、

 針自体の攻撃力も高く全く油断できない相手だった。


 猛毒蜂の毒針攻撃はナナミもリリスも注意が必要だったが、

 所詮接近しなくては使えない攻撃。ナナミの素早さに勝てるはずもない。


 一方、吸血蝶は――

 ナナミには相手をさせられないし、そしてリリスにも不安が残る。

 ということで、こっちは俺とクレアのペアで相手をする。


 クレアの【旋風】が眠り攻撃の鱗粉を吹き飛ばすのに有効というだけでなく、

 本体自体が軽く吹き飛びやすいため、他の敵から分断するのにも好都合。

 吸血蝶だけを集団から引き離して残りがナナミとリリスの相手。


 必勝パターンが出来て戦闘に不安がない。


 けれども……とにかくこの階層は敵が集団で襲ってくるので、

 一戦一戦、時間がかかってしまうのは避けられなかった。


 そして辿り着いた階層ボス部屋。

 寄り道を少なくしたので、日没にはまだ少し時間がある。

 といっても天井に見える太陽はそのままで傾いたりはしなかった。

 天候も変化しないとハヤトが教えてくれた。


 階層ボス――ロック鳥。

 風コンドルの上位魔物。身体もあの巨体からさらにひと回り大きい。

 特殊攻撃は風コンドルと紫ダチョウの持つ真空刃攻撃とスタン効果の鳴き声。

 如何にも階層ボスらしい。

 スペック的には難敵の筈だが、お供の魔物が現れなかったので、

 風コンドルとの経験で慣れていた仲間達の敵ではなかった。


 ひとりだけ俺がスタン攻撃で動けなくなっている内に、

 地面に落ちたロック鳥が用意されて最後のトドメを刺したのであった。


 技能結晶は無かったけれど、今日はもう【空間把握】という成果がある。

 これ以上望んでは罰が当たる。


 そして宝箱からは出てきたものは……、

「ユウキには見せないデス!」とナナミに隠されてしまった。

 他の仲間もそれが当然という顔をしている。


 ――それって……炎の魔法石なんだね。


 午前中に起こったガウスの襲撃事件を思い出した。

 でも【熱耐性】がある俺には便利なアイテムなんだけどなぁ……と、

 内心で思ってはいたが――口に出すのはやめておいた。


 という感じで、第六階層の攻略が終了。


 だが……一日が終わった訳じゃない。

 今日はこれからもうひとつ重大な事件が起きるのである。

 


 ◇ ◆ ◇



 外に出たらまだ少しだけ陽の光が残っていた。

 探索組合に顔を出す。


「おぉー! 渡り大ツバメの魔石じゃないですか! 三年ぶりです。

 どうします。いまからでも依頼達成扱いにできますが……?」


 魔石換金所のメガネの男の人が興奮している。

 渡り大ツバメの魔石は幾つもの入手依頼があって、

 依頼達成すれば普通に換金するよりも多くの報奨金が貰えるらしい。


 そこに突然声をかけられる。


「渡り大ツバメの魔石が出たというのは本当か?」


 声の主は恰幅の良い体型で豪華な服を着た中年の男。

 隣りにいるもう一人は痩せた男で中年男の従者といった感じ。


 二人の視線はハヤトに向いている。


 こちらのリーダーがハヤトだと思っているようだけど、

 当の本人は完全に無視。知り合いでもないようだ。

 しかし、その態度に痩せた男が苛立ちを見せて前に出る。


「おい、貴様! 返事をせんか!」


 リリスとアンヌさんはどうしようかと思案気な顔。

 仕方なしにハヤトが顔も向けずに答える。


「人に用があるのなら、まずはそっちが先に名を名乗れ」

「無礼者が! このお方を誰だと思っているんだ!」


 声を荒げた痩せた男がハヤトを睨み付けたのだが、ふと怪訝な顔になる。


「お前……ガリドナ領竜騎士のハヤトじゃないのか?」


 途端にハヤトの表情が険しくなった。



 第24話、お読みいただき有り難うございます。

 次回――ユウキの宿命が動き出す。


 更新は3月1日を予定しています。

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