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第13話:初めてのダンジョン

 ダンジョン入り口付近の空間は広々としていた。


 学校の体育館くらいの広さで、天井も三階建ての建物が収まる程の高さがある。

 天井と壁の所々に設置された発光する球体が周囲を照らして存外に明るい。


 目に付く色は濃淡はあっても基本的に茶色。締め固めた土がむき出しのようだ。

 天井や壁には緩やかに起伏があるが、足元はほぼ平らにならされている。


 思い焦がれていた風景。


 感慨にふけっている俺を気遣い、

 少しだけ皆でその場に立ち止まり、暫し無言の時間が流れる。


 その時の俺は一体どんな表情をしていたのだろう。

 ハヤトとアンヌさんが優しい目で見ている。クレアは相変わらず。

 そしてすました顔で俺を見ているリリス。


 軽鎧の上にパーカーを着込んでいるナナミは、

 目をパチクリしながら「とっても静かデス」と、被っていたフードを下ろす。

 俺は「……うん、誰もいないね」ようやく声を出す。


 地図にあった通り、左側の壁には下層に向かう大きな階段。

 正面を見ると、先に進む通路が四方向に分かれている。

 俺とナナミの言葉に答えてくれたのはアンヌさん。


「ダンジョン探索は朝から始めて、夕方終えるのが基本。

 だから――今の時間は入口に人がいないんだよ。

 でもナナミちゃんが言っているのは、そういう意味じゃないよね」


「音がしないデス」とアンヌさんに顔を向けるナナミ。


「そうなんだよ、ダンジョンの壁は音を吸収して響かないようになっている。

 能力を鍛えた人間でも、離れた場所の物音が聞こえないから索敵が難しい。

 猫人族のナナミちゃんでも、二区画くらい先の魔物がわからないと思うよ」


「でも、あっちの道に魔物が何匹かいるのはわかるデス」

「……えっ? 本当?」

「ホント、デス」


 アンヌさんが「凄いなぁ……」と呟いている。

 ナナミは索敵能力がアンヌさんよりも高いようだ。


「よし、じゃあ、その通路から探索を始めようか」とハヤトが動こうとする。

「あぁ、ちょっとその前に……」全員を手招きして壁際に誘導するアンヌさん。

 皆の顔を見渡して、ひそひそ声で話し始める。


「さっきの受付のが情報を持ってきてくれたんだけど……。

 どうやら、ハヤトに恨みを持っている奴らが待ち構えているみたいだ」


 そう言って俺の顔を見る。


「ユウキ君たちに喧嘩を売った男。

 昨日来たばかりのユウキ君――その情報を掴むのが早すぎる気がしたんで、

 どんな経緯で知ったのか調べるように頼んでいたんだ。

 そうしたら、ある人物にけしかけられたと言っていたらしい」


 その人物は――以前からこの町で、

 いつか必ずハヤトが来ることを見越して、恨みを晴らそうと待ち構えていた。


 そこに現れたのが俺。


 ハヤトとのつながりを知るため、直接関係のない単純なあの男をけしかけた。

 何処かで様子を見ていて、本命のハヤトを見つけたのだろう。

 何やら胡散臭い探索者連中を集め始めたという。


 アンヌさんが話したのは、そんな内容だった。


 確かに昨日の日没ギリギリに町に到着したばかり。

 あれだけの短時間で俺の存在を知るには、

 ハヤトに関する情報に網を張っていた人物がいたと考えるのが妥当だ。


 見かけによらないアンヌさんの才覚に思わず尊敬の眼差しを向ける。


「まぁ、そうだったんですの。護衛を怠けてなんて、言いすぎましたわ」


「いや、そっちはあくまで、ついで。

 クレアちゃんを使い魔だって噂を流してもらうついでだったんだけどね。

 ハヤトが狙われるよりも、クレアちゃんの件は本当に世界の危機だからね」


 リリスのせっかくの誤解に、正直に答えてしまうアンヌさん。

 ということで――ついでだったらしい。尊敬の気持ちが半減する。

 ジト目でアンヌさんを見るリリス。

 ハヤトが少しきつい口調で続きを促す。


「そんな話はどうでもいい。結局どんな状況なんだ」

「ハヤトを狙っているのはガウス。聞いた事があるかい?」

「……あぁ、知っている。熟練の闇魔法使いだ。ちょっと厄介だな」


「十人くらい人を集めてたって……。

 多分今頃は、ボク達がダンジョンに這入ったのを知って、

 何か仕掛けようと企んでるころじゃないかな」


「そうか……」


「まぁ、なんで恨まれているかは聞かないよ。

 ……で、どうする。ダンジョン探索は中止するかい」


「狙われているのがわかっているのだから――

 返り討ちにするには……、ダンジョンの中の方がやりやすいだろう。

 一般人を巻き込む心配がないからな」


「ボクもそう思う。ただ問題はユウキ君だ。ユウキ君だけが自分の身を守れない」


「それも結局は町中で狙われるより、ダンジョンの中の方がマシだ。

 急いで能力アップすれば身を守れるようにもなる。

 ユウキすまない。今の話の通りだ。俺のせいで迷惑をかける」


 ハヤトが頭を下げる。そんな必要はないのに。


「気にするな。事情はわかった。

 俺は何も心配していない。これだけのメンバーに囲まれているんだからな。

 非常時には指示に従うから、うまくやってくれ」


「あぁ、ユウキは必ず守るから安心してくれ」力強くハヤトが言う。

「そうなると思って、ハヤトに盾を買ってもらったんだよ」


 アンヌさんが新品の――金属で補強された木製の丸い――盾を掲げる。

 嬉しそうな顔だ。

 それから笑みを浮かべたまま、ナナミの肩に手を添えて別の話を始めた。


「それともうひとつ――提案があるんだけど……。

 ボクが教えるから、ナナミちゃんに罠の探知と解除を覚えてもらいたいんだ。

 今後の為にもなると思うし……多分、すぐにボクの能力を超えると思うから」


「そうだな、猫人族なら適任か――ユウキ、どうだ?」


 ハヤトの言葉を受けて俺はキョトンとしているナナミを見る。

 魔物の索敵の力は見せてもらったし、罠の発見と解除を覚えれば、

 ダンジョン探索になくてはならない斥候役になれる。


「どうする、ナナミ?」

「ユウキの役に立つデスか?」

「うん、とっても」これは俺の本心。

「やるデス!」と鼻息を荒くして答えるナナミ。


「じゃあ、アンヌさんにお願いして」

「アンヌさん、お願いするデス。ナナミに教えて欲しいデス」

「よし! わかったぁ! このアンヌにお任せあれ!」


 ……過剰に意気込むアンヌさんに不安を覚える。

 でも、まぁ、やる気があるのは良い事か。


 といったところで話が終わり、いよいよダンジョン探索開始となる。

 胸のドキドキが止まらない。


 最初は――ナナミが魔物の気配がすると言った一番右の通路を進む。

 地図で見ると二回曲がった先に部屋がある。

 そこから先は二方向に分かれ道。片方は道沿いに三部屋あって行き止まり。

 もう片方はしばらく曲がりくねって地図の上の方に延びていく。


 先頭はアンヌさんとナナミ。

 俺が真ん中で、後方にクレアを肩車したハヤトにリリス。


 通路内にも発光体があるのだけれど、明暗の差が激しく、

 さらに通路が曲がりくねっているため、驚くほどに見通しが悪い。

 幅は十人程度が往来するには広いが、戦闘するには狭い気がする。


 天井は入口付近より低く二階建ての建物くらい。

 壁や地面は見た目通り締め固められた土の感触があり、

 レンガと比べれば多少は衝撃を吸収するかもしれない。


 やがて最初の部屋の手前。次を曲がれば部屋の中が見えるはずの場所。

 先頭のアンヌさんがそこで止まる。


「確かにこの先に魔物の気配がするよ」と小さな声でアンヌさん。

「魔物は多分――大ネズミが八匹デス」魔物の種類と数まで当てるナナミ。


 ハヤトまで片眉を上げて驚きを示す。

「確かに猫人族の五感は鋭いと聞くが、これは凄いな」


 なんだか俺まで誇らしい。

 目の前でひょこひょこ動くネコミミ頭を撫でる。

「ナナミ、凄いってさ」

 チラッと俺の方に振り返り「えへへ」と照れ笑いをするナナミ。


「ハヤト、最初はどうするかい」とアンヌさん。


「そうだな、大ネズミ八匹。オレとアンヌが肩慣らしで半分、

 残りをリリス様とナナミに任せて、ユウキは見学。

 最初だけこれでいこう。次からはオレとアンヌは手を出さない」


「あぁ、それがいいね。

 一回だけ戦わせてもらうよ。いざという時に身体が動くようにね」


 最初は見学。まぁ、仕方がない。

 これから部屋に飛び込み魔物との遭遇戦。

 ダンジョン探索の醍醐味だ。自然と顔がほころぶ。

 そのせいで、俺はハヤトの説明でひとり抜けているのに気がつかなかった。


「わかった。それでお願いする」「了解ですわ」「やるデス」

「よし、行くぞ」


 大ネズミ――

 全くの初心者の俺でも倒せた魔物。ハヤトが最弱と言っていた魔物。

 このメンバーなら何も心配する必要はない。


 俺たちは次の角を曲がる。

 そこには通路の何倍もの幅と奥行きのある『部屋』が広がっていた。

 所々に人の身長よりも高い円錐形の土の柱が、視界を遮るように立っている。


「ナナミちゃんの言った通りだ」


 中央付近に固まっている八匹の大ネズミ。

 それを確認してアンヌさんが片手剣と盾を構えて飛び出す

 ハヤトも飛び出す――俺が失念していたクレアを肩車したまま。


 ――えっ、そのまま戦うの!?


 アンヌさんが先頭にいた一匹の大ネズミを切り伏せる。

 ハヤトがサーベルを抜いて、その後ろの大ネズミに斬り付ける。

 二人の攻撃には余裕が見える。


 それと同時――肩車されたままのクレアが銃を取り出す。

 奥にいた大ネズミに一瞬で狙いをつけ銃撃する。ハヤトの頭の上から。


 ――えぇー!?


 音はほとんどしなかった、空気銃のような「パシュッ」という音。

 しかし威力は十分。一発で大ネズミが光に還る。

 銃を胸元に戻し、真ん中で折り曲げて次の玉を込めているクレア。

 全てハヤトに肩車されたまま。


 ――それ、おかしくないか?


 と、声に出したいが今は戦闘中……ぐっとこらえる。


 続けてアンヌさんが大ネズミをもう一匹仕留める。

 先陣二人と幼女が――予定の四匹を見事に一撃で倒し、後方に下がる。


 俺が昨日大ネズミを倒した様子と比べようもない言葉通りの瞬く間。

 一瞬で光に還った大ネズミ四匹。

 昨日はもっとゆっくりだったが、それは命が尽きるまでの時間の差なのだろう。


 続けてナナミが前に出る。

 リリスは何やら小声で呪文を唱えていた。


 氷魔法が得意だと言っていたから、想像したのは氷の矢みたいな魔法。

 だが、どうも様子がおかしい。

 腰の金属製の棍を手にして、剣を構えるような体勢になる。


「まとえ、氷の刃! 【アイスソード】!」


 棍の先端から氷の刃が伸びて成長し――見事な氷の大剣が出来上がる。

 金属製の棍だった物は、大剣の握りに。


「いきますわ!」と一声上げ突進する。


 魔物を自分の間合いに入れて、その場で両足を大きく開き重心を下げて立つ。

 そして腰から上の全ての身体のバネを使って、両手で持った氷の大剣を放つ。

 俺と同じくらいの体格にもかかわらず、目を見張るほど力強く。

 斬――斬――、巨大な刃に切り裂かれ、二体の大ネズミが光に消える。


 大剣を振り抜き終えてそのまま残心をとるリリス。

 その姿は美しくもあった。


 が、しかし――

 俺はリリスの言葉を思い出す。


『自分の身を守れる程度の棍を使えます』

『神官ですので、刃のついた武器は使わない……使ってはいけないのですわ』

『攻撃魔法は氷魔法が得意です』


 ――いや! そうじゃない!


 嬉々として大ネズミをまとめて屠ったリリス。

 元王女で今神官の女の子に「屠る」なんて言葉を使うとは思わなかった。


 呆気に取られてもう一人の戦いを見逃してしまったじゃないか。

 ナナミは既に二体の魔物を光に還している。

 素手で倒したようで、腰の手斧はそのままだった。


 こうしてダンジョンでの初戦が終わった。

 俺は見学だけだったけれど……ツッコミどころが満載だ。


 アンヌさんは当然のような顔でリリスの氷の大剣を見ている。

 ナナミも珍しそうに見ているが変だとは思っていないようだ。

 クレアは何も気にしていない。


 唯一ハヤトだけが俺の味方だった。

 リリスの戦い方が予想外だったようで驚いた顔をしている。

 いや、待て、クレアを肩車しながら戦うお前もおかしいぞ。


 とりあえずひとつひとつ解決していこう……、

 と思ったら、ハヤトが俺に声をかけてきた。


「ユウキ、リリス様の武器について言いたいことは後にしよう。

 それよりも……昨日言っていた水晶のような物質は見えるか」


 その言葉で俺も冷静になる。

 ただお前がリリスの武器に言及する資格があるかは疑問だがな。

 まぁ、でも、それはこっちに置いておいて……。


 光に還った大ネズミの跡を見る。地面に転がっている魔石。

 八個の魔石付近をそれぞれ見て回るが、あの水晶は見つからない。


「……無いな。見つからない」

「そうか……、可能性は幾つか考えられるが、今それを語っても仕方がない」

「そうだな」


 アンヌさんが魔石を回収してくれた。

 その隙に遅ればせながらリリスの攻撃方法にツッコミを入れる。


「一応、言っておくけど……それって棍じゃなくって大剣だよね。

 刃のついた武器は使っちゃいけないって言ってたし、

 得意は魔法――氷魔法だとも言ってたよね」


「これは棍です。刃ではなく氷魔法です。何も間違っていませんわ」

 胸を張って自信満々に答えるリリス。


「はい……そうですね」

「敬語はおやめください」

「……あぁ……そうだよね」


 隣りでハヤトも納得し切れていないようで渋い顔をしている。

 けれど俺はお前にも訊きたい。


「ハヤト、クレアはそのまま肩車して戦うのか」

「そうだが」

「……そうか」どうも間違っているのは俺の方みたいだ。


 この場は引き下がろう。

 俺は割り切れない気持ちを心の内に押し込める。

 だってここは異世界だもの――と自分に言い聞かせて。



 第13話、お読みいただき有り難うございます。

 次回は――ちょっとした油断でユウキがピンチに!?

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