6話 決戦
私はいまだ、熊と対置している。お互い相手の様子を伺い隙を見ている。だが、このままにしていると不利になるのは私だ。何しろ、先の攻撃は私に致命傷と言っても良いほどに深い傷を与えている。今も右の腹部から血がだんだん流れ出しているし、右腕も折れてしまい、激痛が走ってちゃんと集中しがたい状況だ。
・・・隙は・・無い、か?と言うより隙がいるいないか私には分らない。戦いとは程遠い日本で育ってきたのだし、この世界でも戦士食じゃなく魔法職であるからそんな感覚は備わっていない。
とにかく重要なのはタイミングだ。この魔法が外れたら、二度使う前に熊に襲われ死んで終わりだ。避けられないための隙。その隙が分らないのなら、作ればいい。
「アイスボルト!」
対置状態を破ったのは私だった。先制攻撃として、アイスボルトを飛ばす!だが、アイスボルトを熊は軽々しく避けてしまった。ここまでは予想通りだ。
「ほら、かかって来い!お前は攻撃されても何も出来ない無力ないくじなしかい?」
「グルルルル」
気に食わないような顔でこちらを見てうねっている熊。だが、こんな安い挑発にはかかってくれないようだ。
じゃ、これはどうだ!
「ファイアボルト!」
「クア!?」
ワンドの先から火を作り出し飛ばす。ただし、先のように熊を直接狙ったのではない。熊ではなく、その足元。つまり、草原に火を放ったのだ。
「クアアアアっ?!?!」
「アイスボルト!」
口を明け咆哮をあげる熊の口の中に氷柱を、ぶち込む!
が、熊があわてて口を閉ざし、前足を上げ防御してしまう。それでも、挑発にはなったのだろう。、奴のめが怒りに染まり私にかかってくる!
「クアアアアアアアア!!!!」
「っ!?」
予想外にスピードが速い。これでは、あの魔法のためにためる時間が足りない!よく出来ても、普通の魔法一発が限界だ!・・・・ちょっと待って。一発?そうか。その方法があったか!でも、いけるか?
「クアアアア!」
熊はもう、目の前にまで迫っている。ちッ、もう避けるには遅い。やるしかない!
「インスタントスペル!」
一発しか魔法を使わない時間。その時間を全ての魔術を瞬間的に作り出される魔法に使う!唱えるのと同時に生成される青い光が私の体を包み込む。
「クアアアア!」
「食らえ!!!!」
熊が、前足をあげ振り下ろそうとする。あれを食らうと私は死ぬ。けど、私の魔法も間に合った。ワンドの先から作り出されたのは炎。だが、その炎は含んでいるのは熱ではなく冷気だという矛盾した存在。これこそ、ゴーレムに止めを刺した合体魔法アイスボルト+ファイアボルト。名づけて、
「ミックスボルト!」
ワンドの先から、矛盾の炎が出されるのと熊の前足が振り下ろされるのは同時だった。
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「くそぉ・・」
右側の腹部から血を流しながらまちに向かって足を引きずって歩いていく。凍っているのに焼いた肉の匂いがする熊の死体を後にして歩いてから、どれだけの時間がたったのだろう。5分も満たない可能性もあるし2時間も過ぎている可能性もある。
くそぉ、頭がくらくらしてちゃんと回らない。血を流しすぎたせいだろう。戦闘が終わった後もちろんポションを飲んで回復を図った。まだゲームのときにダンジョンで使った分と狼の群れに襲われて飲んだ分で、残ったのはわずかだったが、それでも熊に戦って負っているダメージを快復させるくらいの量はぎりぎりだったがあった。だが、そのポションを飲んでもこの傷は治らなかった。前と同じようにずっと血を流し続けている。
状態異常、出血
ゴーレムを倒した直後私が死んだ原因でもある、一般的なポションでは快復できないバットステータス。それが、私の体を蝕んでいたのだ。
ふらふらとした足をどうにかするためにワンドを杖代わりにして入るが、そのワンドを支える手の力すら心持たない。
「あ!」
石に足がかかってしまい草原に転ぶ。立とうにも足に力が入らない。
もうだめなようだ。死んでからミウに助けてもらうしかない。
助けて、ミウエモン!
なんて、ふざけながら遠のく意識を手放した。