12話 シスターノーア 3
今日はここまでです
「先生、患者さんです。」
「ああ、今行くよ」
このミルンーダ村に来たから1ヶ月が経ちました。ここは本当に田舎です。飲食店はありませんし雑貨屋もなく、服屋も無い田舎なのです。だけど、村の皆さんは彼を募ってくれます。それも、彼が医者も無いこの村唯一の回復魔法の使い手ですからそうなのですが。まあ、人間、現金なところもあるのは当然でしょう。
「よし。これで終わりだ。気をつけて遊ぶんだぞ。」
「うん!ありがとう先生!」
「俺は先生ではなく神父だけど・・・」
この子は彼のことを先生と呼びます。この村では教会の神父ですけで、なにせ19年間先生と呼んだ私です。いまさら呼び方を代えることは難しくて・・・それがそのままこの子に定着したようです。
「神父さんありがとうございます。これはささやかなものですが・・・。」
「あ、これはありがとうございます。」
子供の母親がジャガイモでいっぱいな籠を彼に渡します。これは一種の治療費です。ここは田舎ですから、金を使う場合が少ないのです。だから、村人達もたまに街に行くとき以外は金なんか必要としないので金を持っている人が少ないので、金の変わりに何かを治療費としてもらっております。まあ、そのせいで街に行ったら最初に金になるようなものを売ることになりますが・・・ちょっと面倒だけど仕方が無いでしょう。
「勉強はどうなってるんだ?」
「まあ、まあです。実際に使わないと良く分らないんですがね。」
子供と母親が帰た後、彼が私に話しかけました。彼が言う勉強とは薬草学のことです。薬草を応用して薬を作るために最近勉強しております。回復魔法では病気を治せないためです。彼に役に立てるように頑張っています。
「なら、次の患者は君が治療してみたらどうだ?」
「それも良いですね。なら、次の患者さんにお願いして・・・」
トン!!!
「神父さん今すぐ逃げてください!森から熊が村に向かっています!まもなく村を襲うはずです!」
私の言葉を遮たのは村人の一人です。名前はまだ覚えていません。教会に走って入った彼は、とんでもない事を言いました。
熊ですって!?一体、どれだけ田舎なら村に熊なんか出るのですか!?普通、熊は人が住むところには来ないんでしょう!?
「先生、早く逃げましょう!ここにいたら危険です!」
「ああ、そうだね。今すぐ逃げる準備をしろ!」
今は真昼なのです。村の男達がいるならまだしも、今の時間では畑に出ているはずです。つまり、村に残っているのは婦女子と神父さんのようなかすかな男だけ。畑に出かけている彼らが来るまではどこかに逃げているのが一番安全です。先生もそれを知っているのでしょう私に逃げる準備をするように指示します。
「準備は終わった?じゃ、逃げるぞ!」
教会を出て走ります。目指すのは村長の家です。何があったらそこに集まるのがこの村の決まりですから。
「おかあさん!!」
そのとき後ろから声が聞こえます。そこにあったのは先教会で治療した子。母親とはぐれたのでしょう。地面に転がってないています。
「ぐあああああ!!」
その子供に向かって走ってくるのは巨大な熊。それも、普通の茶色や黒色の熊ではありません。まるで、血に染まったような真っ赤な毛を持つ熊が子供に向かって走ってきています。
「うええええええ!!」
こどもが怯え、泣き出します。それがなおさら、熊を刺激したのでしょう。子供に向かって走る勢いが強くなり、もう少しで熊が子供に襲い掛かろうとしている瞬間、
「ライト!!」
彼が、光の魔法であるライトを熊に向かって使います。この魔法には殺傷職はありません。ただ、強い光を打ち出せるのが終わりの魔法です。どれでも、熊の注意を彼に向けさせるには十分な魔法なのです。
「先生!?」
「ノーア、君はあの子を連れて逃げろ!私が熊を引き受ける!」
そんなの彼にはできない。彼が使える魔法は回復魔法と光の魔法であるライトだけ。熊と戦える手段なんか彼には無いのです!!
「だめです!あの子は仕方がありません!ここは見捨てるしかないのです!!」
「馬鹿なことを言うな!泣いている子供を助けなくては聖職者に何の意味がある!!」
彼は引き止める私の手を振り解き、熊に向かってもう一度ライトを使って引き寄せます。それから、村の人々がいないであろう方向に走っていきます。熊を私達から話せるために。
「先生!!」
「おい、デブ熊太ったせいで追い掛けないのか?」
挑発まで混ぜて気を引き寄せようとした為か、熊は彼を追い掛けます。私達から、熊を離せる彼の目論見が成功したのです。
けど、人間の足と野生に住む熊の足のどちらが速いといえば熊のほうが早いので、すぐにおい付けられ・・・・
「ぐああああああ!」
「だめぇええええええええ!!!」
熊の前足に殴られ吹っ飛んでいく彼。家の壁にぶつかってようやく止めます。血を吐きながらよろよろと立ち上がる先生。
まだ、生きています。早く彼を連れてここから逃げないと。大丈夫命だけあれば何とかなります。教会にもしものために飼っておいたポションがあります。あれなら、彼を治せるはずです。
だけど、そんな私の願いもむなしくすばやい動きで熊は彼に迫り、またその前足を振り下ろす。その前足に呆気なく叩きつけられる彼。最後、その最後に彼は私に顔を向けて何かをつぶやきました。それは・・・・
『さようなら』
「アルムンさん!!!!!!!!!!!!!!」
こうして、私の父親であり、私の憧れと尊敬の対象であり、初恋の相手である彼はこの世からなくなりました。




