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勇者様の親友様  作者: 青山陣也
第2章:短期留学編 ~初めての異世界~
7/71

7.ノセられやすい勇者様とそれをよく知る親友様

 リーダーシップがある人物とは、大きく分けて2種類がいると思う。


 ひとつは、優れた行動力と決断力でグループを引っ張っていくワンマンタイプ。自らの行動や発言に絶対的な自信を持って突き進み、周りを巻き込んでいくタイプだ。

 行動が早く瞬発力もあるため、上手くハマった場合の爆発力は目を見張るものがある。一方で、グループに属するメンバーの意見をほぼ聞かない事による弊害もある。的が外れた時の修正がしにくく、味方が多いかわりに敵も多くなりやすいのだ。


 もうひとつは、メンバーそれぞれの意見を聞き、上手くバランスを取ってまとめていくタイプ。じっくりと考えてから動くので失敗が少なく、メンバーの同意も得られやすい。

 反面、スピード感には欠けるため、平均的な位置に落ち着いてしまいやすいのが欠点だろうか。また、グループの意見がまとまらなかった場合は、動きが極端に遅くなってしまうだろう。


 一長一短はあるものの、どちらかのタイプがグループ内にいれば、自然とリーダーは決まるものだ。では、グループ内にどちらのタイプもいなかった場合、どうしたら良いだろうか?


 考えるべきポイントを、3つ挙げてみよう。


 ひとつ、カリスマ性のあるメンバーがいるかどうか。これに当てはまる者がいれば話は簡単だ。例え本人がリーダータイプで無かったとしても、軽い気持ちで、普段通りのままで引き受けてもらえば良い。

 普段通り……つまり自然体でカリスマ性を発揮するような人物である。メンバー間のサポートもしやすく、他グループからも一目置かれる事だろう。


 ふたつ、責任感の強いメンバーがいるかどうか。これはもちろん、まるで責任感に欠ける人物をリーダーに据えるわけにはいかないからだ。

 あえて責任感のないリーダーを据える方法がないわけではない。無責任リーダーからこぼれて溢れてかき回された諸々を、メンバー全員で拾い集めてフォローして、化学反応を狙うのである。

 しかし、そんな芸当が出来るなら、その優秀なメンバーの誰かをリーダーにした方が建設的だ。


 そしてみっつめ、これが最も重要なところで、信頼に足る人物かどうかだ。

 信頼に足るとは、頭がキレるという意味でも行動力があるという意味でも、カリスマ性や責任感でもない。極端な話をしてしまえば、特筆する能力が一切なかったとしても、問題はない。メンバー全員の信頼を勝ち取る事が出来ていれば、それで良いのだ。

 信頼に足る人物であれば、メンバーはその人物を快くフォローするだろうし、意見も聞こうという気になる。メンバー間の関係も、リーダーへの信頼という絆を通して、より良いものへと磨かれていくはずだ。


 もちろん、先に挙げたリーダー向きな者が立候補するのであればこの限りではないが、1つの指針として参考にしてもらえたらと思う。


「というわけでタクミ、リーダーよろしく」

「珍しく脱線しないで語ってると思ったら、そういうオチ!?」


 留学中は、男女2人ずつ、合計4人の留学生に異世界側から2人を加えた6人での班行動が基本だ。

 お約束というべきか大人の都合というべきなのか、俺はタクミ、斉藤さん、渡辺さんと同じ班に振り分けられていた。そして今、熾烈なリーダーの譲り合いを展開しているというわけ。


「そりゃそうだよ。メンバー全員の信頼と、勇者としてのカリスマ性。決まりだろ」

「でも僕、リーダータイプじゃないよ。頭も口も回るユーキの方が向いてると思うな」

「普段通りにしててくれればサポートするってば」

「はーい、私もユーキくんに1票! タクミくんとは違う意味で面白そうだし!」


 これは意外な伏兵だ。斉藤さんはリーダーシップよりハプニングがお望みらしい。責任感に欠ける人物を頭に据えると大変だよって、ちゃんと織り込んでおいたのに。


「私はタクミくんがリーダーをやるべきだと思う。こんな口からでまかせで出来ているような人は、それこそ信頼に欠けるもの。背中を預けられないわ」


 辛辣な意見で俺の話に賛同してくれたのは渡辺さんだ。背中を預けるって、この人はどんな修羅場に飛び込むつもりなのだろうか。うちの母親による「こんな子が嫁にほしいわ」発言で、元々近くはなかった距離感が更に遠くなった気がする。

 こっそり持ってきた父さんのハイグレードな双眼鏡でも、捉えきれるかどうか怪しい。その証拠に、同じ意見のはずなのに全く味方という気がしない。


「見事に割れたな。これから合流する2人に聞いて決めるか? リーダーは留学生から決めるのがルールだけど、これじゃ決まらないよ」

「それしかないかもね」

「うん。でも、タクミは本当にそれでいいのか?」

「……どういう意味?」


 ふふふ、簡単な揺さぶりに食いついてくれてありがとうよ。今日も良いリアクションだ。俺は頭の中で描いたストーリーをおさらいして、タクミに向き直った。


「お前は本当の意味で勇者を目指している。小さい頃からの憧れだし、適性がわかった今は明確な目標として意識してるはずだ」

「そうだね! きっとすごい勇者になってみせるよ!」


 タクミくん、応援してるねと女子2人がはやしたてる。いいぞ、観客席の温度も悪くない。


「俺も応援してるよ。さて、その上で改めて聞こう。本当にいいんだな?」

「だからどういう意味なの? 応援は嬉しいけど」

「あのな、短期留学のたかだか数人の班すらまとめられなくて、本当に勇者なんて務まると思うか? リーダータイプじゃないよ、とか言ってる場合じゃないだろ」

「そ、それは……」


 明らかに動揺の色を見せるタクミ。確かな手応えはあるが、まだ油断は出来ない。俺はあくまで落ち着いた調子は崩さず、先を続けた。


「俺はお前を心から応援しているんだ。リーダーにしたって、面倒くさそうだから押し付けようってわけじゃないんだよ」

「ユーキ……」


 急に始まった青臭い友情劇場に、女子2人も神妙な顔つきになってきている。場の雰囲気ってすごく大事だ。ごめんな、本当は面倒くさそうだから押し付けたいんだ。


「どうしてもって事なら、リーダーは俺がやるよ。理想の勇者像がタクミにもあるだろうしな。良い経験になりそうだし出来る限りは頑張ってみるからさ」

「待って! リーダー、僕にやらせてくれないか?」


 真剣な眼差しでタクミが決意の声をあげる。俺は内心で小躍りしながら、真剣な眼差しでまっすぐにタクミを見つめ返した。


「他にも色々、やる事あるんだろ? 無理すんなよ」

「ユーキ、お願いだ! ユーキの言う通り、この班すらまとめられないのに勇者なんて務まらないよ! 大切な事に気付かせてくれてありがとう! 僕に、任せてほしいんだ」

「そうか、そこまで言うなら任せるよ。俺も精一杯サポートするからさ」

「タクミくん……」

「いいな~2人とも、男の子って感じで! 私も頑張ってサポートするね!」


 タクミ本人にやる気を出してもらい、女子からも不満が出るどころか好感度アップ。実にベターな形じゃないか。これで俺の平穏な留学ライフも守られて――


「嶋、ここにいたか!」


 もう少しでハッピーエンドというところで横槍が入る。声をかけてきたのはうちの担任だった。


「言い忘れてすまんな、この班のリーダーは嶋以外の3人から決めてもらえるか? 嶋はなんだ、その……途中で抜ける事も多いだろうからな。それじゃあな、盛り上がっているところすまんな。続けてくれ、わははは!」


 なんという事だろう。ふいに投げ込まれた大人の都合によって、劇場はガラガラと音を立てて崩れさったのだ。静まり返ってしまった空気の中、申し訳なさそうにタクミが言葉を滑り込ませる。


「ごめんユーキ……やっぱりお願いしても良いかな?」

「タクミくん以外で、かぁ。しょうがないよね……」

「なんなのあれ。まあ仕方ないわね、さっきの話で瀧本くんもまあまあちゃんと考えてるってわかったし、私も協力してあげる」


 そうだよね、流れからして絶対にこっちにくると思った。小躍りしていた内心の俺も、足の小指でもぶつけたのか、今はうずくまってプルプルしている。まあ、そんなにやる事はないだろうしな、仕方ない。

 こうして俺は、肩透かしをくらった形でリーダーに収まったのだった。


「皆さん、こんにちは。食べながらで良いので聞いて下さいね。これからのスケジュールを説明します」


 班分けとリーダー決定の後は昼食だ。学年主任の先生のありがたいお話をBGMに、みんなおしゃべりしながらフォークを動かしている。


「この鶏肉おいしいね! 素材の味が活きてるって感じ!」


 勇者タクミは、一足先に異世界を行き来するようになってから、取って付けたような台詞が増えた気がする。

 どのタイミングでツッコミを入れるべきだろうか。そうだな、この間のように融合がゆうごうしてくるレベルになったら物申すとしよう。


「鶏肉なわけないだろ。仮にトリでも地球のやつとは違うんじゃないか?」


 昼食は適当な間隔をあけて大皿で盛られている。メニューは、歯ごたえのある黒パン、塩胡椒で味付けがされた鶏に似た肉の蒸し焼き、野菜の具だくさんスープだ。

 スープには、人参らしきものにキャベツらしきもの、じゃがいもらしきものまで入っている。それぞれ味や食感が似ているけど、なんていう食材なんだろう。


「今日のメニューは全て地球から輸入されてきたお肉やお野菜を使っていますよ、びっくりしたでしょう」


 鶏肉で人参でキャベツでじゃがいもだった。知ったかぶりしてしまったじゃないか、恥ずかしい。

 地球産の食べ物が入っているのは、安心するような残念なような。普段はともかく、こっちならではの食材も機会を作って食べてみたいところだ。


「それでは、引き続きゆっくりお昼を楽しんで下さい」


 簡単な挨拶で締め括られた先生の話には、嬉しくない単語がいくつか混じっていた。班対抗のオリエンテーリング、2日間のホームステイ、そして模擬戦とキャンプファイヤーだ。


 それらしいイベントがずらりと並ぶだけに見えるかもしれないが、問題は各イベントにおけるリーダーの役割にある。

 オリエンテーリングでは、事ある毎にリーダーが行動をまとめて報告するよう義務付けられている。ホームステイではリーダーが班の代表として宿泊先にご挨拶を。模擬戦の説明はリーダーが聞いて班メンバーに伝え、キャンプファイヤーでは各班リーダーが中心となって準備をする。

 実に面倒そうな責任ある行動のオンパレード、リーダーのシュプレヒコールが聞こえてきそうだ。


 どうやらそうそう、楽はさせてもらえないらしい。俺は小さな溜め息を、具沢山のスープで喉の奥に流し込んだ。

お読み頂きありがとうございます!

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