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勇者様の親友様  作者: 青山陣也
第15章:長期留学編 ~討伐クエスト~
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64.光を強くする勇者様と小さな成長を見せる親友様

 この世界における魔法とは、どれだけ望む形をイメージ出来るかにかかっている、という話は何度かした事がある通りだ。

 極端に言ってしまえば、優れた創造力とそれを具現化出来る魔力さえあれば、詠唱もいらなければ、手をかざす事すら必要ない。


 どこに、どんな効果をもつ、どんな形の、どの程度の強さのものを。極端な話をすれば、これを明確に出来れば良いのだ。


 それでは何故、詠唱が存在するのだろうか。理由は主に2つだ。


 まずは、詠唱そのものが魔法発動のキーとなっている場合。これは通常の魔法よりも、主に召喚魔法であるとかに用いられる。

 詳しい仕組みは割愛させて頂くが、興味のある方は、図解と専門用語の索引付きで入門者にぴったりの『幻獣と詠唱(上下巻)』や『初めての召喚~僕とリヴァっちの318日~』等がおすすめだ。

 僕とリヴァっち……通称ボクリヴァは、少年と幻獣の1年弱の交流を通して、召喚魔法のなんたるかを学べる上に、ストーリー自体もしっかり楽しめるベストセラー小説だ。


 ……話を戻そう。

 もうひとつは、イメージと雰囲気作りだ。


 先輩、雰囲気で技の名前とか叫ぶのやめてもらっていいですか? ペア組んでる僕も恥ずかしいんで……。

 などと小憎らしい後輩が冷めた目で言い出せば、先輩が烈火のごとく怒りだすのは間違いないのだけど、雰囲気は大切だ。先輩の顔だってある程度は立ててやるべきだろう。


 もう少し噛み砕いて言うのであれば、詠唱を、魔法そのものを構築する補助として使い、同時に効果を高める為の触媒とするのだ。

 イメージだけでも魔法は放てるが、そこに詠唱という形を加えてやる事で、よりイメージを明確にし、魔力の通りを良くする。


 名は体を表すとはよく言ったもので、最も短い詠唱……すなわち魔法名を声に出すファイヤーボール、ウォーターカッター等がまさに良い例だろう。容易に炎の玉が飛び出したり水の刃なのだろうなと想像出来るし、それを唱える術者も、これからこういう魔法を出すのだという心構えが出来る。


 中には、ファイヤーボールと大声で叫んでおきながら、風の刃を噴射する輩がいないとも言い切れないが、そういう事はルール違反の例外であるはずだ。何のために、ヒーローものの悪役がヒーローの変身を待ってくれていると思っているのか。

 そんな事は、数の暴力に訴えたり、人質を取ったりするという卑劣な行為をものともしない悪の組織の下級戦闘員でさえ、教育が徹底されている基本中の基本だ。




 だというのに、これはなんなのだ。


 変身間近に後ろから羽交い締めにされ、下級戦闘員のラリアットを受けながら、心の中で愚痴をこぼす。


 超撃戦隊デ・リンジャー。


 一体、どの層への需要を狙っているのかと企画段階から問いつめたくなるネーミングのこの戦隊に、俺はリーダーのデ・リンレッドとして所属している。


 そもそも、◯◯ジャーとは、◯◯レンジャーがシリーズを重ねて変化したものであるはずだ。


 だというのに、デ・リンジャーとは何事だ。


 これは毎週日曜日の朝に子供たちが見る番組ではないのか。



 俺が素敵なイクメンのパパなら、新聞のテレビ欄を確認した時点で、明らかに物騒なこんな名前を見かけたら、子供には見せてなるものかと決意するだろう。

 しかも、試しにとチャンネルを切り替えてみればどうだ。リーダーであるはずの男が変身すらさせてもらえず、ラリアットとドロップキックのコンボを受けて、ぜえはあ呻いているではないか。ひどい絵面だ。


 日曜日の朝の爽やかな時間に、何を見せようというのか。


 聞いているのか、お前だよブルー! デ・リンブルー! ローアングルから俺の鼻血を狙ってるんじゃない!

 お前は変身しているんだから、とう、でも、やあ、でも助けにきたぞレッド、でも良いから正義のヒーローらしい掛け声をかけて、俺を助けるべきだろう。


 確かに、ブルーの撮影・加工・編集テクニックには舌を巻くものがある。その道で十分食べていけるだろうに、わざわざマイナー戦隊に所属している意味がわからないくらいだ。コンセプトの破綻している俺達の隊がなんとかスポンサーに見放されずにやっていけているのは、こいつのお陰と言っても良い。


 イケメンブルーとお色気ピンクの2枚看板に、イエローのグルメリポートとブラックの都市伝説トークでコアなファンをカバーするというのがうちのやり方だ。


 唯一、毎回まじめに悪の組織との戦いに駆けつけている俺は、ヤラレッドとか呼ばれてすっかりそういう役だと思われている。くそ。

 お前らはそれぞれの副業やら視聴率やら、インセンティブが多すぎてありがたみを感じてないかもしれないけどな、毎月の基本給がちゃんと出ているのは、俺のおかげなんだぞ。


「隙あり、とおっ! 変身! デ・リンジャー!」


 ようやく変身出来た。そもそも、どうしてデのところで一息入れなければ変身システムが作動しない仕様になっているんだ。

 デだって立派な名前の一部なのに、フォンドボーのドみたいになっているじゃないか。これが片付いたら今度こそ長官に直訴してやる。


「デ・リンマグナム! たあっ!」


 そして武器がこれ。デ・リンマグナム。残念ながら弾など出ない。弾切れではなく仕様だ。言うなれば、雰囲気たっぷりの形状をした鈍器。


 一体どこが超撃戦隊だというのだ。


 全然撃ってない。超、撃ってない。


 ピンチを切り抜けた俺の元にようやくブルーがやってきた。いつの間にか合流したブラックも一緒だ。こいつら、揃って見物決め込みやがって。惜しかったよなとか笑いながら話している。


 何が、どう惜しかったのか、後で聞かせてもらうからな。


 ようやくイエローとピンクもやってきた。遅刻しているのだから、せめて急いできたという空気だけでも出してほしい。

 とにかく、役者は揃った。さっさと巨大ロボでけりをつけよう。


 さあいくぞ、必殺――



「フレイムピラー!」



 掌から飛び出した火種が、吹き上がる炎へと姿を変えてどう、と音を立てる。不気味な動きでこちらへ向かってきていた真っ黒な人型の影数体を赤い炎が飲み込む。


「一体ずつは大したことないけど、とにかく数が多い。みんな、気を付けよう!」


 続いて、集中させた魔力を球形にくるくるとまとめ、右から回り込もうとしていた影に投げつける。


「あっちいけよ! ファイヤーボール!」


 直撃を受けた影はあっという間に霧散していく。



「よしっ!」



「よしっ! じゃないだろ、さっきのふざけた話はなんだったんだ! ようやくそれらしい魔法を撃てるようになって、瀧本も頑張っているのだなと思ったから、急に始まった詠唱の話にも付き合ってやったというのに……」


 手にした大剣で影を切り裂いて、鈴木が叫ぶ。斬られた影が、しゅう、と奇妙な音を立てて崩れていく。


「一連の流れが、俺なりの詠唱だと思ってくれないか」


「長いわ! 毎回終わりの見えない小咄を聞かされてたまるか! せめてちゃんと区切りをつけろ! 聖剣さんも言っていたが、大体にしてお前は……」


「フレイムピラー!」


 空の上から急に叫んだ渡辺さんにびっくりして、俺も鈴木も動きを止める。


「とか叫ぶのが恥ずかしくて、余計に恥ずかしい話で誤魔化そうとしてたんでしょ。かわいそうだからそっとしといてあげなさいよ。その人、誤魔化すのは上手いけど、まっすぐに上手くやるのは慣れてないんだから」


 鈴木がバーサク説教モードに入りかけたこのタイミングで、あえて丁寧に説明することで場を静かにさせ、俺にもダメージを与える効果的な手だ。俺は慌てて、用意していた建前を口に出す。


「ち、違う! だってあの影、わらわら出てくるしどう見ても下級戦闘員じゃないか!」


「……シャドーという、れっきとした魔王軍のモンスターだ。強い魔物や幹部の通った後の魔力から生まれるのだとか、偵察、足止め要員という説が有力だそうだ」


 つまりは下級戦闘員じゃないか、と思うのだけど、せっかく鎮火した鈴木の小言を再燃させる事もないだろう。


「でもユーキくん、本当に頑張ってたもんね。もう普通に魔法も使えてるし、すごい!」


 場を繋いでくれたのは斉藤さんだ。こういう時、斉藤さんが各方面に人気がある理由がわかる気がする。かゆいところに無意識に手を伸ばせる感覚というのだろうか。


 斉藤さんの言葉に、俺はこの1週間を振り返る。


 たかが1週間。剣の達人になったり、木々の間を飛び回ったり出来るようになった訳ではない。

 されど1週間。魔力の扱いという意味では俺は確かに成長出来たと思う。



「一応、これまでも真面目にはやっていたようじゃの」


 走り込んでへとへとになった俺の魔力を探った聖剣じいさんは実に心外な言い方をしてきたものの、きっかけひとつで伸びる手前まできている、と俺を評した。

 そしてその言葉通り、ファイヤーボールを無意識にまとめられるようになり、火柱を火種から起こせるようになったのだ。

 威力としても、下級の魔物であればどうにかまともに対応出来る程度のものを身に付けた。

 これに関しては、魔力切れで気絶するまで踊りながら火を吹いた、いつぞやのルキちゃんとの特訓が良かったらしい。



「こんな場所にもシャドーが出てくるって事は……ちょっと急がないとまずいかも」


 シャドー達と、つられて現れた魔物達を排除してきたタクミが、真剣な表情で戻ってきた。


 最低限の準備を整えた俺達は、魔物討伐の先発隊を追いかけて王都を出発している。結論から言えば、先発の……ルキちゃん達と出発時点から歩調を合わせることは叶わなかったわけだけど。


 タクミに続いて、アレックスとねねねも戻ってくるが、タクミは1人だけ息を切らせていない。

 たった1週間で、俺でもわかるくらいに魔力量を増やし、前にも増して超人的な動きとそれを支える体力を身に付け、聖剣じいさんとの連携技さえ完成させてみせた成長ぶりを、実戦でもいかんなく発揮してきたようだ。


 剣術の腕としては、流石は騎士の家柄と言うべきか、アレックスが一番だし、ねねねも一瞬のスピードは目を見張るものがあったりするのだけど、タクミは総合力とセンスが違う。


 特訓を終えた後も、今日はこんな事が出来たとか、こんなスキルや魔法を身に付けたとか、もりもりと美味しそうに夕飯を頬張りながら話していたものだ。


 夕飯時には体力も魔力も使い果たし、死んだ魚のような虚ろな目で、機械的に食べ物とタクミの話をはらわたに放り込んでいた俺とは天と地の差だ。


「本当だね、ドラゴンだけでも大変なのに」


「うん。しかも、先に山に入ってるはずのヘンリーくん達はそれを知らないはずだしね」


 タクミの勇者としての成長ぶりは振り返ると悲しくなってくるので、ひとまず置いておこう。

 ヘンリー率いる少数精鋭の討伐隊の後詰めとして、王都を発つ事を許された理由のひとつがこれだ。ただでさえ簡単ではないはずのドラゴンの討伐任務。そこに、魔王軍の進軍情報が飛び込んできたからである。


「天才魔術師が遅れを取るとは思いませんが、魔王軍に対して最も効果的なのは、勇者をおいて他にないはずです」


 タクミ本人の希望と、一体何を偉そうに、と怒られそうな俺の自信に満ちた進言により、俺達はめでたく国のバックアップを受けた後発隊となったわけだ。


 ちなみに魔王軍の進軍情報がなければ、インパクトとしてはやや弱くなるかもしれないが、魔王軍に対して……という台詞をドラゴンに置き換えて弁舌を奮うつもりだった。

 タクミとも先に話をして、多少の危険があったとしても同行したい、という根回しもしてあった。


「ちょうど良い勇者殿も軒並み出払っているし、タクミ殿が手を挙げてくれた上に、その提案がユーキくんからとは、これは実にたまらな……いえ、頼もしいですな」


 等と、普段であれば物申したい呟きをレオナルドさんがこぼしていたが、今回はあえて乗る事にした。帰ってきたら釘はさしますからね、レオナルドさん。


「こやつも連れていくが良い。もしかしたら、大きな芽を出すかもしれん」


 そして残念ながらこれが、俺がこの旅に同行出来た理由だ。


 なにしろ、相手はドラゴンに魔王軍。いくら新進気鋭の勇者に根回しをしておいたと言っても、ちょっと火の玉を飛ばせる程度の俺が出る幕ではない。

 実際、ほくそ笑んでいたレオナルドさんにしても、脇で聞いていた騎士団長さんにしても、俺には物資やら馬車の手配、プランの組み立てに勇者が討伐に名乗りをあげた事の宣伝と、2人やその部下がやるべき仕事の面倒な部分をまとめたような事をさせたい様子だった。


 それを遮ったのが、聖剣じいさんの一声である。俺の中にある可能性らしきものに言及し、その為に討伐に参加させてみると良い、という胸の熱い展開。これがどうして残念ながら、なのかといえば、おえらいさんとの話の後の会話が問題だ。


「おぬし、一緒に行きたかったんじゃろ? 空気を読んでやったんじゃから感謝せい! なに、タクミくんがおれば大丈夫じゃろ」


「大きな芽を出すかも……っていうのは? Dだった勇者適性がどどんとAになったりとか、いい感じになってきてる火魔法が急成長したりとかさ……!」


「お主の適性が! エーに! あーっはっはっは! ふほ! ひゃひゃひゃ! わしを笑い死にさせる気か! 柄が! 柄がよじれる!」


 これである。聖剣じいさんは、ノリで言ってやったのだから感謝しろと言い放った上に、急成長を期待した俺の事が、腹……いや、柄がよじれるほどおかしかったらしい。


 その後も、タクミくらい素直な反応があればまだやりがいがあるとか、渡辺さん(ちゃっかりさおりんと呼んでいた)は性格さえ柔らかくなればお気に入りなのにであるとか、成長するための核は全員に入れているのだからわしは仕事してるもんだとか、聖剣じいさんは好き放題だった。


 好きなおなごのために危険に飛び込むなんて青春じゃの、ええのぉ……と、未だに俺の心の中を覗いていた事が発覚した辺りで俺は、憤怒の化身となったのだった。

 待て、心をいつでも読める程にタクミくんとの繋がりが深いおぬしだからこその可能性も考えてわしは……などとまだ何か言いたそうな様子だったが、それ以来、聖剣じいさんとは会話をしていない。


「ユーキ……ユーキ、大丈夫? ここから先は、あんまりぼーっとしてちゃ駄目だよ。何か気になる事とか、違和感とかあったら言ってね」


 聖剣じいさんとのやり取りを思い出して、悪役顔で歯軋りしていた俺に、タクミがリーダーらしい気遣いで話しかけてきた。


「ユーキの考えてくれた陣形、すごくいい感じだよ! 準備してる時にも僕が気が付かない事に色々と気付いてくれたし、頼りにしてるから!」


 ぽんと肩を叩いて笑顔を見せると、斉藤さんや渡辺さんにも声をかけていく。

 確かに聖剣じいさんの言う通り、タクミがいれば大丈夫だという気がしてくるから不思議だ。


 大きな頼もしさと少しの悔しさを胸に、俺は思考の沼から這い上がると、切り替えるように声をあげた。

 

「タクミの言う通り、ここからが本番だ。本格的にドラゴンの縄張りに入る前に、ちょっと整理しておかないか」

ここまでお読み下さりありがとうございます!

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