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勇者様の親友様  作者: 青山陣也
第14章:長期留学編 ~完成!伝説の聖剣様~
59/71

59.聖剣の秘密を語る勇者様と聖剣に望みをかける親友様

 RPGなんかで物語の鍵となるアイテムや武器を手に入れる為には、なんらかの試練を乗り越えなければならない事が多い。


 あの人なら知ってるかも、あそこに行けばわかるかもとあちこちをたらい回しにされるのは日常茶飯事。

 重要な情報を持つ誰かはなぜか必ずタイミング良く困っていて頼み事を押し付けてくるし、目的のアイテムは図ったようなタイミングで出てくる強敵に守られている。

 あんた、お正月くらいは帰れるんでしょうね! と強敵くんの母親も心配しているに違いないのだけど、残念ながら母親の願いは叶わない。

 お正月にはその期間をフルに使って目当てのゲームをクリアせんとする猛者達が一定数存在しているからだ。帰るなんてとんでもない、むしろ書き入れ時なのだから。



 強敵さんの話はさておき、そうした諸々を乗り越えるとご褒美にアイテムや武器がもらえるという訳だ。小さな達成感と共にストーリーが紐解かれ、先へ先へと進めたくなる欲求を煽る。

 その繰り返しで、RPGは成り立っているのだ。


 ここで少しRPGにおけるご都合主義のいくつかについて解説しておこうと思う。


 ひとつめ。主人公が1から強くなっていくタイプのRPGにおいては、旅立つ村や町の回りには何故か都合良く弱い魔物ばかりが棲んでいる。

 ただの棒切れであるとかちょっとしたナイフがあれば、普段着でも立ち向かえる程度の、だ。


 ゲームを作る側の意見を代弁するのであれば、簡単な戦闘でゲームシステムを理解してもらい、レベルなりなんなりを上げてゲームにハマってもらわなくてはいけない大事な導入部分。それはわかる。


 世界は魔王により滅亡の危機を迎えていた……世界を救う事が出来るのは伝説の力を受け継ぐ勇者であるあなただけ!

 さて、そんな噂を聞き付けて早速脅威の芽を摘みに来られた魔王様がこちらになります。それではゲームスタート、はりきってどうぞ!


 などというリアリティを追求した形にしてしまっては、コントローラーだかスマホだかを放り投げられて終わってしまう。


 しかしこれは、魔王様が直々にお出ましになってしまうようなとんでも展開を除けば、容易に説明の付く話だ。

 答えは簡単、出生率が高いのは弱い魔物が棲む地域に違いないからである。

 凶悪な魔物が棲む地域にかつてあった町や村は廃墟に姿を変えているかもしれない。

 弱い魔物が棲む地域であれば子供達もすくすく育つし無事に大きくなれる可能性も高い。つまりはそういう事なのだ。



 続いての疑問は通常のRPGでは町や村、城などに入れば魔物は出てこない事だ。もちろんそういう趣向のステージであれば話は別だが、それがどんなに寂れた村でも数人しか人のいない祠でも、その中は安全地帯である事が多い。

 口を真一文字に引き結んだ兵士さんがずらりと並ぶ城ならいざ知らず、普通の町や村に魔物が入ってこない保証などないはずにも関わらず、だ。


 彼らはどうやって敵の……魔物の侵入を防いでいるのだろうか。

 注目してほしいのは、大抵の町や村に1人は存在する、ここはどこそこの村ようふふと入口の側で陽気に笑うお姉さんだ。


 山あいの小さな村であるここ、トスター村にも訪れる旅人を笑顔で癒す1人の女性がいる。


 紹介しよう、彼女こそが村一番の戦士ドリス。普段は村の名前を笑顔で教えてくれる村人A。しかしその真の姿は、村を守るエージェント・Dである。

 Dの過去を知る者はいない。皆が気付いた時には、当然のように村の入口に立ち、笑顔を振り撒いていた。


 彼女にとって、相手が雑魚であれば武器すら必要ない。旅人に挨拶をしながら、外した視線にほんのわずかの殺気を乗せる。ただそれだけ。


 厄介なモノが近づいてくる気配を察すれば、彼女はあえて魔物の時間である夜を待って行動を開始する。なにしろ昼間は村の第一印象を担う重要な仕事があるのだ。

 しかし夜であれば、彼女が村の入口を離れても問題はない。もちろん、ターゲット以外の魔物が入り込めないように相棒のエージェント・Kにも応援を頼んである。


「他愛もないわね」


 普段は懐に隠してあるナイフでターゲットを斬り倒すと、ドリスはため息混じりに呟く。毎日が危険と隣り合わせだったあの頃に比べ、なんとぬるい事か。

 しかしドリスはそんな退屈な気持ちを笑顔で包み隠して村への帰路につく。


「あの人の愛したこの村、私が絶対に守ってみせるわ……」


 策略と裏切りにまみれた暮らしからドリスとK……双子の姉であるクリスを救ってくれたあの人の恩に報いる。そしていつの日かあの人が笑顔で帰ってこられるように……。


「……!?」


 昔を思い出して思わず緩みかけた糸をピンと張り直す。


 何かがいる。



 人ではない。



 魔物とも……違う。



 村の入口はすぐそこだ。ドリスは走った。



「クリス……っ!」



 うつ伏せに倒れたクリスは動かない。息はしているだろうか。ここからではわからない。



 近付こうとして1歩。踏み出した足が止まる。



 やけに冷えた空気が頬を撫でる。



 いる。


 

 振り向いてはいけない。



 今も。



 あなたの。




 すぐ後ろに――





「待って! 待ってユーキくん! RGPはどこにいったの!? ホラーとかサスペンスみたいなのが急に出てきてるんだけど!」


 急展開に慌てて斉藤さんが待ったをかけてくる。ゲームの中身がロールプレイングからローリンググランプリになっている辺り、本当に怖がらせてしまったかもしれない。


「ごめんね斉藤さん、でもその台詞が欲しかったんだよ。本当にどこにいっちゃったのかなRPGは」


 斉藤さんに代弁してもらった通り、俺は今、憤っているのだ。


「よくある設定だし展開も急ね、2点ってところかしら」


 渡辺さん、ちょっと辛口過ぎない? それって多分10点満点じゃないんだよね? まあいいか、言い返したらこじれそうだし。


「サスペンスはどうにかなってもホラーは嫌だからね! それで、RPGはどこにいったってどういう意味なの?」


「あれを見てくれ、どう思う?」


「タクミくんだよね」

「ええ、タクミくんよね。かっこいい」


 王都で見かけた揃いの鎧を身に付けた兵士達に囲まれて、わいわいと騒ぐタクミの姿が見える。


「あいつが手にしているアレは何かな?」


「聖剣でしょ?」

「見ればわかるじゃない、何言ってるの」


 そう、聖剣だ。


「2人はアレを見て何とも思わないの?」


「早く見つかってよかったよね!」

「うんうん、さすがタクミくん!」


 いや、流石っていうけど、勇者様はちょっと物理法則を無視して山肌をにこにこ歩いてただけだからね?


「見て見てユーキ! じゃじゃーん! ついに聖剣完成の時だよ!」

「じゃじゃーんってお前な……いいのかこれで?」

「いいのかって何が?」


 俺は兵士さん達を引き連れて得意満面の表情を見せるタクミに、わかりやすくわざとらしい溜息を投げつけてみせる。


「勇者としての達成感とか、自分で手に入れてやった感が絶対的に足りないと思わないか?」

「え、どうして?」

「どうして? じゃないだろ! これじゃあ俺達はただのちょっとスリリングな山登りをしただけじゃないか! しかも兵士さん達の方が先に到着してるとか!」

「それは瀧本くんがぐずぐずしてたからでしょ、本当に何言ってるの?」


 考えてみて欲しい。勇者としての強い意志と決意を胸に旅立ったとしよう。

 城下町で最低限の装備を整え、次の町へと向かう。生まれたての勇者は彼なりに必死に進んだ、それはもう進んだ。そして次の町へと辿り着く。

 するとどうだろう。町の入り口にはつい数日前に別れたばかりのお城の皆さんが拍手をして待ち構えているではないか。

 やあ勇者様、魔王を倒すのに必要な装備を全て揃えてお待ちしていましたよ、案外のんびりされていたのですね! 旅は如何でしたか? さあ、装備してみてください! 伝説の剣と装備一式です! わあ、似合いますね! バッチリです!


「全然バッチリじゃないと思わないか? くそゲーにも程があるだろう。俺ならこの時点でコントローラーを放り投げるぞ。良い子も良い大人も真似しちゃいけないけど放り投げる」

「誰に説明してるのそれ。とにかく、ゲームと現実を一緒にしないでよね。もう少し合理的に考えられないの?」

「そうだよユーキ、これは遊びじゃないんだよ?」


 くそう、いくらお膳立ての整った状態で兵士さん達が待っていた事もあるなんて話を聞いていても、目の前にすると釈然としないにも程がある。


「ちなみに、兵士さん達はどういうルートで来たんですか?」

「反対側から馬車で参りました」

「……それに俺達も乗ってくれば良かったんじゃ?」

「いえ、そこは勇者様が固辞されましたので……」

「だってせっかくの冒険だもの! 馬車に乗っているだけなんてもったいないよ!」


 俺はくらくらとする意識をなんとか繋ぎとめる。

 遊びじゃないけど、山登りの冒険はしたいっておかしくないかな?

 どっちかっていうと逆じゃない? 山登りはお国様の力をありがたく借りてさ。聖剣見つける方を重視した方が勇者の冒険っぽくない? ねえどうかな?


「わっははは! 過程にこだわる若い心も私は好きだがな!」

「はぁ……いらしてたんですね。というか絶対にあなたの仕込みですよね、騎士団長さん?」

「ん? 何の事かな?」

「何の事でしょうね、もういいです。とにかく聖剣は完成したって事ですよね。そしたらアレですか、ちゃっちゃと魔王様でも倒しに行きますか? あーあ、めでたしめでたし」

「ユーキ、目が据わってて恐いよ。落ち着いて! 聖剣が完成したからっていきなり魔王に勝てるわけじゃないんだよ!」


 さっきから、こちらがツッコミを入れたいところはスルーされ、放っておいてほしいところは的確にタクミにツッコミを頂くという嬉しくない展開が続いている。

 ここはいったん仕切り直して整理しよう。俺自身の成長の為にも色々と冒険らしい経験を積んでおきたかったなんていうのは後回しだ。確かにこれは遊びでもゲームでもないんだ。言い聞かせろ、俺は出来る子のはずだ。


「冗談はさておき、その聖剣はどんな効果があるんですか? その剣だけじゃ魔王には勝てない訳ですよね」

「ほう……タキモトくん、君はなぜ聖剣だけでは勝てないと思うのかね?」

「だってそれ、魔王と戦ってる途中で魔王自身に封印されて散り散りになったやつなんでしょ? しかも封印は今の今までされたままだった。という事はですよ、その聖剣は少なくとも魔王が封印しておきたくなる程度の何かしらの効果は持っているものの、決定打にはなりえないって事でしょう」


 え、せっかく完成したのにこれじゃ駄目なの? と呟いてぽかんとしている斉藤さんと、意外そうに目を丸くして俺を見ている渡辺さん。

 渡辺さんは心の底から俺をアホの子だと思っていたようで残念な限りなのだけど、そんな2人を尻目にタクミは随分と嬉しそうだ。


「なかなか考えているな。着実に成長しているようで嬉しいぞ、タキモトくん。わっはっは!」

「それについては僕が説明するよ」

「タクミは知ってたのか。どういう事なんだ?」


 話をしたくてたまらないといった風に口を開いたタクミが、騎士団長さんに目配せして1歩前に出る。騎士団長さんも頷くとタクミに話の続きを任せるようだ。

 そんな騎士団長さんは、今はアレックスの父親としてのガチムチ親父ではなく、騎士団長シュナイデルとしての真剣な表情をしている。黙っていればこの人も格好良いのにな。

 関係ないけどガチムチ親父じゃなくてガチムチ父親だと凄く言いにくいよね。ガチムチチチオヤ。俺は真剣な表情の裏で失礼な上にどうでも良い事を考えながらタクミに続きを促す。


「ユーキ、この聖剣を持っていた勇者の仲間はみんな適性A以上だったんだ。どうして全員がそれだけ高い能力を持ってたのか知ってる?」

「勇者の仲間なんだから、高い能力を持った人達が集まったんだろ?」

「確かにそういう仲間もいるよ。でも、この聖剣の勇者の冒険に最初から最後まで付き従った女戦士リューネは勇者と同郷でたまたま戦士の適性を持っていただけの村の女の子だったんだ」

「そんなのよく調べてるな……でも、たまたま持ってた戦士の適性が高かったんじゃないのか? そういうの良くあるだろ」

「旅の序盤、王都に辿りついた時点でのリューネの戦士適性はC+程度だったっていう伝承が残ってるんだ」


 俺は、鼓動が速くなっていくのを感じる。


「つまりそれって……」


 答えはほぼ出ている。

 しかし、それをなかなか言葉にしきれずにいる俺を、タクミは静かに待ってくれている。


「その聖剣は適性を成長させる事が出来る……かもしれない?」


 言葉にはしたものの、それが意味するところを咀嚼しきれていない俺に向かってタクミは力強く頷き、騎士団長さんもニヤリと笑ってみせた。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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