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勇者様の親友様  作者: 青山陣也
第5章:異世界短期留学編 ~伝説の聖剣~
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21.鍛冶屋に夢中な勇者様と尻尾に夢中な親友様

 各地で売られているお土産には、実に様々なものがある。その土地や名所にちなんだお菓子や食べ物。キャラクターのご当地アイテム。名産品や伝統工芸品と呼ばれるものなどなど。


 高校生の俺達にも手を出しやすいのは、お菓子やご当地キャラのストラップあたりになる。確かクラスメイトにも、キャラクターのご当地ものをせっせと集めている子がいたはずだ。

 買える買えないは別にして、お土産にはそれぞれに工夫が凝らされていて面白い。眺めているだけでも好奇心を刺激し、旅の思い出に華を添えてくれるのだ。

 そんなお土産の中にも、失礼を承知で言わせてもらえば、ハズレが存在する。もちろん、何をもってハズレとするかは人によって考え方が違うだろう。だからこれは、個人的な意見として聞いてもらいたい。


 ハズレのお土産には、ご当地タイプと便乗タイプがある。

 ご当地タイプはその名の通り、ご当地ものの中でも微妙なお土産の事だ。拘りすぎて不思議な味に仕上がった珍味。観光名所の名前がどどんと入ったタペストリーなどが代表格である。

 ただし、ご当地ものに関しては特に、ハズレに対する価値観の別れるジャンルなので注意が必要だ。なぜなら、そこには一定数の愛好家の皆さんが存在しているからだ。彼らの飽くなき好奇心、探求心には全力で敬意を表したい。


 問題なのは、便乗タイプだ。直接その土地には関係がないのに、なんとなくポジションを確保したアイテムである。

 例えば、有名なお寺の近くに並ぶお土産屋さんを想像してみてほしい。お寺をモチーフにしたキーホルダー。お寺をかたどったお菓子。ご当地ものに分類されるアイテムが並ぶ、オーソドックスなお店だ。

 そんなお土産屋さんの店先。武骨な入れ物にざくざくと刺さったオモチャの刀……完全にダウトである。

 古くからあるお寺というキーワードから、古い時代と言えばなんとなく武士。武士と言えば刀でしょ。じゃあこれ置いちゃえ。というのである。

 主に、テンションの振り切った修学旅行生をターゲットとした便乗タイプだ。ご当地もののついでに買ってくれたらカモネギよねうふふ、という思考が透けて見えるではないか。


 オモチャの刀を引き抜いて構えたい衝動をなんとか押さえて、店内に入ってみよう。キーホルダーコーナーに並ぶ、刀のキーホルダー。これも先と同じ理由でダウトである。

 更にその隣には、なんとピストルのキーホルダーまであるではないか。これはもう、ダウトの発声も2割増しで響き渡るというものだ。

 なんとなく連想させた刀については説明した通りだ。そこから更に、それっぽい武器ならいいか、と配置されている強者だ。


 こうしたお土産を手に、目を輝かせている友人がいれば、どうか優しく手を差し伸べてあげてほしい。旅には、そしてお土産屋さんには魔物が棲んでいるのだから……。


「つまり、迷宮のお土産屋さんって雰囲気に酔って、まんまと傷物を買わされたわけだ。まあ落ち込むなよ聖剣の勇者さん、はっはっは」

「ひどいよ、せっかく充実した気分で帰ってきたのに」


 聖剣で大騒ぎした後、俺達の班は王都の鍛冶屋に向かっていた。元々、午後に予定されていた社会科見学の為である。

 その道中、ここまで一気にまくしたてて、俺はようやく溜飲の下がる思いだった。人をあれだけ心配させておいて、充実気分になどさせてやるものか。

 その為に、お昼ご飯の時から練りに練って機会を窺っていたのだ。今頃、タクミの脳内では、ランチでしれっと話しておいたうちの両親のハズレお土産エピソードが、ボディーブローのように効いているはずだ。

 鍛冶屋への道すがら、傷物の防具がどうのというのは、少し不謹慎かもしれないけど。


「……リィナは気付いてたの?」

「え! 私はタクミ様が楽しそうにしていたので、それだけで、その」

「責任転嫁は良くないぞタクミ」

「そんなつもりじゃ」

「まあまあ、似合ってるし良いじゃないか。そんな肩当てとか日本じゃまず手に入らないだろ。まるっと異世界土産だって考えれば、拾い物だったんじゃないか?」

「そ、そうだよね!」

「ああ。その、ぷぷ……歴戦だっけ、の肩当て」

「馬鹿にして! いいよ、いつかこれ以上の歴戦を潜り抜けてみせるよ!」


 完全にへそを曲げてそっぽを向くタクミ。良い感じにリベンジ成功だ。肩当てには思うところがあったのか、リィナ姫やアレックスも気配を小さくしている。

 今回ばかりは、斉藤さんや渡辺さんの援護もなく俺の独壇場だ。まあでも、本当に喧嘩をしたいわけではない。このあたりでフォローに回るか。


「でもコレは案外助かりそうだよ。最初は投げ返してやろうかと思ったけど、ありがとな」


 コレとは、タクミが俺に握らせた蜥蜴の尻尾だ。コレがなんと、怪しい置き物ではなくれっきとした魔法のアイテムだったのだ。持ち手をしっかり握って魔力を込めると、ピチピチと尻尾が動くのである。


 ……言いたい事はわかる。お土産としては、結局どうしようもないタイプに分類されるのは認めよう。

 しかしこれを、基礎魔法や魔力の流れを掴む練習として捉えると、意味合いが変わってくる。まず、魔力の流れがきちんと通っていなければ、尻尾はうなだれたままで動かない。

 そして、上手に魔力を流し込むほど、尻尾は踊るようにイキイキと跳ねる。まさにダンシングなテールなのだ。


 しっくりと手に馴染む持ち手は集中力を高めてくれるし、よく見れば可愛いげのあるフォルムだ。しかも、仕組みは本物の魔法の武器と同じなのだという。

 将来的に、ちゃんとした魔法の武器を手にする機会がもしあれば、その時に応用も効く。なんとも夢の広がるアイテムだ。

 この手の基礎魔法習得用オモチャは、この世界のお土産における便乗タイプの代表格らしい。手を変え品を変え、至るところで見かける事が出来る。

 それでも、今の俺にとっては便利な代物だ。自分の魔力に反応してはしゃぐ尻尾は、なんだか喜んでいるようで愛着が沸いてくる。


「うねうねした尻尾を見つめてにやけてるとか、本当にキモいんだけど」

「うるさいな。タクミからお菓子のお土産しか貰えなかったくせに」

「なんですって……タクミくんからのお土産じゃなかったら、魔法でこま切れにしてるとこよ」


 さっきまでは大人しくしていた渡辺さんが、タクミに微妙な配慮を見せつつ恐ろしいことを言う。何より驚いたのはこま切れ発言だ。

 もう既に、ちょっとしたモノをこま切れに出来る程度の魔法が使えるなんて。今後の対応を改めた方が良いかもしれない。


「放っておいたらソレに名前でもつけちゃうんじゃない? やめてよね」

「流石に名前なんて付けるわけないだろ、ハハハ」


 危ない……ちょっとだけ考え始めていた、なんて言えない。


「ところでこれから行く鍛冶屋さんってどんなところなの?」


 話の煮詰まってきたタイミングで、斉藤さんがリィナさんに話を振る。こういう切り替えのバランスは見習いたいところだ。スルースキル、とも言う。


「王家や騎士にもファンの多い一流の工房ですよ。私も実際に足を運ぶのは初めてなので楽しみです。職人をまとめている親方さんは、とても厳しい方なのだそうです」

「へぇ~! なんとなくすごい髭で無口なタイプを想像しちゃうかも。ザ・頑固親父みたいな!」


 わかる~! と盛り上がる女子達。楽しそうでなによりだ。ただ、この社会科見学に関しては、突貫工事の感が否めない。

 当初の予定では、同じ高校出身の留学生全員で、王城見学を予定していたはずだ。それが、当然のように各班に分かれて各地の見学に切り替えられている。

 理由は簡単、タクミが持ち帰った聖剣の欠片である。これを、一刻も早く王家御用達の鍛冶屋に見せて鑑定してもらう為だ。その証拠に、案内役と称してにこにこ顔の騎士団長さんが同行している。他の班は、各授業の担当講師だとかうちの学校の先生が付き添いなのに、だ。

 おそらく、一連の流れを手配したのはこの騎士団長さんだろう。手腕といい、思考を読ませない物腰といい、やはり騎士団長にしておくには惜しい。


「おや、私の顔になにか付いているかね?」

「いいえ、そういうわけでは」

「瀧本くん、君にはアレックスが良き友人としてお世話になっていると聞く。これからもよろしく頼むよ」

「父さん、目の前でそういうのはやめてくれよ」

「む、良いではないか。勇者殿は流石だが、ユーキも凄いヤツだと嬉しそうに言っていただろう! わっははは!」


 初日のゲートで待ち構えていたうちの両親を思い出す。頑張れアレックス。気持ちは痛いほどわかるけど、お前の父さん、仕事は別にして多分凄くいい人だぞ。


「おう、いきなり押し掛けてきやがって。こちとら迷惑してんだ!」

「うわ、すみません!」

「いいからさっさと入れ。おらよ、冷たい茶でも飲みやがれ!」

「え、ありがとうございます……?」

「勘違いすんなよ、余ってた茶がたまたま冷えてただけだ!」

「はあ……」

「けっ、捨てずにすんでせいせいすらぁ!」


 親方さんは絵に書いたような髭面の頑固親父だった。そのくせ、社会科見学という響きと、学生達の訪問というイベントはまんざらでもないらしい。

 お茶を冷やして待っていてくれたばかりか、椅子もきっちり人数分。どこの世界にも、ツンデレさんというのはいるものなんだな。


「おう、それでなんだ。どいつだよ聖剣様ってのはよ。ほれ、早く貸してみろ、悪いようにはしねぇからよ。へっへっへ」


 あ、なんか違う。頑固親父がハンドル切って、変態のチンピラさんになってきてる。悪いようにはしねえぜとか言う人が、悪いようにはしなかった事なんてあるものか。

 俺自身もつい最近、悪いようにする気満々でタクミにそんな台詞を吐いた記憶がある。この人に聖剣を差し出すのは、心配な気がしてきた。


「これです、よろしくお願いします!」


 警戒心ゼロかよ勇者様!

 いや、騎士団長さんとかリィナさんも一緒だし、間違いはないんだろうけどさ。第一印象って大事じゃないかな?


「これは凄い……早速見ても構わないかな?」


 親方さん、テンションによって別人みたいなんですけど。どれが素なのかわからなくなってきた。

 この物腰柔らかな感じが、意外と素だったりするのかな。ころころ変わっておもしろいけど、もう少しまとめてきてほしい。

 失礼な思考を垂れ流す俺を置き去りに、聖剣の鑑定が進められていく。会話を断片的に拾う限り、本当に本物らしい。迷宮のお土産屋さんによる、壮大な仕込み説も捨てきっていなかった俺としては、実に残念だ。


「それが本物だとして、そうするとどうなるんですか?」


 本物でした、めでたしめでたしで済むわけがない。問題はここからだ。


「とりあえずこっちで整えさせてもらうぜ。聖剣様っつってもだいぶ長い間、眠ってたみてぇだからよ。気持ちよく起こしてやらねぇと」


 あ、職人モードに戻った。でも残念、俺が聞きたいのはそっちじゃない。


「6つに分かれた欠片とかって聞きましたけど、他のも集めたりするんですか?」

「うむ、この欠片だけでも強い力を持っているようだが、集めねばな」

「大変そうですね」

「なに、心配はいらない。既に国内外で情報収集にあたるよう指示は出しているよ」


 この剣が見つかったのは、ついさっきの午前中のはずだ。もう指示出しが終わっているとか……この人、やっぱり騎士団長より向いてる仕事が色々ありそう。もしかして、諜報部か何かから引きぬかれて騎士団長になったのだろうか。


「情報が集まり次第、探索に向かう流れだな。まあタクミ殿のスケジュールもあるから、これは追々と……」


 そう、俺が聞きたかったのはここだ。やっぱりタクミも連れていく気なのか。まあ聖剣抜いちゃった張本人だし、そんな気はしてたんだけど。


「この留学中には難しそうですよね、残念ですね」

「ふむ。まあ学校の終わった後や、少しすればナツヤスミというのもあるのだろう?」

「ありますけど、学生は学生なりに忙しくしてますからどうですかね。ハハハ」

「そうかそうか、まあタクミ殿に無理のないように合わせるつもりだよ。心配はいらない、わっははは!」


 無理矢理連れてったりしないで下さいよ、と暗に匂わせる俺。あくまでも、連れて行く事が大前提の姿勢を崩さない団長さん。俺は、柄にもなく異世界の権力者に火花を飛ばしていた。

 最終的にはタクミの意思次第だとは思う。思うけど、命に関わるような話はせめて高校生の間はやめてほしい。放課後にちょっと異世界で死にかけた、なんて笑えやしない。


 当の本人はというと、鍛冶工房の見学に夢中でそんなの知ったこっちゃない感じだ。楽しそうでなによりである。


「おじさん、これやってみたい!」

「ばかやろう! 素人が手ぇ出すんじゃねぇ!」

「うう……でもハンマーを振ってるのって凄くかっこいいし、教えてもらいたいんだ」

「へっ、何がかっこいいだ。おう、途中で投げ出しやがったらタダじゃおかねぇぞ!」

「はい、おじさん!」

「親方と呼びな」

「親方!」

「返事だけは一人前だな、このやろう!」


 親方、口調とは裏腹にめちゃくちゃ表情ゆるんでるよ。ちょっとかっこいいって言われたくらいでハンマー渡しちゃうとか、親方としてどうなの。めちゃくちゃ、ちょろいんですけど。


 騎士団長さんは、それ以上何も言わなかった。ひとまずは無事に聖剣を預けて一安心というところなのだろう。

 一段落のついた俺は、工房を見て回る事にした。騎士の家系らしく、アレックスがあれこれと解説しながら付いてきてくれる。

 タクミはすっかり弟子入り状態。女子3人はしばらくそれを見ていたものの、今はおしゃべり中だ。


 社会科見学ってこんな感じでばらつくんだよな。それらしい雰囲気にはなっているし、みんな楽しそうだ。俺はピチピチ動く尻尾を片手に、隅々まで鍛冶工房の見学を楽しんだのだった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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