第六話:僕と、騒がしい夢
奇妙な夢を見た。
果てがないほど広く、眩いばかりに光る、社殿のような荘厳な部屋があった。そこには年齢も姿形も様々な子供が何千とひしめき、気が狂いそうなほどざわめていた。
そこに、ひどく乱暴で凶暴な子供が一人いた。赤銅色の肌に、くすんだ灰色の蓬髪。灰色の目が狼のように鋭く睨みを利かせ、いかにも暴力的な肢体が、ふんぞり返って突っ立っている。
この子供の周囲だけ、シンと静まり返っていた。それもそのはず、腕を組んだ子供が立っているのは、倒した子供たちが積み重なってできた山の上なのだ。その数、数百を越えるかというほど。そのため、くすんだ灰色の頭だけが他の子供たちよりも高いところにあり、睨みつければ誰も彼もが黙りこんだ。
ガキ大将、と呼ぶにはいささか恐ろしすぎる様相をした子供は、フンとつまらなそうに鼻を鳴らして、あぐらをかいた。
「けっ。チクショー、このアタシに勝てるやつはいねーのか!」
どっかと音が鳴りそうな勢いで落とした尻の重みに、真下になっていた子供がうめく。少女と思われる子供はうるせぇとその頭を殴りつけ、退屈そうに鼻をほじくる。
「あーあ、母ちゃんは出かけてばっか、父ちゃんは仕事ばっか、アニキたちと来たら遊んでばっか。なんて家族だ! おかげでアタシが弟やら妹やらの面倒を見なくちゃならねぇんだから、まったく」
「ねぇちゃん、おっしこー」「腹減ったー」「どっか行きたいー」「ばぶーばぶー」
「うるせぇ、とっとと寝ちまえやがれクソガキども!」
一喝。響き渡った声は、ビリビリと子供たちの鼓膜を揺らした。霹靂の恫喝は、一瞬で子供たちを気絶させるほどの威力があった。
ばたりばたりと、社殿の中に子供たちの絨毯ができあがる。広々とした部屋は一気に静かになった。
「けっ。最初っからこうすりゃ良かったんだ」
鼻くそを飛ばしたところで、社殿の扉が重々しい音を立てて開いた。
「ただいま、私の子供たち!」
「おかえり、おかーさま」
少女はただ一人、喜色満面に入ってきた女を立ち上がって迎えた。
「これは――」
ふくよかな身体つきをした女は、死屍ならぬ子子累々と横たわる子供たちを見て、その山の上に乗っている一人の子供を見て、笑顔を消した。
「これは、どうしたこと!」
悲鳴じみた叫び声に、腕に抱いていた赤子がけたたましく泣き出す。それを慌ててあやしながらも、ギンギラと目を光らせて、退屈そうにしている少女を睨みつけた。
「おまえの仕業かえ」
「御技と言ってほしいな、おかーさま。みんなてんで弱すぎるんだよぉ」
「痴れ者! 弟や妹を苦しめて楽しいか!」
少女はむすっとして、山から飛び降りた。
「なにさ、そっちこそ次から次からポンポンポンポン産みやがって」
そして泣き喚く赤子を見下ろし、おもむろに腕を振り上げる。
「赤ん坊を泣き止ませるには、これが一番だ!」
「おやめ!」
女はとっさに赤子をかばった。振り下ろされた少女の拳は女の腕にめりこんだ。
あっと少女が目を見開く。女の口に牙が生え、角が生え、鬼のごとく様になっていくのを呆然と見つめた。
「出ておいき! それほど喧嘩がしたくば、外でしや!」
そして扉が強風に煽られたかのように開き、少女を吐き出した。
「ただし母を殴ったその腕、無事でいられると思うなっ」
母さん、と社殿から転がり出た少女が小さく呼ぶ。閉まっていく扉の向こうで、母親は悲しげに背を向けた。