雪夜
カーテンに指をかけ少しだけ開いて窓を露わにするとキンとした寒さが肌を刺す。
明かり一つない室内に比べ、外は明るくその様子がハッキリと見えた。
「はらはら」というより「しんしん」という音が聞こえてくるような降雪。
つい一時間前までは足跡だらけだった道が、すっかり真新しい雪で覆われている。
そう一時間前も見た、道。
約束の時間は1時間前。
少し離れたテーブルに無造作においていた携帯のディスプレイは暗いまま。
電話の着信も、メールの着信も、ない。
「来るって、言ってたよな」
そんなことを呟いてみても返事はない。自分も答えを持っていない。
返事も答えもない問は、雪夜の静けさの中、寒さ以上に俺に刺さる。
「やめた」
誰に言うわけでもない、自分に言い聞かす為だけに諦めの言葉を吐いて、窓から離れる。
バカみたいだと思った。
「寂しい」と少し感傷的なメールをすればすぐに返事が来た。
一時間前の時間を指定していたメール。そこには「待ってろ」の一言。
嬉しかった。すごく、嬉しかった。
今日、一緒に過ごすと言っていた彼女を置いて、オレのために来てくれるのだと。期待した。
やっぱり、バカみたいだ。
当たり前だ。こんなひどい雪の夜更けに、アイツがここに来るわけがない。
彼女に引き止められれば、あっさりと天秤を彼女に傾けるだろう。
そんなこと、頭ではわかりきっていたのに。
降り積もっていく真っ白な雪に、アイツへの想いを重ねて、たまらなくなって助けを求めた。
自分の身体の中にある愛が、雪のように真っ白であればよかった。
純白の、汚れのない愛情。それは、希望。
現実は、黒くドロドロとした愛情が身体中に蠢いている。
それは一種、憎しみのようでもある。
そんなモノを雪と重ねるなんて、俺はバカだ。