五 鴨川沿い
(小吉の馬鹿野郎!)
りんは無性に腹が立ち鴨川の暗闇をずんずん歩いた。それに『そんな者では』と言おうとした小吉の言葉が悲しかった。
(そりゃ・・・俺は男さ・・・でも、お船様がいくさ場まで着いて行けるか!命が果てるまで側にいれるか!・・・子供は産めないけど・・・)
りんの目に涙が溜まっていた。
川端の土手に沿って人の付けた道を歩く。月の明かりで、向こうから二人の人影がやって来るのが見えた。
すれ違うとき、りんは道を譲るために草むらに一歩踏み出した。しかし、一人が同じ方向に踏み出す。りんはまた一歩横に踏みだし避けようとしたが、また前を塞がれる。間近に向かい合った上背のある男がりんの顔を上から覗く。浴衣を着流して遊び人風だ。
「ほう、こいつは上玉」
「申し訳ありません。先を急いでおりますのでご免下さい」
擦り抜けようとするりんの両肩にそやつは手を掛けた。
「いくらじゃ?弾むぞ」
りんは言った。
「俺は腹の虫の居所が悪いんじゃ!他を当たれ!」
「何!このこわっぱが!」
男はりんの小袖の肩を掴み川の方に引きづろうとした。
「あの船の上で可愛がってやるわ!その様子では、ここの『掟』を知らぬ新参者であろう!」
男は繋いであった小舟にりんを乗せようとした。りんは男の手を軽く捻り小袖から離すと、逃げるでもなく自分からふわりと飛んで小舟に降りた。きょとんとしていた男は、腕をぶらぶらさせながら笑って小舟に乗り込んだ。
「良い子だ・・・大人しくすれば痛い目に会わぬものよ・・・」
言い終わらぬうちに男の手がりんの懐に伸びたが、
「うわーっ!」
次の瞬間、男の体は大きく弧を描いて派手に水中に落下した。
それを見たもう一人の男は、慌ててもと来た道を駆け出して行った。
助けを求める男に櫂を差しだし、船の縁に取り付かすと船を飛び降り、りんは再び歩き出した。
少し行くと、月明かりにふと足を止めてしばらく河面を眺めていた。
(・・・子供が産めなけりゃ・・・小吉さんだっていつか俺に飽きるよな・・・年取れば俺なんか・・・)
また悲しくなってきた。
世の中の暗闇で育った自分など、小吉にとって取るに足らない存在だということは分かっている。
どうしようもないことだが、悲しい・・・