二 稚児風
神社仏閣の多い京都は、平時にはしょっちゅう祭りがあちこちにある。また、三条、四条の河原には道々の者、大道芸人、河原者達が種々の小屋や幔幕を張り、飾り物の販売、踊りや芸を見せる。
慶次郎は今夜は上洛中の上杉景勝の大家老、直江兼続の屋敷に連歌の会に呼ばれている。
小吉はお供しようと身繕いしていたが、
「小吉。今夜はよい」
「え・・・しかし、一人では・・・」
「松風(慶次郎の愛馬)がおる。今日は祇園で屋台が立つであろう。りんと行ってこい」
「えっ!二人で祇園に行けるの・・・?!」
「うむ・・・お前と行ってこいと前田様がおっしゃってくれた」
りんはうれしさを満面に浮かべた。
「小吉さん、四条に河原踊りと芝居が立つんだ・・・それにも行きたいな」
「あ・・・ああ。お前の好きなものを見よう」
「俺・・・着替えてくる!」
りんが着替えた姿を見て、小吉は唾を飲んだ。
いつもの浅黄の小袖ではなく、薄い桃色の麻の生地の小袖に萌葱の膝までの短袴を着ている。短袴は、腰横の切れ目が大きく、膝の裾は朱の細紐で括れるようになっている。今、京都の若衆の間で少し緩めに括るのが流行だ。
これは寺社にいる稚児の装束を真似ているもので、『稚児風』と呼ばれる衣装である。
髪は後ろに長く垂らし、首の辺で小吉が与えた紫の絹紐で巻いてある。足はすべやかな素足に草履を履いている。
小吉は困った。
りんは小吉のためにめかしているのだが、これでは本当に稚児を連れて歩いていると衆目には映るだろう。それも飛び切りの美しい若衆(恋人)を。
りんは流行に敏感で、小吉に喜んで貰おうと常に身繕いを意識している。いや、小吉に嫌われまいと努力をしているのだ。
「・・・小吉。俺、変か?」
あまり小吉がうれしそうな顔をせず、りんの姿を見ながら黙っているので心配になった。
「い・・・いや!そ・・・そんなことはない!」
女だったら躊躇無く、賛美の言葉をかけるだろう。
しかし、りんの将来を案ずる小吉は言葉を飲んだ。
生涯を誓ったが、儂は武将、前田慶次郎の一の家来。主よりも先に死ななくてはならぬ。だが、この戦乱の世をりんには生き抜いて欲しい。だから儂とはいつか、儂の死を以て別れなければならぬ。
それでもうれしそうにするりんを連れて、伏見から上京の四条河原に向かった。